ネットワーク機能を標準装備したWindows OSの普及によって、とりあえず使える小規模ネットワークを構築するのは極めてたやすくなった。Windowsマシンをいくつか接続しただけのワークグループ・ネットワークなら、TCP/IPの知識などほとんどなくても、ファイルの共有やプリンタの共有を行うことが可能だ。
しかし家庭内ネットワークのレベルならともかく、企業のネットワークではこうはいかない。ニーズに応じて、規模的にも、機能的にも常に変化が要求される企業ネットワークを、それを許すべく柔軟に構成し、安全かつ安定的に運営していかなければならない。このためには、ネットワークの設計から、日々の運用、障害時の対応など、あらゆる場面でTCP/IPの基本的な知識が求められる。
本書は、現在のニーズはもちろん、将来の拡張や、万一のトラブル時にも備えた機能性の高いTCP/IPネットワークを設計し、運用しようとする管理者のための教科書である。TCP/IPネットワークの設計で最も難しいのは、トラフィックの最適化や、異なる通信メディア(イーサネットと無線通信など)の統合などを可能にするIPルーティングの設計にある。具体的には、IPアドレスの割り当て、サブネットの分割、サブネット間での効率的なルーティング設定などだ。このようなIPルーティングについて、自身で設計・管理・運用ができるようになるということが、本書の大きな目標である。単純にプロトコルの解説だけでなく、実際のネットワーク構成を例にとり、効率的なIPアドレスの割り当て方法や、ルーティング設定などを具体的に解説している。この際、ルータ内にあるルーティング・テーブルがどのように作られ、使用されるかなどを具体的に追跡しており、たいへんに分かりやすい。
また典型的なネットワークばかりでなく、マルチキャスト通信やモバイル・ネットワーク(無線ネットワーク)を例としたネットワーク構成法など、後半には最新のIP技術に関する解説が加えられ、さらに本書の最後には、次世代のIPネットワークとして注目されているIPv6の話題がシンンプルにまとめられている。
各章の終わりには、その章で解説したことの「まとめ」と、その章で学習したことが身に付いているかどうかを確かめるための練習問題が用意されている。まさしく教科書スタイルで学習できるようになっているわけだ。TCP/IPネットワークをこれから学習しようという、ネットワーク管理者候補生にとっては、TCP/IPの基礎から、IPルーティングの実際までを、ゼロから学習することができる良書である。もちろん、すでにTCP/IPに関して、ある程度の知識がある管理者が、ルーティングへの理解をさらに深めるために使うこともできる。
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