マンスリー・レポート2002年第2四半期の業績予測に見るIT業界の先行き(2002年7月号)デジタルアドバンテージ |
例年、5月から6月にかけて「COMPUTEX TAIPEI」や「TECHXNY/PC EXPO」、「COMDEX」といったコンピュータ関連機器の展示会が開催される。しかし、ここ数年これらの展示会の魅力が薄れてきたといわれている。PCのコモデティ(日用品)化によって製品自体の差別化が難しくなってきたことや、インターネットの普及によって展示会でわざわざ商品を見せる意味が薄れてきたこと、展示会が「お祭り」になってしまい商談の場ではなくなったことなどが理由として挙げられている。
とはいえこの時期、展示会に合わせて新製品や新技術の発表が数多く行われることに変わりはない。この時期に発表される製品の魅力によって、その年の後半、特に年末商戦の行方が左右されるともいわれおり、展示会の魅力が薄れたとはいえ注目しないわけにもいかない。
今年も6月3日〜7日に中華民国(台湾)の台北市で「COMPUTEX TAIPEI2002」が、25日〜27日に米国ニューヨークで「TECHXNY/PC EXPO」がそれぞれ開催された。COMPUTEXでは、AMDがAMD Opteron(オプティオン)のデモを行ったり、NVIDIAやVIA TechnologiesなどがAMD Opteron対応のチップセットを発表したりしている。また、TECHXNYではMicrosoftが各PCベンダのTablet PCを展示したほか、これまで「Mira(ミラ)」の開発コード名で呼んでいたワイヤレス通信機能を持ったディスプレイを「Windows CE for Smart Displays」と命名するなど、やはり多くの発表が行われている(Miraに関しては、別稿「Windows Insider:見えてきたWindows XP SP1」を参照)。ただ例年、COMPUTEXに合わせて新しいグラフィックス・チップが発表されていたのだが、今回はNVIDIAもATI Technologiesも発表を見送ったようだ。
残念ながら、全体的に目新しい新製品の発表に乏しく、年末に向けてさらにIT業界全体に厳しさが増す兆候を感じた。
暗い各社の第2四半期の決算予測
6月には、展示会とともに、IT業界全体の1年を占ううえで重要なマイルストーンとなる第2四半期の業績予測の発表がある。特にIntelやAMD、Micron Technologyといった大手半導体会社の業績予測は、自社の株価だけでなく、株式市場全体に与える影響も大きい。また業績によっては、事業の再編や売却などが行われる可能性があり、その発表内容が常に注目されている。
6月6日には、Intelが2002年第2四半期の業績予測を発表した(Intelの「2002年第2四半期の業績予測)。第1四半期の売上高68億ドルに対し、第2四半期では62億〜65億ドルになると予測を行った。当初は64億〜70億ドルの間と予測していたことから、下方修正が行われたことになる。Intelによれば、下方修正が行われた理由として「主にヨーロッパでの需要が予想より軟調であるため」としているが、1999年から2000年前半に繰り広げられたAMDとの動作クロック競争のようなPC市場全体が盛り上がる話題がないことが要因の1つになっているような気がする。第1四半期の決算では、前年同期実績に対して2%の増加になったことから、IT不況から脱しつつあるという印象を受けたが、第2四半期の予測を見ると、まだまだ先行きに明るさは見えない。
IntelのライバルであるAMDも、18日に業績予測を発表している(AMDの「2002年第2四半期の業績予測」)。当初の業績予測では、売上高8億2000万〜9億ドルとしていたが、今回の発表で6億2000万〜7億ドルと大幅に下方修正を行った。この下方修正に伴い、営業損失を計上することになるという。AMDは、2002年末から既存のK7(Athlon)アーキテクチャからHammerアーキテクチャ*1への移行が開始される。つまり、AMDはこれからAMD Opteronや新AMD Athlonを立ち上げなければならず、お金がかかる時期に入るわけだ。しかし、再び赤字に転落した現在、立ち上げを財務面でサポートできるかどうか不安を感じる。
*1 AMD独自の「x86-64テクノロジ」を採用するマイクロアーキテクチャ。既存のx86命令と互換性を持ちながら64bit化を行っている。Hammerアーキテクチャを採用したプロセッサとして、サーバ/ワークステーション向けの「AMD Opteron」、デスクトップPC/ノートPC向けの「AMD Athlon」が販売される予定だ(Hammerアーキテクチャ採用のAthlonには、Athlon XPのように何らかのサブネームが付けられると思われる)。 |
DRAM価格が若干持ち直しつつある中、DRAMメーカー大手のMicron Technologyが25日に2002年第3四半期(3月〜5月)の決算も発表された(Micronの「2002年第3四半期の決算発表」)。売上高7億7100万ドル、損失2400万ドルと、第2四半期(2001年12月〜2002年2月)の売上高6億4600万ドル、損失3000万ドルからは改善の兆しが見える。Micron Technologyは、東芝からメモリ工場を買収するなど、強気な投資を続けているが、それが2002年後半に効果を発揮するのかどうかが収益改善のポイントとなるだろう。
このように大手半導体3社の業績を見ると、「IT業界がV字回復する」という見通しは少し甘いかもしれない。Enronの倒産によって火がついた米国企業の会計疑惑は、1月の大手通信会社のGlobal Crossingに続き、Xerox、WorldComとIT関連業界にも飛び火しつつある。Global CrossingとWorldComの2社は、インターネットの普及による通信需要の拡大によって大きく業績を伸ばしてきただけに、今後のインターネット・インフラへの波及も心配される。
Intelの事業再編の影響
こうした厳しい業績の中、IntelがInfiniBandチップの開発中止ならびにホスティング事業からの撤退を明らかにした(Intelの「ホスティング事業からの撤退について」)。Intelによれば、InfiniBandチップの開発中止に対して「他社に比べてチップの開発が遅れていたことから中止を決めた」という。また規格を開発した1社として「これまでと同様、InfiniBandの普及に対して支援していく」としている。IntelのInfiniBandチップ開発からの撤退については、「元麻布春男の焦点:Intelの開発撤退がInfiniBandに与える影響」を参照していただきたいが、InfiniBandの普及に少なからず影響を与えるのは間違いないだろう。
また、ホスティング事業からの撤退に対しては、「ホスティング・サービス産業における市場傾向や財務予測から撤退を決めた」という。「プロセッサ会社からの脱皮を図る『Intel』:第4回 なぜインテルはホスティング事業を行うのか?」で述べられているように、この時点ではホスティング事業の継続は決まっていた。5月の時点ではホスティング事業向けの人員採用を行っていたし、インドでホスティング事業を開始する準備もしていたくらいだ。非常にすばやく撤退決定が行われたことがうかがえる。こうした決断の早さが、Intelの強みの1つであることは間違いない。
Intelのホスティング事業に対しては、事業開始当初から「なぜ、Intelがホスティング事業を行うのか?」という疑問の声があったのも確か。半導体とホスティングという収益構造が異なる事業をどのように運営していくのか、特に2001年第3四半期のインターネット・バブル崩壊後、その行方が注目されていた。インターネット・バブル崩壊後、多くの独立系ホスティング会社が倒産や事業売却によって通信事業者の傘下に入る中で、通信事業者でないIntelが手がけるホスティング事業は特異な存在であった。それだけに今後のホスティング業界へ与える影響も懸念される。
迷走(?)するDVD規格
6月には青紫色レーザーを利用する次世代の光ディスクの規格についても若干の動きがあったので、簡単に触れておきたい。2002年2月19日にソニー、松下電器など9社が発表した「Blu-ray Disc」の規格書が予定どおり、6月19日に販売が開始された(Philipsの「Blu-ray Discの規格書について」)。
ほぼ同じ時期に、DVD規格の策定団体である「DVD Forum」も青紫色レーザーを採用した次世代DVD規格の策定を開始したことを発表している。DVD Forumでは、東芝が開発している「厚さ0.6mmのディスクの2枚張り合わせ」と「Blu-ray Discが採用する0.1mmの保護層」の2案をワーキングループにより検討しているという。
ちなみに、DVD規格自体も着実に進化(?)しているようだ。DVD Forumは、異なるメディアを2枚(DVD-RAMとDVD-ROMなど)を張り合わせたDVDディスクを規格に追加したことを明らかにしている。どのような用途を想定したものか不明だが、プログラムの書かれたDVD-ROMの裏側にライセンス情報をDVD-Rで書き込んで販売するといったことが可能になる(実用的かどうかは疑問だが)。
また、2001年11月に規格化されていながら対応製品がなかなか出荷されなかった「DVD Multi」*2だが、やっと対応ドライブが出荷され始めた。日本電気が6月6日に出荷を開始したデスクトップPC「VALUESTAR T」に日立LGストレージ製DVD Multiドライブが搭載されている。また、松下電器産業(Panasonic)が6月25日に米国でDVD Multi Writable対応ドライブ「DVDBurner II」を発表している。
*2 CD-ROM/R/RWとDVD-RAM/R/-RWの各規格に対応するDVD規格。読み出しのみのDVD Multi Read-OnlyとDVD Multi Writable、DVD Multi Recordingの3種類が規格化されている。 |
ワールドカップの影響で、AV機器関連の売り上げは好調であったという。特に、価格が安くなってきたDVD-RAMレコーダの売れ行きが良かったようだ。この影響がPC向けの書き換え型DVDドライブの標準化にどのような影響を与えるか、まだしばらく様子を見る必要があるかもしれない(その前にBlu-ray Discが立ち上がってしまうかもしれないが)。
Pick Up Online Document――注目のオンライン・ドキュメント |
ハードディスクドライブ媒体のエラーについて(日本IBM 1997/12) ハードディスクの構造とその記録媒体(プラッタ)の製造方法を説明した上で、プラッタに存在する欠陥(不良セクタ)と、メーカーによる欠陥対策が説明されている。リリース時期はやや古いが、不良セクタの発生理由など、あまり見かけない題材を扱っている貴重なドキュメントといえる。 |
オンライン・ドキュメントは「Online DOC Watcher」へ
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