第1回
RFIDシステムへの期待と現実
布施 圭介
ソーバル株式会社
ワイヤレス事業部
フィールドエンジニアリンググループ
ユビキタスプラットフォーム開発チーム
課長
2007年2月9日
RFIDの理想―RFIDの得意分野と業務の効率化
データ入力の最も基本的なデバイスとしてキーボードがあります。キーボードという入力デバイスを介して現実世界の情報をコンピュータに入力するわけです。また、バーコードも一般的な入力デバイスです。そして、いま着目されているのがRFIDです。
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表3 データ入力の種類 |
RFIDは、ICタグとリーダ/ライタで構成されます。代表的なパッシブタグとリーダ/ライタ構成の基本読み取り動作は下記のようになります。
- リーダ/ライタから電波でICタグに電力を供給
- ICタグがその電力を利用して電波で応答
- リーダ/ライタがその電波を受信してICタグのデータを取得
このように電波を媒体としてデータをやりとりするのがRFIDの特徴です。電波は可視光と違って紙や木などを通過しますので、電波を利用するRFIDは直接見えないタグを読み取ることができます。また、タグが複数存在しても一度にまとめて読み取りができることも大きな特徴です。このようにRFIDは自由度の高いデバイスです。
ある商品が箱に入っている場合を考えます。その商品と箱にはそれぞれシリアル番号、バーコードとICタグが張ってあり、箱の中には複数の商品が入っているとします。ここで箱と商品の情報データ化について考えてみましょう。
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表4 データ入力の所要時間 |
このようにICタグを利用することで、非常に大きな作業時間の短縮効果が期待できます。これは、入力業務(データ化)におけるRFIDの省力化効果の例として分かりやすいものです。
特に、箱の中の商品やほかの箱まで一括で読み取れる特徴の効果は大きく、仮にバーコードとRFIDで読み取り時間が同じだとしても、1箱当たり商品が10個入っているとすれば、単純に読み取り効率は10倍になります。さらに、箱を開け、個々の商品を取り出して読み取り後に元通りに箱に戻す作業を考えればまさにけた違いの効率です。
ですが、実際に期待どおりの省力化、効率化、高速化効果は上がるのでしょうか?
RFIDの現実―エラーによるパフォーマンス低下
理想的な条件時に設計どおりのパフォーマンスが出るのは当たり前です。しかし、実運用時にはさまざまな要因によって条件が変動し、パフォーマンス低下が起こるものです。前述の箱と商品の例では、各作業フェーズでのエラー発生を無視して現実のパフォーマンスは測れません。
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表5 入力方法とエラー要因 |
単純化した例ですが、現実のパフォーマンスP(処理/秒)は下記の式で表せます。
e : エラー率
I : システムの理想的パフォーマンス(処理/秒)
R : エラー対処パフォーマンス(処理/秒)
エラー対処パフォーマンスRは、エラー発生時の処理パフォーマンスです。これは、通常時の数倍から数十倍掛かることも珍しくありません。
例:通常はICタグの自動読み取り(数十ミリ秒)を行い、エラー時はシリアル番号を手入力(数秒)する場合
処理時間(秒/処理)に着目すると、
となり、両辺の逆数を取ればパフォーマンスPは、
となります。
ここで、e=1%(=0.01)、I=10、R=1とすれば、
となります。エラー率がわずか1%でも、現実のパフォーマンスは理想的パフォーマンスの約92%になります。
さらに、e=5%(=0.05)であれば、
となって、約69%にまで大きく落ち込んでしまいます。
このように、エラー率はエラーを加味した現実のパフォーマンスに大きな影響を与えますし、再エラー(エラー対処時に発生したエラー)まで考えると、さらにパフォーマンスは低下することになります。
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Index | |
RFIDシステムへの期待と現実 | |
Page1 何のためにシステムを導入するのか デジタル化社会が期待するRFID |
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Page2 RFIDの理想―RFIDの得意分野と業務の効率化 RFIDの現実―エラーによるパフォーマンス低下 |
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Page3 RFIDの難しさ―不確定要素とその対応 RFID導入成否の鍵は? |
RFIDシステムのチューニングポイント 連載インデックス |
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