ユーザビリティのヒント(1)

多くのユーザーは
一度に1本しかジュースを買わない
「自動販売機での不要な動作から考える」

ソシオメディア 上野 学
2006/6/2


 エッジケースを過大視しない

 前項とも関係しますが、一般的に、システムは大多数のユーザーにとっての利便性を優先するようにデザインされるべきです。なぜなら仕事や手続きを簡便化するのがシステムの存在意義だからです。通常の利用範囲を超えた状況を想定してプログラムを作ることは重要ですが、大多数のユーザーに対してそういった「例外的な利用からシステムを守るための」機能や制限を強調してしまうと、かえってタスクが阻害される場合があるので注意が必要です。

 プログラミング作業では、主要な使用方法に対する処理の作り込みと同じかそれ以上に、特殊な使い方をされた場合の処理の作り込みに時間をかけますが、ユーザーインターフェイスの設計では、一般的な使用状況に最適化した表現に気を使うべきです。プログラマーはエッジケースを重視しますが、インタラクションデザイナーはコモンケースを重視すべきなのです。起こりそうもない場合を考慮し過ぎて、起こるべきことの利便性を低下させてはいけません。

 例えば、多くのジュースの自動販売機では、1000円札を入れた場合に、ボタンを押して商品を1つ購入すると「続けて購入モード」に入ってしまうので、いちいち釣り銭レバーを押さないといけません。しかし(おそらく)ほとんどのケースでは、ユーザーは一度に1本しかジュースを購入しないのです。つまり釣り銭レバーを押すという余計な操作が膨大な回数行われていることになります。

 あるいは、グローバル企業のウェブサイトにおける会員登録の申し込みフォームで、世界各国の膨大なリストから日本を選ばせるようになっているのを見たことがあります。機能性としてのニーズはあるかもしれませんが、実際にはめったに必要とされない機能のために、全ユーザーに余計な作業を強いているのです。

図4 せめてデフォルト値を日本にしておくべきだろう

 別な例としては、航空券の予約システムで価格の安い順に検索結果を見たときに、一般のチケットに交じって高齢者限定の割引チケットが上位に表示されることがあります。するとそのような割引枠の存在を知らない若年のユーザーが誤って予約しようとしてしまうでしょう。

 また、路線検索で都内の地下鉄の乗り換えを検索しているのに、新幹線利用のオプションが提示されるといった状況も、ユーザーからすれば非常に不自然なものです。

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 INDEX

ユーザビリティのヒント(1) 
  Page1<不必要な情報をユーザーから求めない>
Page2<エッジケースを過大視しない>
  Page3<ユーザーインターフェイスにゲームを持ち込まない>
  Page4<複雑なマウス操作を要求しない>
  Page5<マウスとキーボードのコンビネーションを減らす>
  Page6<スプリング式の操作をできるだけ排除する>

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