[事例研究] セイコーインスツルメンツ株式会社

2.Webソリューションの必要性


デジタルアドバンテージ
2002/03/12


 単に技術面だけを考えれば、フィールド・エンジニアが公衆回線を使ったリモート・アクセスでサーバに接続し、SAP R/3のデータを直接更新するという方法も可能なようにも思える。しかしメンテナンスなどの具体的な作業指示は、本部側にいるスタッフが判断を下して発行する必要がある。またフィールド・エンジニア(全国で約100名)は社員ばかりでなく、協力会社のエンジニアもおり、セキュリティ上の問題から、ダイヤルアップ接続は利用できなかった。「お客さまから連絡を受けたら、障害などの内容を確認し、必要な場合だけフィールド・エンジニアを派遣することになります。実際、問い合わせのほとんどは、電話対応レベルで解決しています。フィールド・エンジニアを派遣するかどうか、部品交換が必要かどうかなどは、経験豊富なスタッフでなければ判断できません。また社員だけがアクセスするなら、ダイヤルアップでSIIのLANに接続するという手段もあるのですが、協力会社のエンジニアにこれを許すことはできません。ですから、エポリードサービスのスタッフやフィールド・エンジニアに加え、協力会社のエンジニアも参照できるSAP R/3のフロントエンドが必要でした。これには、Webブラウザとインターネットがあればアクセスが可能なWebソリューションが適していると考えました」(エポリードサービス 大石典利氏)

SAP R/3を手始めに、ノーツやSiebelなどの連携も検討

 フロントエンドのWebアプリケーションにはWebLogicを使い、これをSAP R/3と連携させることが決定された。こちらも技術的には、WebLogicとSAP R/3を直接接続することが可能であるし、実際は別の案件で、両者の連携を行った実績もあったようだ。しかし今回は、ここにBizTalk Serverを介在させてEAIを構築することになる。「今回構築することになったのはSAP R/3の顧客管理モジュールとWebアプリケーションの連携ですが、将来的には既存のCRMシステム(Siebelを使用)や手順書などのドキュメント管理用として使っているロータス・ノーツ、マーケットプレイスとの連携なども念頭にあり、特定のプラットフォームに依存しないEAIが必要でした」(SII 鈴木真二氏)

圧倒的なコストパフォーマンスの高さでBizTalk Serverを選択

セイコーインスツルメンツ
株式会社
ストラテジーセンター
eマネジメント部
eポータルグループ 課長
鈴木真二
「今回のSAP R/3とWebアプリケーションの連携をはじめ、将来的には既存のCRMシステムやロータス・ノーツ、マーケットプレイスとの連携なども念頭にあり、特定のプラットフォームに依存しないEAIが必要でした」

 いまやEAIは、ビジネス・アプリケーション統合の主要キーワードとなっており、EAI専業メーカーによる製品も数多い。しかも必ずしもEAIシステムとしてはあまりなじみのないBizTalk Serverを選択した理由は何だろうか? 「当然ながら、EAIソフトウェアの選定に当たっては、専業メーカーを含めいくつかの製品を検討しました。これらのEAI製品の特徴は、非常に高機能で、特にメインフレームとの接続性が高く、実績も申し分ないのですが、いかんせん高価だということ。しかしSIIでは、SAP R/3(Hewlett-PackardのHP-UX上で稼働)を導入した段階でメインフレームを撤廃しており、メインフレームとの接続性は重要ではありませんでした。また、すでにSAP R/3と他システムとのアダプタ部分をグループ内で開発した経験があり、EAIシステム側の機能にそれほど依存しなくても連携を実装できそうだと考えました。BizTalk Serverは開発環境も強力で、かつ将来のXML Webサービス対応が明確に打ち出されていること、ほかのEAIシステムと異なり、小規模なレベルから始められて、必要に応じてこれを拡張できる柔軟性を備えていること、システムのベース・アーキテクチャを変更することなく、将来的なプライベート・マーケットプレイスや、ロゼッタネットなどの共通マーケットプレイスにまでを対応できるということ、そして何よりも、EAI専業メーカーのシステムと比較したコストパフォーマンスが圧倒的に高いということがBizTalk Server選択のポイントです。具体的な数値の公表は避けますが、価格差はまさに『けた違い』でした」(SII 鈴木真二氏)

技術評価は2カ月で完了、コンサルティングの協力も得て3カ月でカットオーバーに

 結果的に、技術評価に残った候補はBizTalk Serverだけだった。SAP R/3とWebとの連携は以前に開発経験もあったため、BizTalk ServerとSAP R/3との連携も、非常に見通しやすかったという。実際のシステム開発は、SIIグループでSI事業などを手掛けるセイコーアイテック(株)が担当した。「私たちセイコーアイテックでは、以前の案件でSAP R/3とWebシステムとの連携を実現した経験があり、その際に使ったSAP R/3とのインターフェイスをBizTalk Serverとの間でもほぼそのまま使えることが分かっていましたから、見通しはよくききました」(セイコーアイテック 五十嵐善明氏)

セイコーアイテック株式会社
情報システム部
SE四グループ
課長
五十嵐善明
「高価格帯のEAIシステムでは、きめ細かいサービスを受けることは難しかったと思います。高価格帯EAIシステムと比較して不足する部分について、コンサルティングやサポートを受けられたという点も、BizTalk Serverを選択した理由といえます」

 2001年5月からBizTalk Serverの技術評価を開始し、7月までの2カ月でテストを完了、正式採用を決定した。その後、今回のシステム構築作業が開始されたのは、2001年9月からで、実質3カ月程度で試験運用開始にこぎつけた。今回のシステムでは、フロントエンド側のWebLogicで多くのビジネス・プロセス処理を行っており、BizTalk Server側での多くの処理をパターン化できたこと、そして何より、マイクロソフトのコンサルタントとの共同作業が非常に円滑だったことが早期のカットオーバーを実現したポイントだったという。「SAP R/3とBizTalk Serverとのインターフェイスは開発しましたが、BizTalk Server側のブローカー定義やステータス・モニタの機能はマイクロソフトのコンサルタントが実現してくれました。このためSII側で主に作業したのは、XMLスキーマの設計と、システム連携にかかわる運用監視設計でした」(セイコーアイテック 五十嵐善明氏)

 「当初は、BizTalk Serverの大きな特徴であるオーケストレーション機能などを使って、接続するアプリケーションごとにそれらを作り込んでいくのかと思ったのですが、マイクロソフトのコンサルタント担当者の提案でそのような構成ではなく、イベント・ドリブンで処理が実行されるような形式にして、データ変換に必要なデータベースのパターンさえプロトコルとして定義すれば、連携が可能になるような構成をとることになりました。こうしたシステムの核心部分で経験豊富なマイクロソフトのコンサルタントの意見を聞くことができ、実際に開発もお願いできたということが、早期のシステム構築を可能にしたのだと思います」(SII 鈴木真二氏)

 「先に述べた高価格帯のEAIシステムでは、ある程度アダプタのパッケージ化が進んでいますから、このようにきめ細かいサービスを受けることは難しかったと思います。これはBizTalk Serverそのものの特徴ではありませんが、高価格帯EAIシステムと比較して不足する部分について、そうしたコンサルティングやサポートが受けられたという点も、BizTalk Serverを選択した理由といえます」(セイコーアイテック 五十嵐善明氏)

今回展開されたシステム構成

 以下は、今回展開されたシステムの構成である。OSとしてはWindows 2000 Advanced Serverを組み込んだIAサーバを4台用意し、このうち2台にそれぞれBizTalk Server 2000 Enterpriseをインストールしてロード・バランシングを行い、残る2台にSQL Server 2000 Enterpriseをインストールしてアクティブ−パッシブのクラスタリング構成とした。

今回導入されたBizTalk ServerによるEAIシステムの構成
今回はWindows 2000 Advanced ServerをベースとするIAサーバを4台用意し、このうち2台にBizTalk Server Enterpriseをインストールしてロード・バランシングを導入した。BizTalk Server用のDBとして、残る2台にSQL Server Enterprise Editionを組み込み、アクティブーパッシブ・タイプのクラスタリング構成とした。

 SAP R/3とBizTalk Server、Webアプリケーション・サーバとなるWebLogicとの間のインターフェイスは次のとおりである。

SAP R/3、BizTalk Server、WebLogic間の接続インターフェイス
BizTalk ServerとWebLogicとの接続では双方にHTTPプロコトルを使用する。これに対しBizTalk Server→SAP R/3への通信ではCOMインターフェイス(DCOMインターフェイス)を、逆方向ではFTPを使ってファイルを転送する。

 図から分かるとおり、BizTalk ServerとWebLogicとの接続では双方にHTTPプロコトルを使用する。これに対しBizTalk ServerとSAP R/3とのデータ交換では、BizTalk Server→SAP R/3への通信ではCOMインターフェイス(BAPI、RFC)を使い、逆にSAP R/3→BizTalk Serverの通信ではFTPを使ってファイルを転送する。


 INDEX
  [事例研究]セイコーインスツルメンツ株式会社
    1.フレキシブルなビジネス・アプリケーション連携にはEAIが必須
  2.Webソリューションの必要性
    3.紙ではなしえなかった圧倒的な情報量とスピード
        技術コラム:BizTalkはどこまでEAIに使えるのか?
 
 「事例研究」


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