特集 5. 2タイプに分かれてきた最新ブレード・サーバ |
ここでは、前のページまでで紹介した2機種以外の製品の最新動向を解説する。
高密度実装重視型と性能/機能重視型
初めてブレード・サーバが登場したのは、2001年中ごろのこと。当初は、RLX Technologiesなどのベンチャー企業が手がけていた。そのあとで、Compaq Computerなど大手サーバ・ベンダが参入し、現在に至っている。日本においては、2002年1月に日本電気が、大手サーバ・ベンダの中では最も早い時期に「Express5800/BladeServer」を発表している。Express5800/BladeServerは、サーバ向けプロセッサであるPentium III-Sのデュアルプロセッサ構成をサポートしたサーバ・ブレードを用意し、ハードディスクをサーバ・ブレード上ではなく、エンクロージャ内のハードディスク専用スロットに実装するようになっているなど、前述の2機種とはハードウェア構成が大きく異なっている。3Uサイズのエンクロージャに装着できるサーバ・ブレードは6枚までと、密度より単体での性能や機能、スケーラビリティを重視した設計となっていることがうかがえる。
日本電気のExpress5800/BladeServer |
デルコンピュータが2002年第3四半期に販売を予定している「PowerEdge 1655MC」も、性能重視タイプの製品といえる。3Uサイズのエンクロージャには、最大で6台のサーバ・ブレード(下の写真のように「ブレード」とは表現しがたい厚みだが)しか内蔵できないが、Pentium III-Sによるデュアルプロセッサ構成や、SCSIハードディスクを使ったRAIDシステムに対応している。最大メモリ容量も2Gbytesとほかのブレード・サーバより大きく、一般的なエントリ・サーバと同等以上のスペックを持つ。
デルコンピュータのPowerEdge 1655MC |
これらに対し、富士通が2002年5月末に発表したブレード・サーバ「PRIMERGY BX300」は、どちらかといえば密度重視の製品で、3Uサイズのエンクロージャには最大20枚のサーバ・ブレードを装着できる。ただ、1枚のサーバ・ブレードに最大2台の2.5インチ・ハードディスクを搭載し、ハードウェアRAID 1による耐障害性を確保しているほか、最大メモリ容量は2Gbytesと大きい。イーサネットもギガビット対応だ。また、現在使用している低電圧版モバイルPentium III-Mのデュアルプロセッサ対応版が出荷されれば、すぐにデュアルプロセッサ対応のサーバ・ブレードも提供される予定とのことだ(コンパックも今後、デュアルプロセッサ対応サーバ・ブレードを出荷すると表明している)。このように本機の仕様には、密度と性能/機能のバランスをとろうとしている意図が見える。
富士通のPRIMERGY BX300 |
高密度化を強く志向しているのは、2002年6月に発表されたばかりの日立製作所の「HA8000-bd/200」である。多くのベンダが採用した3Uサイズではなく、2Uサイズのエンクロージャに最大16枚のサーバ・ブレードを搭載できるのが特徴だ。42Uのラック当たりの搭載可能サーバ数を比較すると、3Uサイズに20枚のサーバ・ブレードが搭載可能なブレード・サーバが最大280台なのに対し、HA8000-bd/200では最大336台と、2割多く搭載できる。
日立製作所のHA8000-bd/200 |
ベンダ | コンパックコンピュータ | デルコンピュータ | トラストガード | |
製品名 | ProLiant BL e-Class | PowerEdge 1655MC | TrustGuard / HiServer (HDB 31670) |
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発表日 | 2002年2月19日 | 2002年4月4日(米国) | 2002年2月1日 | |
プロセッサ | 種類 | 超低電圧版Pentium III-700MHz | Pentium III-S-1.26GHz | Pentium III-S/Celeron/VIA C3 |
最大数 | 1基 | 2基 | 1基 | |
メイン・メモリ | 標準容量 | 512Mbytes | 128Mbytes〜 | − |
最大容量 | 1Gbytes | 2Gbytes | 1Gbytes | |
ハードディスク | タイプ/インターフェイス | 2.5インチIDE | 3.5インチSCSI | 2.5インチIDE |
最大台数 | 1台 | 2台 | 1台 | |
単体容量 | 30Gbytes | 18Gbytes〜 | 20Gbytes(試用機に搭載) | |
ハードウェアRAID | − | ○(RAID 1) | − | |
イーサネット | 10/100BASE-TX×2系統 | 10/100/1000BASE-T×2系統 | 10/100/1000BASE-T×2系統、10/100BASE-TX×1系統 | |
拡張スロット | − | − | 64bit PCI×1スロット | |
エンクロージャ | サイズ | 3U | 3U | 3U |
装着可能なブレードの最大枚数 | 20枚 | 6枚 | 18枚 | |
42ラックでの最大プロセッサ数 | 280基 | 168基 | 252基 | |
イーサネット・ケーブル集線機能 | RJ-21コネクタによる集線/ギガビット・イーサネット・スイッチを内蔵可能 | ギガビット・イーサネット・スイッチを内蔵 | − | |
コンソール切り替え機能 | − | ○(標準装備) | ○(標準装備) | |
管理・監視機能 | エンクロージャ(インターコネクトトレイ)に内蔵 | 専用リモート管理カード | エンクロージャに内蔵 | |
各ベンダのブレード・サーバの主なスペック(その1) |
ベンダ | 日本電気 | 日立製作所 | 富士通 | |
製品名 | Express5800 /BladeServer |
HA8000-bd /200 |
PRIMERGY BX300 | |
発表日 | 2002年1月17日 | 2002年6月19日 | 2002年5月28日 | |
プロセッサ | 種類 | Celeron-850MHz/Pentium III-S-1.26GHz | 超低電圧版モバイルPentium III-M-800MHz | 低電圧版モバイルPentium III-M-866MHz |
最大数 | 2基*1 | 1基 | 1基*2 | |
メイン・メモリ | 標準容量 | 256Mbytes/512Mbytes | 128Mbytes〜 | 256Mbytes |
最大容量 | 1Gbytes | 1Gbytes | 2Gbytes | |
ハードディスク | タイプ/インターフェイス | 3.5インチIDE | 2.5インチIDE | 2.5インチIDE |
最大台数 | 2台*3 | 1台 | 2台 | |
単体容量 | 20Gbytes/80Gbytes | 20Gbytes/40Gbytes | 20Gbytes/40Gbytes | |
ハードウェアRAID | − | − | ○(RAID 1) | |
イーサネット | 10/100BASE-TX×3系統 | 10/100BASE-TX×2系統 | 10/100/1000BASE-T×2系統 | |
拡張スロット | 64bit PCI×1スロット | − | − | |
エンクロージャ | サイズ | 3U | 2U | 3U |
装着可能なブレードの最大枚数 | 6枚 | 16枚 | 20枚 | |
42ラックでの最大プロセッサ数 | 168基 | 336基 | 280基 | |
イーサネット・ケーブル集線機能 | スルーカードでRJ-21コネクタに集線可能 | ギガビット・イーサネット・スイッチを内蔵 | ギガビット・イーサネット・スイッチを内蔵 | |
コンソール切り替え機能 | − | − | ○(標準装備) | |
管理・監視機能 | サーバ・ブレードに内蔵 | 専用リモート管理カード×最大2枚 | 専用リモート管理カード×最大2枚 | |
各ベンダのブレード・サーバの主なスペック(その2) | ||||
*1 Celeronモデルは1基まで。Pentium III-Sモデルは2基まで搭載可能 | ||||
*2 現時点ではプロセッサがデュアル構成に対応していないため、1基のみ。第3四半期以降にデュアルプロセッサ対応品が登場予定 | ||||
*3 サーバ・ブレードとは別のスロットに装着 |
各ベンダのブレード・サーバ製品のうちサーバ・ブレード同士を比較すると、スペックの食い違いが意外に多く、共通する部分が少ないことが分かる。チップセットなどコンポーネントのレベルまで共通化が進んでしまったエントリ・サーバなどとは対照的な状況だ。これは、各ベンダが想定しているブレード・サーバの利用形態が、まだ定まっていないことが大きく影響している。
前述のように、ブレード・サーバの用途がフロントエンドの層だけなら、高密度実装と低消費電力化を最優先した仕様になっていくはずだ。この場合、プロセッサやハードディスクなどは、高密度実装に適したノートPC向けのものが適しているだろう。スケール・アウトの用途なので、個々のサーバ・ブレードに高い性能は必要ない。またフロントエンドなら、サーバ・ブレードが故障してもサービスを停止させることなくブレードごと交換すれば済むので、サーバ・ブレード自体に高度な耐障害性(RAIDなど)は不要だ。コンパックのProLiant BL e-Classや日立製作所のHA8000-bd/200は、まさにこの方向性を志向している。
しかし、そのほかのベンダのブレード・サーバを見ると、フロントエンド以外の用途も想定していることがうかがえる。例えばPentium III-Sのデュアルプロセッサ構成に対応する日本電気のExpress5800/BladeServerやDell ComputerのPowerEdge 1655MCは、明らかにアプリケーション・サーバなどで「より重い処理」をこなすのが目的だ。また拡張スロットを持ったトラストガードのHDB31670サーバ・ブレードは、インターネット系だけには限らない用途を想定している。
いってしまえば、どの程度の用途までブレード・サーバを適用できるのか、ユーザーもベンダもまだはっきりとその範囲を特定し切れていないのが現状といえるだろう。
次のページでは、「ブレード」がペデスタル(タワー)型とラックマウント型に続く第3のフォームファクタの地位を築けるのか、考察してみる。
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TrustGuard/HiServerの製品情報ページ | |
PowerEdge 1655MCの製品情報ページ |
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