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HTML5が拓く新しいWebHTML5が拓く新しいWeb(3. Opera編)

HTML5はFlashやSilverlightを不要なものにする

新野淳一 Publickey
2009/11/27

性能とリーチは、デスクトップとWebのトレードオフ

─── グーグルモジラにもインタビューしたのですが、彼らは「HTML5のWebアプリケーションは、デスクトップアプリケーションが得意とする分野でも優位になるだろう」といっています。これについては、どう思いますか?

Lie まったくその通りだと思います。HTML5で書かれたWebアプリケーションは、デスクトップアプリケーションよりも使われるようになるでしょう。今日でさえ多くのWebアプリケーションが使われており、パッケージソフトはだんだん使われなくなっているのですから。

 またオペラでは、ウィジェットにも積極的に取り組んでいます。ウィジェットはWebブラウザのウィンドウに依存せず、単独でデスクトップアプリケーションのように動作します。オペラエンジンが内部で稼働していますが、動作にOperaブラウザは必要ありません。

─── ただしWebアプリケーションには、まださまざまな性能や機能上の制限もあると思います。

Lie たしかに、性能などにまだ課題はあります。もしも性能が必要なアプリケーションならば、引き続きネイティブなアプリケーションとして作った方がよいでしょう。しかし、性能などよりも、もっと多くの利用者にリーチできる方を重視するアプリケーションもあります。HTML5でWebアプリケーションを書くことにより、Windowsマシンだけでなくモバイルフォンなどのユーザーにまでアピールできるようになり、非常に幅広いリーチを持つことができるのです。

 性能とリーチ、それはネイティブアプリケーションとWebアプリケーションのトレードオフだと思います。

あらゆるデバイスでより良いネット体験を提供したい

─── モバイルデバイスでは、さらに性能などの制限が多いですね。

Lie モバイルにコンピューティングパワーを求めている人はいないと思います。それよりも、ポケットに入って持ち歩ける方を求めているでしょう。

 われわれはそういうニーズに対して、Webをどんなデバイスにも解放して、デスクトップPCだけでなく、あらゆるデバイスで利用者により良いネット体験を提供したいと考えています。例えば、(ノルウェーから)東京に旅行するという場合、デスクトップPCを持っていなくても、モバイルデバイスを持っていれば、ほとんどのドキュメントやメールなどを見ることができるような経験です。

 また、モバイルデバイスをデスクトップPCとシンクロナイズさせておくと、モバイルデバイスの画面にはデスクトップPCと同じスピードダイアログが出ます。すると、いちいちタイプしなくても、いつも使うWebサイトがモバイルフォンで簡単に開くことができるようになります。スピードダイアログは好きにカスタマイズすることもできます。こうした体験をオペラでは提供していこうとしているのです。

CSS3やSVGは、2010年から使われ始める

─── HTML5以外にWebブラウザのテクノロジーで注目しているものはありますか?

Lie SVG(Scalable Vector Graphics)には注目をしています。SVGはドットではなくベクトルで描画するので、クオリティを維持したまま拡大縮小ができるので、Webで扱うイメージを非常にスケーラブルにできます。

 また、SVGを使えばHTMLの中に小さなSVGコードを書くだけで、円や棒などのグラフを表示できるようになるでしょう。SVGとCSSをHTMLと一緒に使うことで、いままで画像が多く使われていたWebページの表現方法が変わっていくのではないかと思っています。

Lie氏がOperaブラウザ上で示したSVGのデモ

 ただし、SVGや現在策定中のCSS3はまだテイクオフしていません。Webブラウザで使い始める人が増えるのには、もう少し時間がかかるでしょう。そもそも私がCSSに最初にかかわり始めたのが1994年で、1996年には仕様が固まりましたが、本格的に使われ始めたのは2001年辺りからでした。ですから、普及には時間がかかると思っています。

 しかし、CSS3やSVGは非常に魅力的な機能なので、来年、2010年には使い始める人が増えてくるものと期待しています。

ブラウザにサーバを組み込む新機能「Opera Unite」

─── Operaの新しい機能、「Opera Unite」はどうですか?(2009年11月23日にOpera 10.10で機能を正式公開、参考:Operaブラウザの更新版がリリース、3件の脆弱性に対処

Lie Opera Uniteは、WebブラウザにWebサーバを組み込む技術で、いままで写真共有サイトなどほかのWebサイトにデータを送らないとできなかったことが、ずっと簡単にできるようになります。例えば、自分のマシン内に家族の写真などのファイルがあって誰かと共有したいとき、そのまま自分のマシンから公開できるのです。

 もちろんこれには欠点もあって、公開していたいのなら、ずっとマシンをネットにつなげておかなくてはいけません。

 しかし、これはあくまでも1つの「機能」にすぎません。つまり、公開したくないときは、すぐにマシンをネットから外すか、スイッチを切ればいいのですから。

─── どうやらオペラは、ほかのWebブラウザベンダとは違うビジョンを持っているように思えます。

Lie その通りです。Webは、自分のコンテンツを公開して貢献しようとしても、そのためにファイルをサーバにアップロードするというように、いまだに手間が掛かります。オペラは「それをもっと簡単にしよう」「コンテンツの共有を簡単にしよう」としているのです。われわれはユニークなビジョンを持っているといえます。

 以前から、OperaブラウザではPtoPのBitTorrentプロトコルも採用しています。これも「コンテンツ共有を簡単に行えるように」と実装しているのです。

 このように、オペラはWebでの情報の共有に非常に力を入れています。こうしたことが実現すれば、「PCだけでなく、Weブラウザが動いている携帯電話で撮影した写真もほかのデバイスから簡単に共有して見ることができる」といったことも可能になるでしょう。

 われわれはモバイルやPCの間で、Webブラウザの情報をシンクロするだけでなく、実際のコンテンツもWebブラウザ間で共有するということも実現しようとしています。Webでの情報共有を簡単にすることこそ、オペラが力を入れていることです。

インタビューを終えて

 Webカメラ経由で、しかも英語でのインタビューというのは初めての経験でしたが、Lie氏は説明がうまく、スムーズにインタビューできました。オペラにとってはPCだけでなく、携帯電話やゲーム機、セットトップボックスなどさまざまなデバイスでWebが使い続けられることが重要で、そのためにHTML5の持つ過去からの互換性と、標準仕様という民主的な仕組みを重視している、ということがよく分かりました。

 このHTMLに対する同社のロジックは、グーグルやモジラとは異なる同社のビジネスから来る要請と感じる一方で、Webではプロプライエタリなものはふさわしくないという、ビジネスとは別の側面として持っているLie氏の信念のようなものも同時に感じました。

 また、「パワーが必要なアプリケーションはネイティブで書けばいい」というあっさりした姿勢も、グーグルとは対照的です。こうした多様な立場の企業が協力して進めているHTML5の標準化は、やはり興味深いものだなとあらためて思います。

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新野 淳一(にいの じゅんいち)Publickey

アスキーでリレーショナルデータベースInformixのテクニカルサポートを担当し、Windows Magazine編集部でnetPCを創刊、ASCII NT副編集長となる。フリーランスを経て、2000年にアットマーク・アイティの創立に参画、取締役に就任し、Webサイト@ITの立ち上げを行う。2008年再びフリーランスとなり、2009年、Webサイト「Publickey」を立ち上げる。


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 INDEX
HTML5が拓く新しいWeb(3. Opera編)
HTML5はFlashやSilverlightを不要なものにする
  Page1
オペラは、当初からHTML5策定に深くかかわっていた
HTML5はFlashやSilverlightを不要なものにする
オペラがHTML5に積極的な理由
Page2
性能とリーチは、デスクトップとWebのトレードオフ
あらゆるデバイスでより良いネット体験を提供したい
CSS3やSVGは、2010年から使われ始める
ブラウザにサーバを組み込む新機能「Opera Unite」
インタビューを終えて

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