元麻布春男の焦点
チップセット市場に参入したNVIDIAの勝算
――nForce2チップセットは企業向けPCで使えるか?――

元麻布春男
2002/07/25


 日本時間の7月18日、グラフィックス・アクセラレータの大手ベンダであるNVIDIAは、同社としては第2世代のチップセット製品となる「nForce2」を発表した。グラフィックス・チップ市場では、ATI Technologiesと2強体制を築いているNVIDIAだが、チップセット市場ではまだ新参者である。ここでは、どのような戦略でNVIDIAがチップセット市場でシェアを確保しようとしているのかを分析する。

nForceの上位バージョンとして登場したnForce2

 すでに販売されている「nForce」同様、nForce2はAMDのAthlonDuronプロセッサに対応したデスクトップPC向けチップセットである。nForce2は、ノースブリッジにグラフィックス機能を統合した「nForce2 IGP」と統合していない「nForce2 SPP」の2種類が用意されている。またサウスブリッジは、オーディオ・プロセッシング機能を内蔵する上位バージョンの「nForce2 MCP-T」と内蔵していない下位バージョンの「nForce2 MCP」の2種類がある。さらに第1世代のグラフィックス統合型ノースブリッジである既存の「nForce IGP」と、「nForce2 MCP-T」「nForce2 MCP」を組み合わせることで、下から上までのすべてのセグメントをカバーするのがNVIDIAの戦略となっている。以下の表は各製品とそのセグメントを表したものだ。

セグメント ノースブリッジ サウスブリッジ グラフィックス機能
マニア(enthusiast) nForce2 SPP nForce2 MCP-T 外付け(GeForce4 Ti 4600を想定)
ハイエンド nForce2 SPP nForce2 MCP-T 外付け(GeForce4 Ti 4200を想定)
メインストリーム nForce2 SPP nForce2 MCP 外付け(GeForce4 MXを想定)
nForce2 IGP nForce2 MCP 内蔵(GeForce4 MX相当)
エントリ(バリュー) nForce IGP nForce2 MCP 内蔵(GeForce2 MX相当)
表区切り
nForceシリーズの各製品が対象としている市場セグメント
「IGP」はIntegrated Graphics Processorの略、「SPP」はSystem Platform Processorである。また「MCP」はMedia and Communications Processorの略だ。


統合グラフィックス・コアなどが強化されたnForce2のノースブリッジ

 nForce2 IGP(Integrated Graphics Processor)とnForce2 SPP(System Platform Processor)の違いは、前者がGeForce4 MXベースのグラフィックス・コアを統合している点にある。機能の豊富さという点からは逆転するが、より高性能な外付けのグラフィックス・カードが不可欠なSPPの方が上位セグメント向け、ということになる。nForce2 IGPが内蔵するグラフィックス・コアの動作クロック(グラフィックス・エンジンのクロック周波数)については、発表会の時点で「まだ最終的な決定が下されていない」とのことだったが、公開されたテスト結果ではGeForce4 MX 420を上回るグラフィックス性能を持つことが明らかにされている。いずれにしても、プログラマブル・シェーダには対応していないDirectX 7世代のグラフィックス・コアだが、内蔵グラフィックス機能としては最も強力なものといえるだろう。NVIDIAは、すでに定評のあるグラフィックス・エンジンを持っており、この点が他社に対する大きなアドバンテージとなるだろう。

  nForce2 IGP nForce2 SPP nForce IGP nForce SPP
対応プロセッサ
Athlon/Duron
Athlon/Duron
対応FSBクロック
200/266/333MHz
200/266MHz
最大メモリ・バス幅
128bit
128bit
対応メモリ
DDR-266DDR-333/DDR-400
DDR-200/DDR-266/DDR-333
内蔵グラフィックス
GeForce4 MXベース
なし
GeForce2 MXベース
なし
AGPサポート
AGP 8x(AGP 3.0)
AGP 4x(AGP 2.0)
表区切り
nForceシリーズのノースブリッジの機能比較
nForce2は、nForceから着実にスペックが高められていることが分かる。

 また、nForce2 IGPの内蔵グラフィックスは、単に性能だけがGeForce4 MX相当なのではない。nForce2 IGPはGeForce4 MXのマルチディスプレイ機能であるnVIEWもサポートしており、2組のCRTコントローラとRAMDACを内蔵することで、2台のディスプレイに画面を出力することが可能だ。発表会場で展示されていたマザーボードの中にも、nForce2 IGPだけで2台のディスプレイをサポートするものがあった。ただ、GeForce4 MXで内蔵していることになっていながら、現時点では動作例のないDVI接続用のTMDSトランスミッタが、このnForce2 IGPで利用可能になっているのかどうかは分からない。なお、nForce2 IGPとnForce2 SPPの両方ともAGPスロットをサポートしており、AGP 3.0でサポートされる予定のAGP 8xモードに対応したものとなっている。

デュアルディスプレイを標準サポートするnForce2 IGP搭載マザーボード
これはCHAINTECH COMPUTER製の「7NJS」というマザーボード。I/Oリアパネルを見ると、パラレル・ポートの下には通常、シリアル・ポートが位置するのに対して、ここでは2個のアナログRGBディスプレイ出力端子(ミニD-Sub 15ピン・コネクタ)が並ぶ。シリアル・ポートは、右端のPCIスロットの右側にあるコネクタを利用して、ブラケット部に引き出す設計だ。


メイン・メモリはDDR-400までサポート

NVIDIAによるDDR-400のロゴ
nForce2がDDR-400に対応していることをアピールしている。ただし、これはDDR−400の公的なバリデーションを証明するものではないようだ。

 グラフィックス関連以外でnForce2 IGPとnForce2 SPPに共通した特徴は、デュアルDDR SDRAMチャネルのサポートと、DDR SDRAMメモリとしてDDR-266/DDR-333/DDR-400(200MHz×2倍クロックのDDR SDRAM)の3種類をサポートしていること、FSB 333MHz(=166MHz×2倍)対応の3点である。デュアルDDR SDRAMチャネルのサポート自体は前世代のnForceでも行われていたが、対応するメモリはDDR-266までだった。DDR-333をサポートすることでピークのメモリ帯域幅は5.3Gbytes/sに、DDR-400のサポートにより6.4Gbytes/sにまで広がる。こうした帯域幅の拡大は、プロセッサ性能はもちろんのこと、グラフィックス機能を内蔵するnForce2 IGPの場合はグラフィックス性能にも現れると期待される。ただ、発表会でのプレゼンテーションがすべてDDR-333メモリを用いたもので、DDR-400を用いたテスト結果は1つも含まれていなかったことからすると、DDR-400のサポートが最近追加されたものである可能性は否定できない。

FSBの高速化が実現するかどうかは、AMDのサポート次第?

 もう1つの特徴であるFSB 333MHzへの対応だが、現時点でAMDはFSB 333MHzに対応したAthlonを発表していない。AMDによるとAthlonのFSB 333MHz化は、現在PCベンダなどのリクエストを聞きつつ、バリデーション(検証)を行っているものの、発売については未定としている。まったく可能性がないわけではなさそうだが、nForce2の製品化時期(9月?)に間に合うかどうかは不明だ。またnForce2がFSB 333MHzに正式対応とうたっているからには、単なるオーバークロッキング用ではないだろう。こうした対応製品がないという点では、AGP 8xモードのサポートにも同じことが当てはまる。現時点でリリースされているGeForceシリーズはすべてAGP 4xモード対応だが、おそらく次のNVIDIA製GPU*1は、AGP 8xモードをサポートするハズだ。

*1 NVIDIAの次世代GPU(グラフィックス・チップのこと)では、「GeForce」という名前ではなくなるともいわれている。


二極化したnForce2のサウスブリッジのラインアップ

 nForce2 IGP/SPPとHyperTransportで接続されるサウスブリッジは、第1世代とは内蔵機能の切り分けが若干異なっている。第1世代のnForceでは、MCP(Media and Communications Processor)とMCP-Dという2種類のサウスブリッジが提供されていたが、両者の違いは、MCP-Dだけがリアルタイムのドルビーデジタル・エンコーディング機能を内蔵しており、MCPは内蔵していない、という小さなものだった。nForce2の場合、下位バージョンのnForce2 MCPではサウンドに関するプロセッシング機能(APU:Audio Processing Unit)そのものが省略され、サウンドに関する各種の処理はプロセッサに委ねられる。サウンド機能自体は内蔵のAC'97 Linkインターフェイスによって、外部コーデック・チップと接続することで実現する。一方、上位バージョンのnForce2 MCP-Tは、ドルビーデジタル・エンコーディング機能やDirectX互換の3Dサウンド機能をサポートしたAPUを内蔵している。つまり、APUを内蔵しながらドルビーデジタル・エンコーディング機能を外したnForce MCP相当のサウスブリッジは存在しない。nForce2 MCPは、高度なサウンド機能を必要としないビジネス・クライアント向け、あるいはバリュー・セグメント向けに、サウンド機能を削減した廉価版といえる。おそらくnForce MCPは、こうした用途にはまだ高級すぎて、価格を押し上げる要因となってしまった、という判断なのかもしれない。

  nForce2 MCP-T nForce2 MCP nForce MCP-D nForce MCP
APU内蔵 あり なし あり あり
ドルビーデジタル・エンコーディング 可能 不可 可能 不可
イーサネット・コントローラ NVIDIA製/3Com製の2個 NVIDIA製 NVIDIA製 NVIDIA製
IEEE 1394インターフェイス IEEE 1394a なし なし なし
USBインターフェイス USB 2.0×6ポート USB 2.0×6ポート USB 1.1×6ポート USB 1.1×6ポート
IDEインターフェイス Ultra ATA/133 Ultra ATA/133 Ultra ATA/100 Ultra ATA/100
表区切り
nForceシリーズのサウスブリッジの機能比較
nForceに比べると、nForce2ではUSB 2.0に対応している点が目立つ。また、特にnForce2 MCP-Tは多機能であることが分かる。

 サウンド以外の部分に注目すると、まずUSBホスト・インターフェイスがリビジョン2.0対応になったのは、現時点で発表されるサウスブリッジとしては当然だろう。IDEインターフェイスがUltra ATA/100からUltra ATA/133へ変わったのは決してマイナスではないものの、Ultra ATA/133に対応したドライブがMaxtor以外から供給されそうにない現状を考えれば、大きなメリットといえるかどうかは微妙なところだ。かといって、シリアルATAを統合するには時期尚早というタイミングだったのだろう。USB 2.0対応とUltra ATA/133対応は、nForce2 MCP-TとnForce2 MCPの両方に共通する機能である。

IEEE 1394インターフェイス搭載の意味

 nForce2 MCP-Tは、IEEE 1394aホスト・インターフェイスを統合している。DVカメラからの画像取り込みという点では便利に違いない。しかし、NVIDIAがリリースした、3.2Gbits/sの高速インターフェイス*2でPCとコンシューマ機器が垣根を越えて相互接続できるというホワイト・ペーパーに書かれた未来は、すでに破れた夢だ(nForce2 MCP-Tに関するホワイト・ペーパー)。コンシューマ機器が搭載するIEEE 1394は、すべて1対1(ポイント・ツー・ポイント)の接続を前提にしたi.LINKであるし、そもそもPCとの接続を保証してくれるDVカメラ機器関連以外のコンシューマ機器などほとんど存在しないのが実情だ。PC向け周辺機器でIEEE 1394のネイティブ・インターフェイスを持つものも、同様にほとんど存在しない。IEEE 1394とIDEのインターフェイスを変換するチップを用いたストレージ・デバイスも、USB 2.0の普及につれて、大半はUSB 2.0へ移行してしまうだろう。とはいえ、IEEE 1394があって困るものではないし、あるに越したことはないのも事実だ。特に日本国内のコンシューマ向けPCでは、IEEE 1394を標準搭載する機種が増えており、チップセットに統合することでこうした市場に入り込める可能性もある。

*2 ホワイト・ペーパーにはこう記されているが、nForce2 MCP-Tは、3.2Gbits/sの転送速度に対応するIEEE 1394bをサポートしていない。


3Com製イーサネット・コントローラを追加した理由

 もう1つ、nForce2 MCP-Tにのみ搭載されたのがDualNetと呼ばれる機能だ。NVIDIA製のすべてのサウスブリッジは、NVIDIAの10/100BASE対応のイーサネット・コントローラを内蔵しているが、nForce2 MCP-TのみはNVIDIA製コントローラに加え、3Comからライセンスしたイーサネット・コントローラを搭載している。このように2チャネルのイーサネット・コントローラを持つ理由の1つとして、ホーム・ゲートウェイの構築が挙げられる。この場合、片方をWAN側すなわちインターネットとの接続に、もう片方をLAN側の接続に用いる。実際、マザーボード・ベンダであるShuttle Computerがこのようなシステムの開発を行っている旨のプレスリリースを出している。だが、それだけが目的なら、わざわざ3Comからライセンスしなくても、NVIDIA製のイーサネット・コントローラを2個搭載すれば済む。3Comのイーサネット・コントローラを採用した理由について、nForce2のプレスリリースでは、「3Comのネットワークキング・コントローラを加えることで、企業やIT部門にnForce2ベースのマザーボードやPCとのソフトウェアおよびハードウェアの互換性を保証し、ユーザーの期待する信頼性や管理性を提供します」と述べている(nForce2のプレスリリース)。イーサネット・コントローラを3Comにしたからといって、直ちに企業での採用が増えるとは思えないのだが、ひょっとすると大口のOEMからそういうリクエストがあったのかもしれない。

ビジネス・クライアント市場に受け入れられるための必要条件

 以上、nForce2の概要をみてきたが、その最大の特徴は、現時点では目一杯といっていいほど欲張ったスペックである。といってもこれは、今回のnForce2に限らず、nForceの時にも感じられたことである。NVIDIAとしては、GeForceシリーズの「高性能」というイメージで、チップセットも売りたい、と考えているのかもしれない。だが、スペックを欲張ることは、少なからず価格に跳ね返る。NVIDIAはPentium 4のプロセッサ・バスのライセンスを取得していないため、現時点でPentium 4対応のチップセットの販売はできず、Athlon対応チップセットのみを製品化している。そのAthlon対応チップセットの市場において、トップのVIA Technologiesに遅れをとっている理由の1つは、価格だろう。今回、APUを外した廉価版のサウスブリッジを用意したのは、これを意識してのことに違いない。

 今回、3Comのイーサネット・コントローラをわざわざライセンスしたことでも分かるように、NVIDIAとしてはビジネス・クライアント市場にも意欲を見せている。3Dグラフィックス・チップ=ゲームというイメージが強く、「GeForce」という名称のグラフィックス・コアを統合したチップセットも、どうしてもコンシューマ向けという印象が強くなる。実際、ドルビーデジタルのリアルタイム・エンコーディングといった、おおよそビジネスでは必要とされていない機能がチップセットに含まれているのも事実だ。対応するプロセッサが、ビジネス市場で劣勢のAthlonのみということも、現時点ではコンシューマ色を強める結果になっているかもしれない。

 しかし、そもそも安定性や信頼性が重視されるビジネス・クライアント市場は、チップセット分野に関して後発のNVIDIAがすんなりと入り込める市場でないこともまた事実である。結局、実績を積み重ねて信頼を勝ち取るしかない。実績を重ねるには、まず市場に受け入れられる必要がある。そのためのプライマリ・ターゲットがコンシューマ市場であることは疑う余地のないところだろう。だが、現在GeForce2 MXやGeForce4 MXがビジネス向けのPCにも採用されているように、コンシューマ市場で受け入れられたものは、いずれビジネス市場でも受け入れられる。これは、コンシューマ/ビジネスともに同じ製品にした方が、スケール・メリットなどによりコストの点で有利になるからだ。ひょっとすると、2年後あたりには、NVIDIAのチップセットを採用した企業向けPCが珍しくなくなっているかもしれない。記事の終わり

  関連リンク 
nForce2の製品情報ページ
nForce2発表のプレスリリース
nForce2 MCP-Tの「Digital Media Gateway」機能に関するホワイト・ペーパー PDF
 
 「System Insiderの連載」


System Insider フォーラム 新着記事
  • Intelと互換プロセッサとの戦いの歴史を振り返る (2017/6/28)
     Intelのx86が誕生して約40年たつという。x86プロセッサは、互換プロセッサとの戦いでもあった。その歴史を簡単に振り返ってみよう
  • 第204回 人工知能がFPGAに恋する理由 (2017/5/25)
     最近、人工知能(AI)のアクセラレータとしてFPGAを活用する動きがある。なぜCPUやGPUに加えて、FPGAが人工知能に活用されるのだろうか。その理由は?
  • IoT実用化への号砲は鳴った (2017/4/27)
     スタートの号砲が鳴ったようだ。多くのベンダーからIoTを使った実証実験の発表が相次いでいる。あと半年もすれば、実用化へのゴールも見えてくるのだろうか?
  • スパコンの新しい潮流は人工知能にあり? (2017/3/29)
     スパコン関連の発表が続いている。多くが「人工知能」をターゲットにしているようだ。人工知能向けのスパコンとはどのようなものなのか、最近の発表から見ていこう
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)

注目のテーマ

System Insider 記事ランキング

本日 月間