解説 新Intel 845チップセットは何が変わった?―― 2003年前半のPCプラットフォームの実力 ―― 1. 新発表のPentium 4向けチップセット4種の実態 元麻布春男 |
2002年10月8日、IntelはデスクトップPC向けチップセットのラインアップを一新した(インテルの「Pentium 4用チップセットに関するニュースリリース」)。発表したのは、Intel 845PE、Intel 845GE、Intel 845GV、Intel 850Eの合計4種類である。いずれも533MHzのFSBをサポートし、2002年内に出荷予定のHyper-Threadingテクノロジ対応Pentium 4をサポートすることを明言している。ただ、どのような機能によって新しいチップセットがHyper-Threadingテクノロジ対応となるのかについては、いまのところ説明がない。
形としては4種類の新製品ということになっているが、Intel 850EはPC1066 Direct RDRAMが正式にバリデーション(検証)されたもので、チップセットそのものに違いはなく、型番自体にも変更がない(Intel 850EのPC1066対応については、「特集:Rambusは終えんを迎えてしまうのか?」を参照のこと)。すでに従来のIntel 850Eを搭載したサードパーティ製マザーボードの多くが、PC1066をサポートしており、しかもIntel純正マザーボードも非公式にではあるがPC1066をサポートしていたことを思えば、「いまさら?」の感も強い。そのうえ、サウスブリッジは相変わらずUSB 2.0をサポートしないICH2のままである。形式上のハイエンドPC向けという位置付けはともかく、IntelがIntel 850Eを積極的に拡販しようという意思はないと見るべきなのだろう。実際、大手PCベンダの中でIntel 850Eを採用したPCを販売しているのはデルコンピュータやエプソンダイレクトなど数えるほどしかない。
Intel 845シリーズのチップセット系統 |
新Intel 845は単なるマイナーチェンジ?
残る3製品も、既存の製品に対していくつか新しい機能を備えているが、まったくの新製品というよりはマイナーチェンジと呼ぶ方がふさわしいもののようだ。既存のIntel 845と新しくリリースされた新Intel 845シリーズの違いを、簡単に下表にまとめてみた。
Intel 845 | Intel 845E | Intel 845G | Intel 845GE | Intel 845PE | |
対応FSB | 400MHz | 400MHz/533MHz | 400MHz/533MHz | 400MHz/533MHz | 400MHz/533MHz |
サウスブリッジ | ICH2 | ICH4 | ICH4 | ICH4 | ICH4 |
対応SDR SDRAMメモリ | PC133 | − | PC133 | − | − |
同最大容量 | 3Gbytes | − | 2Gbytes | − | − |
対応DDR SDRAMメモリ | − | DDR-200/266 | DDR-200/266 | DDR-266/333 | DDR-266/333 |
同最大容量 | − | 2Gbytes | 2Gbytes | 2Gbytes | 2Gbytes |
ECCサポート | あり | あり | なし | なし | なし |
AGP | 4x(1.5V専用) | 4x(1.5V専用) | 4x(1.5V専用) | 4x(1.5V専用) | 4x(1.5V専用) |
内蔵グラフィックス(カッコ内は動作クロック) | なし | なし | あり(200MHz) | あり(266MHz) | なし |
BGA端子数 | 593 | 593 | 760 | 760 | 593 |
Intel 845シリーズの機能比較(一部) | |||||
全Intel 845シリーズについて比較した表は、「Intel 845シリーズの機能比較表」にまとめた。なお左のIntel 845が最も古く、右へ行くほど新しい製品である。 |
■グラフィックス機能内蔵型のチップセット「Intel 845GE」
まずIntel 845GEだが、型番でも分かるとおり、Intel 845Gの後継となるチップセットだ。Intel 845Gに対する主な改良点は、DDR-333(PC2700)メモリへの対応と、内蔵グラフィックス・コアの200MHzから266MHzへのクロック・アップの2点となる。一部のサードパーティがIntel 845Gで、すでにDDR-333メモリのサポートを行っていたことを考えれば、完全に新しい機能と呼べるのはグラフィックス・コアのクロック・アップだけ、ということになるのかもしれない。DDR-333メモリがサポートされた代わりに、DDR-200メモリとPC133 SDRAMのサポートが廃止されたが、これは供給量や価格の面で、DDR-266メモリとDDR-333メモリで問題ないという判断なのだろう。
■グラフィックス機能を内蔵しない「Intel 845PE」
位置付けとしては、内蔵グラフィックス機能をサポートしないIntel 845Eの後継ということになるIntel 845PEだが、チップセット・コアとしてはIntel 845Eの改良型というよりも、Intel 845GEから内蔵グラフィックス機能を除いたものともいえる(Intel 845EとIntel 845GEの違いは「解説:Pentium 4の新チップセット「Intel 845G」の機能と性能」を参照のこと)。データシートがIntel 845GEとIntel 845PEとで共通化されているばかりでなく、Intel純正マザーボードもIntel 845GE搭載の「D845GEBV2」とIntel 845PE搭載の「D845PESV」で同じ回路基板が利用されていることでも明らかだろう。両者はパッケージのボール数(ピン数)が異なるものの、実際にはピン互換となっているようだ。
今回テストに用いたD845GEBV2(拡大写真:56Kbytes) |
仕様的にD845GBVと変わらないだけでなく、基板レイアウトや配線パターンの面でもほぼ同一のようだ。ただし、電源部だけは手が入れられており、これが「Hyper-Threading対応」ということなのかもしれない。 |
D845GBV2の名称部分 |
Intel 845PEベースのマザーボード(D845PESV)と回路基板が共通であることが分かる。このことからも、Intel 845GEとIntel 845PEはピン数が異なるものの、実際にはピン互換となっていることは明らかだ。 |
機能的にはIntel 845GE/845PEともに、Intel 845EがサポートしていたECCメモリのサポートがなくなっている。2002年に入って、IntelのEnterprise Platforms Group(EPG:サーバ/ワークステーション向け製品グループ)によるチップセット開発は、Desktop Platforms Group(DPG:デスクトップPC向け製品グループ)から完全に独立したもようだ。それを裏付けるかのように、チップセットの型番の命名則が変わっている。
先日開かれたIDFで、EPG担当の副社長であるアブジット・Y・タルウォーカー(Abhijit Y. Talwalkar)氏も、サーバ/ワークステーション向けのチップセット開発を、デスクトップPC向けから完全に分離したとの発言を行っている。Pentium 4を用いたローエンド・サーバやローエンド・ワークステーション用であっても、チップセットはEPGが開発することになるため、デスクトップPC向けのチップセットでECCのサポートを行う理由がほとんどなくなった、ということだと考えられる。恐らくEPGが開発するチップセットの第1弾は、2002年内にもリリースされる開発コード名「Granite Bay(グラナイト・ベイ)」で呼ばれるPentium 4対応ワークステーション向けチップセットとなるだろう。従来、Intelはローエンド・サーバやローエンド・ワークステーションは、デスクトップPC用を流用する形でサポートしてきた。しかし、このマーケットが拡大していることや、デスクトップPCとサーバ/ワークステーションでI/O性能などの要求が大きく異なり始めたことが、EPGによるチップセット開発へと向かわせていると思われる。Intelが、チップセットを強化する戦略の一環と思われる。
■外部AGPサポートがない「Intel 845GV」
実質的にIntel 845GLの後継となるIntel 845GVだが、その位置付けには若干の変更があったようだ。Intel 845GLがローエンド(Intel流にはバリューPC)向けで、もっぱらCeleronと組み合わせるチップセットであったのに対し、FSB 533MHzのサポートが加わったIntel 845GVは、ローエンドに加えてメインストリームも守備範囲としている。つまり、最上位プロセッサとして2002年内に発表予定のHyper-Threadingテクノロジ対応Pentium 4-3.06GHzと、Intel 845GVを組み合わせることも「あり」なのである。Intel 845GVは、その仕様から前モデルのIntel 845Gから外部AGPのサポートを抜いたものと考えて間違いない。データシートもIntel 845G/845GL/845GVで同じものになっている。また、今回発表されたチップセット中、唯一Intel 845GVだけがPC133 SDRAMをサポートする。ただ、Intel純正マザーボードでこの組み合わせを採用したものはないため、主にサードパーティの低価格PC向けマザーボードがSDRAMをサポートすることを想定した仕様と思われる。
次ページでは、改良が加えられた新Intel 845シリーズの性能を検証してみることにする。果たして、既存のIntel 845Gなどからどの程度の性能向上を実現しているのかをベンチマーク・テストによって明らかにしよう。
関連記事 | |
Rambusは終えんを迎えてしまうのか? | |
Pentium 4の新チップセット「Intel 845G」の機能と性能 |
関連リンク | |
Pentium 4用チップセットに関するニュースリリース |
INDEX | ||
新Intel 845チップセットは何が変わった? | ||
1.新発表のPentium 4向けチップセット4種の実態 | ||
2.新チップセットの性能を検証する | ||
3.ベンチマーク・テストの結果 | ||
「System Insiderの解説」 |
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