第1回 RFIDシステムへの期待と現実


布施 圭介
ソーバル株式会社
ワイヤレス事業部
フィールドエンジニアリンググループ
ユビキタスプラットフォーム開発チーム
課長
2007年2月9日


 RFIDの難しさ―不確定要素とその対応

 本記事の冒頭で人の適応性、柔軟性は、周辺環境に対する感受性であると指摘しました。実は同じようなことがRFIDにもいえます。

 RFIDは、電波を利用することによる多くの長所がありますが、短所もあります。例えば、同時にほかの電波の影響を受けてしまうのは不可避です。また、電波は目に見えないため影響を及ぼす状況変化も見えません。多くの場合、読み取り速度の低下やエラー増加などから間接的に状況変化に気付くことになります。たとえ実験時に成功したとしても、外部要因の影響を受けやすい性質は本質的に持ち続けているのです。

 システム設計の要件として、不確定要素は扱いにくいものです。確定要素ばかりで想定どおりに動作するのであれば、スループットから費用対効果までを具体的に計算できます。しかし、実際にはさまざまな要因により不安定方向にブレてしまい、思いのほか効果が上がらない場合も少なくありません。またその要因が複数混在していると相互に影響し合ってさらに不安定な範囲が広がる傾向になります。

 外部要因は不確定要素の最たる例でしょう。もちろん周辺環境や運用方法などでそれらの要因を減らすべきですが、完全に安定した環境を作るのは不可能ですし、運用中の変動要素まで事前に考慮に入れるのは容易ではありません。特に人による操作がシステムフローに含まれる場合は、システム側に耐周辺環境性を持たせて対応する場合が多いと考えられます。

 RFIDシステムに高い信頼性が要求される場合、一般的には下記のような方法があります。

1. リトライ

 読み取りエラーが発生した場合、同じリーダ/ライタで再度読み取る方法です。この方法では、突発的な要因によるエラーであれば回復できますが、継続性のある要因の場合は繰り返しエラーになり、大きくスループットを損ないます。

2. 多重チェック

 複数のリーダ/ライタを使うことで信頼性を上げる方法です。この方法は、リーダ/ライタの配置を工夫することで各リーダ/ライタの周辺条件を変え、同一要因によるエラーの発生を防ぎます。しかし、リーダ/ライタを複数用意するために場所とコストが掛かります。また、広い範囲で電波障害が発生した場合はエラーを回避できません。

3. 相互チェック

 別システム(例えばバーコード)を併用し、エラー時にはそれぞれのデータを比較することで信頼性を上げる方法です。しかし、複数システムを同時に運用するため、コストが問題になるでしょう。もし、システムに100%(に限りなく近い)信頼性が求められている場合は、上記に加えて人による目視検査も追加することもありますが、当然さらなる追加コスト(人件費など)が掛かってきます。

 このように、信頼性、つまり耐周辺環境性と性能(スループット)、コストはトレードオフの関係にあります。

 リトライ方式では、リトライ回数を増やせば読み取り率は確実に向上しますが、リトライ回数に比例して読み取り時間も増加します。多重チェック方式は、リトライを複数リーダ/ライタで分担しているとも考えられますが追加コストが発生しますし、設置場所も必要になります。極端な例ですが、相互チェック方式のようにシステムの信頼性を上げるために追加人員が必要になるような本末転倒な事態も起こり得ます。

 RFID導入成否の鍵は?

 もちろん、RFIDを導入することで、従来のバーコードなどと比べても高信頼かつ高スループットのシステムを構築した成功例は多くあります。一方、実験で不安定さが解決できず、RFIDシステムの費用対効果が期待できないと本格導入に踏み切れない例も見受けられるようです。

 RFIDの導入が成功する場合とそうでない場合の違いは何でしょうか。周辺環境の整備の差でしょうか。

 そんなことはありません。どちらの場合でもでき得る限りの周辺環境整備を行っている例がほとんどです。それでも結果に明らかな差が出るのはICタグとリーダ/ライタの使いこなしが原因だと考えられます。

 今回は、人とコンピュータの得意分野からRFIDの特徴、導入時の問題点などを説明しました。次回は、RFID導入の成否の鍵を握るICタグやリーダ/ライタのチューニングについて解説します。このチューニングによってRFIDの本来のパフォーマンスを引き出し、懸案であった速度と安定性の両立を図ることが可能になります。

3/3
 

Index
RFIDシステムへの期待と現実
  Page1
何のためにシステムを導入するのか
デジタル化社会が期待するRFID
  Page2
RFIDの理想―RFIDの得意分野と業務の効率化
RFIDの現実―エラーによるパフォーマンス低下
Page3
RFIDの難しさ―不確定要素とその対応
RFID導入成否の鍵は?


Profile
布施 圭介(ふせ けいすけ)

ソーバル株式会社
ワイヤレス事業部
フィールドエンジニアリンググループ
ユビキタスプラットフォーム開発チーム
課長

市販アプリケーション開発に始まり、アルゴリズム研究、IPv6コンテンツ配信実験、技術サポートなど多様なプロジェクトを経験。ハードウェア制御ドライバからアプリケーションに至る幅広い開発経験に基づき、現在はRFIDの周辺ソフトウェア開発チームを担当。

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