[事例研究] セイコーインスツルメンツ株式会社

技術コラム:
BizTalkはどこまでEAIに使えるのか?


新野淳一/@IT
2002/03/12


 EAIとは、簡単にいってしまえば「企業内アプリケーション統合(Enterprise Application Integration)」と直訳そのままだが、おおまかには複数のアプリケーションのデータを共通化する(もしくは統合する)「データ統合」の側面と、アプリケーションを連係させる「アプリケーション統合」の側面がある。

 企業内には、さまざまなアプリケーションが稼働している。例えば、営業部門ではSFA(Sales Force Automation)アプリケーションのSiebelが、工場ではSCMのためにi2が、本社ではERPとしてSAP R/3が、そしてサービスセンターにはOracleベースの独自アプリケーションが稼働している、といった具合だ。しかし正確な販売戦略を立てるためには、生産計画と顧客動向の両方を分析すべきであり、別々に稼働している営業部門と工場の情報システムの連係が必要だろう。

 このために有効なのが、両方のシステム間で矛盾していたり、重複して管理されたりしているデータをあらためるデータ統合であり、生産計画から導き出された結果を販売計画に反映させるといった、アプリケーションの連係を可能にするアプリケーション統合だ。このように、既存のシステムを作り替えるのではなく、そのままのシステムでデータやアプリケーションの統合を実現し、新しい価値を作り出すことがEAIの目的といえる。

EAIの実現に必要な機能

 単純なEAIとは、複数のデータソース間(すなわちアプリケーション)を結んで夜間などにデータ交換を行い、バッチ的なデータ統合を実現する、といったものになる。全社的にデータを統合するだけでも、データの精度が高まり、重複がなくなることで効率が高まり、プロセスの速度をあげることが可能になる。

 これに対し高度なEAIとしては、複数のアプリケーション間でのデータ受け渡しをリアルタイムに行い、あるアプリケーションの結果をほかのアプリケーションに反映する、といった方法で密なアプリケーション統合を実現するものがある。さらに、中央に統合データベースを構築し、常にそこに全社のアプリケーションの最新データを蓄積して分析に利用する、データウェアハウス的な機能を含むものなどもある。

 上記のような機能を備えたEAIソフトウェアを提供する専業ベンダは、以前から存在していた。代表的なものは、Tibco、Vitria Technology、BEA Systems、WebMethods、SeeBeyondなどだ。これらの専業ベンダは、特にメインフレームなどとの接続に強く、リアルタイムなデータ統合・アプリケーション統合のためのアーキテクチャといった高度な機能を備えている。また、SAP/R3などERPアプリケーションも、外部のアプリケーションと連係するためのアダプタやAPIなどが用意されているため、ERPなどのアプリケーションを中心としたEAIの実現も選択肢の1つではある。

 こうしたEAIに求められる機能を簡単にまとめてみると、下記のようになる。

  • メインフレーム、SAP/R3、MQSeries、Oracle、PeopleSoft、SQL Server、CORBA、プレーンテキストなど、さまざまなデータソースへの接続機能
  • データソースからのデータを別の形式に変換する変換機能
  • アプリケーションの接続方法、統合方法や、データ変換に関するロジックやフローを記述するビジネスロジック機能

BizTalkのEAI機能

 BizTalk Serverはご存じのように、主にBtoBを実現するために開発された製品だが、BtoBを実現するには企業内のシステムをとりまとめるEAIの実現が不可欠であり、BizTalk Serverにも当然のようにEAI機能が含まれている。そのため、BizTalk Serverを用いてEAIを実現するというのは決して突飛な発想ではない。マイクロソフトによると、BizTalk ServerによるEAIの事例も増えてきているという。

 BizTalk Serverの他アプリケーションとの接続機能は、COMやMSMQ経由での接続のほか、SQL Server、Oracleなどの主要なデータベース製品、Microsoft BizTalk Adapter for SAP、Microsoft BizTalk Adapter for MQSeriesによるSAP/R3、MQSeriesとの接続だ。さらに、Host Integration Serverを経由することによって、メインフレームとの接続も可能になっている。苦手な接続先を探すとすれば、CORBAオブジェクト関連と、EJB(Enterprise Java Beans)JMS(Java Message Service)といったJava関連との接続だろう。

 データ変換機能は、現在では前述した多くのEAIベンダの製品もXML化が進んでおり、XML化されたデータをXSLT(XSL Transformations)を用いて変換するようになってきている。そのため、基本的な変換機能に大きな違いはないと考えられる。しかし、EAI専業ベンダの製品では、EDIFACT3270といったレガシーなデータ・フォーマットにもネイティブに対応しており、作り込むことなくそのまま変換できる機能を多く備えた点は、BizTalk Serverよりも導入しやすいかもしれない。

 ビジネスロジック機能については、BizTalkオーケストレーション・デザイナーによるビジュアルな開発がBizTalk Serverの利点だ。しかしEAIでは、ワークフロー的なロジックが多いためビジュアル化しやすく、最近では多くのEAIベンダもビジュアルな開発ツールを提供してきている。ただし、複数のアプリケーションのフロントエンドを統合する、メインフレームの上位レイヤとして機能をラップしてみせる、といった高度なロジックが要求されるアプリケーション統合は、BizTalk Server単体では実現が難しいかもしれない。そのような場合には、Internet Information Serverなど、別のレイヤでプログラミングの得意な製品と組み合わせて扱う必要があるだろう。

価格破壊のBizTalk Server

Microsoft BizTalk Server 2000 Enterprise Edition
BizTalk Server最大の特徴は、圧倒的なコストパフォーマンスにある。 実績などが十分に認知されれば、EAIベンダにとって非常に大きな脅威となるだろう

 こうしてみると、BizTalk ServerはEAIの際のデータ統合については、専業製品に肩を並べるとまではいかないまでも、基本的には十分な機能を備えているといっても過言ではない。アプリケーション統合の部分も多くのニーズにこたえることが可能で、他製品との組み合わせれば、さらに高度な統合を実現可能な機能を備えている。

 EAI専業製品との機能的な差を考えると、特にレガシーなプラットフォームとの組み合わせにおいて、EAI製品ではあらかじめ用意されている機能を、BizTalk Serverでは作り込まなければならない場面が生じる、といった点、CORBAやEJBなどとの接続機能が不足している点(これもSDKによって作り込めば可能ではあるが)などがある。ただし、EAIのほとんどは、マルチベンダ環境にあるハードウェア、ソフトウェアの連係のためのソリューションであり、環境や要求ごとに適したソフトウェアはがらりと変わる。BizTalk Serverが得意なところと、苦手なところの見極めは重要だ。メインフレーム中心ではなく、データ統合中心のアプローチならば、BizTalk Serverの機能は十分条件に見合うのではないだろうか。

 しかし、従来のEAI製品とBizTalk Serverのあいだには、こういった表面的な機能以上の大きな違いが2つ存在すると考えられる。

 1つは信頼性や実績といったものだ。特に勘定系にかかわる大規模なEAIでは、基幹業務を支えるミッションクリティカルな条件がEAIソフトウェアにも求められる。リアルタイムなアプリケーション統合を目指すのであればなおさらで、その場合にはEAIソフトウェアにも、メインフレームと同等の信頼性と応答性が要求されるだろう。EAIがアプリケーションのボトルネックになってしまっては意味がない。多くのEAIソフトウェアでは、これにこたえるべくSolarisなどのUNIXと大規模ハードウェアに対応する。Windowsプラットフォーム上のBizTalk Serverがこうした実績と信頼性を顧客にアピールするには、いましばらくの時間がかかりそうだ。

 もう1つの違いが価格である。従来のEAIソフトウェアは大規模システム志向だったということもあり、一般的な価格が数百万円から数千万円と高価格帯にあった。その一方で、BizTalk Serverは数十万円から導入可能であり、ほかのEAIベンダからみれば価格破壊ともいえる。

 機能は専用製品に肉薄し、価格はけた違いに安い。これがBizTalk ServerのEAI市場でのポジションではないだろうか。最も、EAI市場の中ではBizTalk Serverはまだ新参者であり、前述のように実績などが十分に認知されているわけではない。しかし、そうした実績や機能が着実に積み上げられたときに、その価格と機能を考えると、EAIベンダにとってはBizTalk Serverは非常に大きな脅威となることだろう。End of Article

 

 INDEX
  [事例研究]セイコーインスツルメンツ株式会社
    1.フレキシブルなビジネス・アプリケーション連携にはEAIが必須
    2.Webソリューションの必要性
    3.紙ではなしえなかった圧倒的な情報量とスピード
      技術コラム:BizTalkはどこまでEAIに使えるのか?
 
事例研究


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