[運用]

部内無線LAN導入実践講座(Windows XP編)(前編)

―― 無線LANは入れたい、でも不安、というアナタに ――

1.基本中の基本Q&A

井上孝司
2008/03/05
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 無線LANの利用が一般化してからずいぶんたつが、その間に判明した問題点や高速化の要求を受けて、無線LANにまつわる各種規格(セキュリティ規格など)が大幅に増加した。そのため、さまざまな規格名称が混在する結果になり、「無線LANの設定は難しそう」という印象につながっているのは否めない。

 そこで本稿では、小規模オフィス程度の規模のユーザーを対象に、現時点で利用できる無線LAN規格や、実際の設定方法などについてまとめることにする。今回の前編では、各規格の関係について整理し、規格それぞれが持つ機能を理解できるように、分かりやすくQ&A形式で解説する。後編では、量販店で手に入る一般的な無線LAN機器およびWindows XPクライアントを使い、安全・確実な設定を行うためのノウハウを解説する。

無線LANの基本中の基本Q&A

  最初に、無線LANの基本的な仕組みについて解説する。

「無線LAN」は、どうやって無線通信を可能にしているのか?

 イーサネットのような有線LANでは、ケーブルに電気信号を流して通信を成立させている。それに対して無線LANでは、空中を伝播する電波を利用して通信している。その際に、同じ範囲内に複数の無線LANが存在する可能性を考慮して、使用できる周波数範囲(周波数帯)の中に複数のチャンネルを設定している。

 現行の無線LAN規格では、周波数帯として2.4GHz帯と5.2GHz帯の2種類があり、それぞれに設定しているチャンネル群の中から空きチャンネルを指定して利用する。テレビ放送で「VHF」「UHF」といった区別があり、その中に複数のチャンネルを設定して放送局を区別しているのと同じだ。

チャンネルは、干渉と混信を防ぐ機能を提供する
複数の無線LANがあって電波の領域が重なっていても、チャンネルが違えば混信しない。同じチャンネルを使用する無線LANが近所にあると、電波の干渉によって通信が不安定になる。

 そして、コードレス電話の「親機」に当たる「アクセス・ポイント」を設置して、無線LANを利用するクライアントPCからの通信を束ねる形にしている。つまり、無線LANを使用するPCに取り付けた無線LANアダプタが「子機」という位置付けになる。この動作形態を「インフラストラクチャ・モード」という。PC同士が直接通信する「アドホック・モード」という動作形態もあるが、インターネット接続を実現するには不向きなので、めったに利用しない。

無線LANの2種類の接続モード
インフラストラクチャ・モードではアクセス・ポイントが通信を束ねる。アドホック・モードではクライアントPC同士が直接通信する。通常はインフラストラクチャ・モードを使用する。

無線LANはどの程度の距離まで通信できるのか?

 利用に際して免許を必要とするアマチュア無線や業務用の機材などとは異なり、無線LANでは、免許を不要にするために電波の出力を低く抑えている。しかしそれでも、直線距離で100m程度までは到達する。ただし、アクセス・ポイントとPCの間に壁や家具などの障害物があると、通信可能な距離が短くなったり、通信が不安定になったりする。


無線LANで利用可能なPC台数は?

 同じアクセス・ポイントに接続するPCが増えると、PC1台当たりの伝送能力が減る。使用する規格や要求される速度性能にもよるが、1アクセス・ポイント当たり、10〜20台程度に抑えるのが無難と思われる。

無線LANでは、クライアントが増えると1台当たりの伝送能力が減る
アクセス・ポイントを用いる場合、1台のアクセス・ポイントが持つ通信能力を分け合って利用する形になる(図中の数式は目安であり、常にこの通りに通信速度が落ちるわけではない)。そのため、クライアントの台数が増えると性能が下がることになる。現時的にはクライアントを10〜20台程度に抑えるのがよいだろう。

無線LANには規格がたくさんあってよく分からない。なぜこんなにたくさんあるのか?

 無線LANの規格は米国電気電子技術者学会(IEEE: Institute of Electrical and Electronic Engineers)の中のIEEE 802.11という作業部会がまとめているため、無線LANに関連する規格の名称はすべて「IEEE 802.11○」となっている。無線LANの物理的な通信規格(使用する周波数やチャンネルなど)だけでなく、セキュリティなどに関する規格もすべて「IEEE 802.11○」と名付けられているので混乱しやすいが、執筆時点で存在する通信規格としては、以下の5種類がある。有線LANに負けないように高速化を図ったことで、規格がいろいろと増えてきた経緯がある。

通信規格 周波数帯 伝送速度 備考
IEEE 802.11b 2.4GHz帯 11Mbps 最初に普及した規格。PCに加えて、PDAなどにも対応例が多い
IEEE 802.11a 5.2GHz帯 54Mbps 最初の54Mbps級規格。周波数帯が異なる点と機器の価格がネック
IEEE 802.11g 2.4GHz帯 54Mbps 速度と価格を両立しており、もっともポピュラーな規格
IEEE 802.11n 2.4GHz帯 100Mbps超 今後の主流になると思われる。現時点では暫定版
5.2GHz帯 100Mbps超 IEEE 802.11aの後継。現時点では暫定版
無線LANの通信規格
執筆時点では5種類の通信規格が存在する(上から古い順)。当初はIEEE 802.11bが使われていたが、より高速な通信を実現するために新たな規格が次々と開発されている。IEEE 802.11nはまだドラフト(暫定)版の規格なので、2008年初頭の主役はIEEE 802.11gといえる。

 後述するような事情から、5.2GHz帯と比べると2.4GHz帯の方が利用しやすいため、2008年初頭時点での主役はIEEE 802.11gだろう。だがこれからはIEEE 802.11nの普及が進みそうである。


新しい規格に対応した無線LAN機器では、古い規格はサポートされていないのか?

 新しい規格に対応した製品でも、同じ周波数帯の製品であれば互換性は確保されている。2.4GHz帯の無線LAN機器であれば、以下のような関係になる。

  • IEEE 802.11n対応機器: IEEE 802.11b/gも利用できる
  • IEEE 802.11g対応機器: IEEE 802.11bも利用できる
  • IEEE 802.11b対応機器: IEEE 802.11bのみ利用できる

 ただし、異なる規格のクライアントが同じアクセス・ポイントを共用していると、高速な規格の通信が低速な規格の通信に引きずられて速度低下を起こすので、高速な規格で統一する方が望ましい。


最近はPC以外も無線LANを利用できるというが?

バッファローの無線USBプリント・サーバ「LPV3-U2-G54
USB接続のプリンタをIEEE 802.11gの無線LANを介して複数のPC間で共有できる。

 IEEE 802.11規格に適合したアダプタと所要のソフトウェアがあれば、PC以外の機器でも無線LANを利用できる。例えば、プリンタをネットワークに直結するプリンタ・サーバ、PDAやスマートフォンといった携帯端末、家庭用ゲーム機、デジタルカメラなど、無線LANを利用可能な製品は多い。

 ただし、こうした製品では利用可能な規格が限られている場合がある。特にセキュリティ規格については、古い規格しか利用できないものもあるので注意が必要だ。

無線LANの製品選びのQ&A

 続いて、実際に無線LAN関連製品を購入する場合の注意点についてまとめてみた。

最初に確認しなければならないのは、どんな点か?

ノートPCに内蔵されている無線LANアダプタの例
内蔵されている無線LANアダプタの規格は取扱説明書や仕様表で確認できる。この写真の無線LANアダプタはIEEE 802.11n非対応のため、たとえIEEE 802.11n対応アクセス・ポイントを設置しても、IEEE 802.11n本来の性能は生かせない。

 無線LANを利用する可能性が高いのは、やはりノートPCだろう。ただし、機種によって内蔵している無線LANアダプタの規格が異なる。従って、すでにノートPCを所有しているのであれば、どの規格に対応しているかを確認しよう。

 無線LAN内蔵ノートPCにおける2008年初頭の主流はIEEE 802.11b/g対応製品だが、IEEE 802.11n(ドラフト版)あるいは5.2GHz帯のIEEE 802.11aにも対応している製品はある。ただし、そうした製品は高価な場合が多い(廉価な製品はIEEE 802.11b/gだけに対応していることが多い)。



 INDEX
  [運用]
  部内無線LAN導入実践講座(Windows XP編)(前編)
  1.基本中の基本Q&A
    2.製品選びと設定のQ&A
 
  部内無線LAN導入実践講座(Windows XP編)(後編)
    1.無線LAN導入前に決めておくこと
    2.アクセス・ポイントとWindows XPクライアントのセットアップ
    3.Windows XPクライアントのセットアップと設定確認

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