プライバシーに配慮したRFID利用の実現
小向 太郎
株式会社情報通信総合研究所
法制度研究グループ
上席主任研究員
2007年2月26日
RFIDタグを消費者レベルまで運用すると、新しいサービスが創出できるだろう。しかし、同時にプライバシー保護をしっかり行わないと、不要なトラブルを招く事態となる(編集部)
RFIDタグが注目されている。極小のチップが実用化され、コストも下がってきている。RFIDタグとは、特定の物を識別するためにRFID(Radio Frequency Identification:電波を利用した非接触の個体識別技術)を利用したデバイスの総称であり、広い意味では非接触型ICカードも含まれる。
しかし、一般にRFIDタグと呼ばれるのは、ケシ粒大の極小ICチップにアンテナを組み合わせて、無線で情報のやりとりができるようにしたものである。無線ICタグ、ICタグ、無線タグ、電子タグなどと呼ばれることもある。
ユニークなコードを持ったタグを製品やパッケージなどに張り付けておけば、リーダ(読み取り装置)のそばを通る際にタグの情報を読み取ることができる。
現在、主に工場内における製造過程や物流過程で利用されているRFIDタグだが、使い方によっては一般の消費者にとってもメリットをもたらす。しかし、同時にプライバシー保護の問題も検討しなければならない課題である。
本稿では、RFIDとプライバシーに関連する法律やガイドラインを紹介しつつ、RFIDタグの利用を消費者レベルまで広げた場合に、どのようにプライバシー保護に取り組むべきかを解説する。
RFIDの楽しい話
RFIDタグは、製品の製造管理、食品などのトレーサビリティ(生産履歴の追跡管理)、万引の防止などに利用されている。しかし、今日では商品が販売され、消費者の手に渡った段階でRFIDタグが無効化されることが多い。それは、プライバシー保護にメーカー側が配慮しているからだ。
消費者も商品に貼付されたRFIDタグをそのまま利用できるならば、どのようなメリットがあるだろうか。例えば、書籍やCDなどのライブラリ管理や冷蔵庫にある食品のリストなども容易に作成できるようになる。すべての書籍にユニークなタグが付くようになれば、蔵書のリストなどは一瞬でできるだろう。あふれる書籍の整理に悩む人にとっては、大げさでなく夢の技術だろう。
このほかにも、電気製品にリーダをかざすとインターネットから簡単に取扱説明書が取得できるようにしたり、洗濯機が衣服に付けられたタグを読み取って自動的に洗い方を選択するようにしたりすることもできる。
また、買物の精算を自動化したり、飲みあわせの悪い複数の薬が近くにあるときに自動的にアラームを出したりといった多種多様な利用方法が考えられている。製品が廃棄された後の分別も自動的に行い得るため、製品リサイクルを効率化することも可能である。
あるいは、商品ではなく道路や建物などの固定された場所にユニークなタグを付けることで、リーダを使って位置情報が取得できるようになる。現在、位置情報を取得する技術としてはGPSや携帯電話の基地局情報が使われているが、固定タグを使えばもっとメッシュの細かい情報を提供することができる。例えば、視覚や聴覚に障害のある人にこの情報を提供することで、より安全な移動が実現できるのではないかと期待されている。
RFIDの怖い話
一方で、RFIDタグが付いているモノの保有者が気付かぬうちに情報を読み取ることもできるため、不適切な利用をされると深刻だ。タグ自体には個人情報が含まれていなくても、タグに振られているユニークなIDを所有者の情報と結び付けて個人情報を収集できる可能性がある。
RFIDタグが、プライバシーや個人情報保護の観点から問題だというときに想起されるのは、例えば次のような場面である。
- 買い物をしても、電車やバス、タクシーに乗っても、映画館に入っても、常に自分が誰であるのかを勝手に確認されてしまう
- 初めて訪れた店なのに、自分の名前、嗜好(しこう)、服や靴のサイズ、自宅の住所などを相手が知っていて気持ちが悪い
- どこかで自分が興味を示した商品やサービスに関して、ダイレクトメールが大量に送られてきたり、セールス電話がかかってきたりする
- 自分の持ち物をかばんの中に入れていても、リーダを持った人に知られてしまう。電車の中でカバーを掛けて本を読んでいても、何を読んでいるのか知られてしまう
- 社員証や身分証明書にタグが埋め込まれて、常にどこで何をしているのか監視される
- 自分がいつも持っているモノにタグが付けられているため、知らないうちに行動を追跡されている
早い時期から、こうしたプライバシー問題を懸念する声は上がっていた。2003年にベネトンやジレットによるRFIDタグの実証実験の計画が報じられた。棚卸し業務の効率化や盗難防止のために商品にタグを付けるものだが、米国の消費者団体であるCASPIAN(Consumer Against Supermarket Privacy Invasion And Numbering)は、これに抗議する不買運動を起こしている。
CASPIANは、消費者が知らないうちに監視されたり追跡されたりするのは重大なプライバシー侵害であり、十分な説明がないままこのような技術を導入することは許せないと主張した。
彼らは2003年11月に「ポジション・ステートメント」というタイトルの文書を公表した。RFIDの利用に際して守られなければならない原則として、(1)公開と透明性、(2)使用目的の特定、(3)情報収集の制限、(4)法的な説明責任、(5)セキュリティの確保の5つを示している。
【関連リンク】 Position Statement on the Use of RFID on Consumer Products |
日本におけるプライバシー保護ガイドライン
日本ではRFIDタグとプライバシーの問題について、総務省と経済産業省が個別に検討を進めていたが、2004年6月に共同で「電子タグに関するプライバシー保護ガイドライン」を公表した。これは、RFIDタグ固有の性質から生じるプライバシーの問題について、「プライバシー保護の観点から適切な措置を講じることにより、電子タグが円滑に社会に受け入れられるようにすること」を目的として策定されたものである。
ガイドラインでは、「消費者に物品が手交された後も当該物品に電子タグを装着しておく場合」を直接の対象としている。また、「電子タグが装着されていることの表示等」(第3)、「電子タグの読み取りに関する消費者の最終的な選択権の留保」(第4)に関する規定を置き、事業者に消費者がRFIDタグを無効化する手段を確保することを求めている。さらに、「消費者に対する説明及び情報提供」(第10)など、啓発的な活動についても規定を設けている。
消費者の選択権は非常に重要である。ただし、物品を購入する際に、「この商品には追跡可能なタグが付いていますが、外しておきますか?」と聞かれたら、何らかのメリットがない限り「外してください」というに決まっている。従って、消費者にとって魅力的な利用方法が提供されるのでなければ、RFIDタグの利用は消費者に商品が渡る前段階の流通過程までに限られることになるだろう。
【関連リンク】 電子タグに関するプライバシー保護ガイドライン(PDF) |
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プライバシーに配慮したRFID利用の実現 | |
Page1 RFIDの楽しい話 RFIDの怖い話 日本におけるプライバシー保護ガイドライン |
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