RFID付きパレットがインドシナ半島2000キロを横断
岡田 大助
@IT編集部
2008年2月21日
タイやベトナムに現地工場を持つ日本企業も多い。RFID付きパレットを使って部品輸送の効率化は可能か。タイ−ラオス−ベトナムを陸路でつなぐ実証実験が行われた(編集部)
2007年11月から2008年1月まで3回にわたって、経済産業省と国土交通省によるインドシナ半島(メコン地域)の陸路によるトラック国際物流の実用化走行実験が行われた。この実験では、物流容器の1種であるパレットにRFIDタグが貼付され、物流過程のトレーサビリティの可能性も検証された。
タイの首都バンコクから、ベトナム北部のハノイまで約1600キロ、南部のホーチミンまで約2200キロ。通過国となるラオスでは、初めてRFIDの電波が発信されるなど画期的な実証実験となった。
実証実験における走行ルート(国土交通省の資料より) |
実際に現地で実験に参加した、日本パレットレンタル情報本部JPRイノベーションセンターの吉田拓馬氏にお話をうかがった。
国交省、経産省がメコン流域の国際物流を狙うわけ
経済産業省の「海外事業活動基本調査」によれば、過去10年間で海外に進出した日本企業数はタイで約1.3倍、ベトナムで約2.1倍になっている。また、アセアン諸国は2015年を目標に経済統合を進めている。
ベトナムには、今回の実験に参加した東芝やヤマハ発動機など多くの日本企業が組み立て工場を展開している。また、タイには部品の製造工場がある。
従来、部品の輸送には10〜14日がかかる海上輸送か、コストの高い航空輸送が行われていた。しかし、ラオスを通過してインドシナ半島を横断するトラック輸送が実現すると、輸送期間が約4日に短縮される。
日本政府はODA援助活動として、タイ−ラオス−ベトナムを結ぶ「東西経済回廊」の整備に注力している。2007年12月20日には、ラオス中南部のサバナケットとタイ東北部のムクダハンを結んだ国境の橋「第二メコン国際橋」も完成した。建設時には、日本人3名を含む9名の犠牲者を出す事故もあった橋だ。
このような背景から、国土交通省と経済産業省は国際物流競争力パートナーシップ会議を開催し、日本の東南アジアにおける国際物流競争力の強化および日本を含めた東アジア経済統合を目標とした行動計画を策定した。今回の実証実験もその計画の一環である。
実証実験では、新たな陸上輸送のルートを実際に貨物を積載した車両で走行し、インフラの整備状況の確認、リードタイムやコストの短縮、それによる生産性の向上といった経済効果を検証した。合わせて、RFIDを使った流通の高度化だけでなく、輸出入通関手続きの電子化に向けた実証実験やセキュリティ強化に向けた取り組みなども行われている。
【関連リンク】 メコン地域陸路実用化実証走行試験 |
複数国をまたがって移動するパレットを追跡できるか
日本パレットレンタルでは、1980年代からアジアパレットプール(APP)と呼ばれる国際間のパレットレンタルシステムを稼働させている。パレットをレンタルすることで、使い捨てになってしまうワンウェイパレットに比べてコストも安くなり、環境保全にも貢献できる。
コンテナを使った物流には、1つのコンテナを荷主1社が丸ごと利用するフルコンテナロード貨物と複数の荷主で混載するレスコンテナロード貨物の2種類が存在する。吉田氏によると、今回の実験はタイ、ラオス、ベトナムという3国をまたがるトラックを使った国際物流で初めて混載を行った事例になったという。
「タイからラオス、あるいはラオスからベトナムといった隣国までは同一のトラックで荷物を運ぶことができます。しかし、タイからラオスを経由してベトナムまで行くためには途中で別のトラックに乗せ変える必要があります。それで、これまで混載が認められていなかったのです」
吉田拓馬氏 日本パレットレンタル情報本部JPRイノベーションセンター |
また、RFIDを使うことも「ラオスでは初めて、ベトナムでもおそらく2例目だったのでは」という。特にラオスでは、実験用の無線免許が実験当日に届けられた。実運用を始められるようになるまでには、ラオス国内の電波法の整備など課題は多いようだ。
RFIDタグの読み取りは、バンコクの工場出荷時、第二メコン国際橋のラオス側の町であるサバナケット(トラックの変更も行われた)、ベトナムのハノイにあるヤマハ発動機の工場およびホーチミンにある東芝の工場の入荷時に行われた。
ヤマハ発動機の工場(ハノイ)における入庫検品の様子 |
パレットの追跡は、日本パレットレンタルが提供するASP型Web物流機器在庫管理システム「epal」で行われた。吉田氏は、「実際に現地で、輸送中のパレットの数量やいつ、どこを通過したのかというトラッキングができたことは大きな成果です」と語る。
なお、実験で利用されたのは、EPCglobal Gen2規格に準拠したUHF帯RFIDシステムだ。パレットには、メインで使うためのRFIDタグとバーコードを印刷したシールと、バックアップ用のEPCコード、バーコード、ニ次元バーコードを印刷したシールの2種類を貼付している。
RFIDリーダは、台車に乗せたノートPCにハンディ型アンテナを接続したものを利用した。PCに蓄積されたデータは、国際携帯電話を使ってepalに送信された。なお、実験で使われたRFIDリーダは東京都江東区に開設したJPRイノベーションセンターで見ることができる。
東芝の工場(ホーチミン)における入庫検品の様子 |
パレットをレンタルして再利用するためには、パレットの所在を正確に管理することが必要となる。2008年1月に行われた3回目の実験では、ベトナムの工場から空パレットを回収してタイまで戻す検証が行われた。
インドシナ半島において、RFIDタグ付きパレットを使った物流の効率化が実現するまでには、まだ多くの課題を解決しなければならないだろう。しかし、今回の実験では実際に電波を出すことに成功し、荷物の追跡がほぼリアルタイムで可能であることが分かった。これは大きな一歩となるだろう。
ベトナムの入り口となるラオバオではバーコードを読み取った |
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