サービスの改革が生産財企業の事業を変える
2006/4/25
生産財メーカーの競争戦略
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前回「事例に見る“現場力”からの発想」では、業務プロセスのレベルから改革に着手し、それまでの自社親会社製品の保守サービス事業を他社製品の保守サービスまで拡張していったA社の事例を紹介しました。この事例では保守サービス部門が子会社として独立していたので、その変化は非常に劇的に表れました。
一般に生産財メーカーにおいては2つの競争戦略の方向性が見られます。1つは製品そのもの、もしくはモノ作りの卓越性に傾注し、製品の機能性、コスト、性能を追求するという「プロダクト志向」の戦略です。もう1つは顧客が製品を使用する目的や状況に注目し、顧客が最大の効用を得られるように関連製品やサービスを充実させていこうという「カスタマ志向」の戦略です。
いずれも特段に新しい発想ではありませんが、成功している企業は、そのいずれかの方向性を志向しているようです。一眼レフ・カメラのように、主製品のアクセサリーや周辺機器をすべてそろえて提供していくという例はありますが、主製品も周辺機器もすべて一流の製品力を実現することは、技術や資源が分散されて困難であるため、基本的にはこの2つの競走戦略は排他的な選択ということになります。
カスタマ志向の戦略には、さらに提供する機能の軸における拡充と時間軸における拡充の2つの方向性があります(図1)。
図1 戦略の方向性とサービスの拡張 |
機能軸のサービス拡張、時間軸のサービス拡張
機能軸の拡張とは、例えばコンピュータ事業において、製品からシステムへ、システムからソリューションへと提供機能が変わっていったようにモノ売りからサービス提供へ、そしてサービスの範囲の拡張へと事業機能を拡張していくことです。前回のA社の例も、同様に、修理から保守へ、保守から保全へと、顧客へのサービスレベルの向上を追及していくうちに、サービスの機能がより高度で総合的なものに変わっていっています。
時間軸の拡張は、フローのビジネスからストックビジネスへの転換などといわれるように一度自社からの購入を行った顧客が、繰り返し関連製品やサービスを購入していくような事業の仕組みを作り、長期間にわたって付加価値を獲得していくものです。最も典型的な事例はパソコン用のプリンタとインクカートリッジなどの消耗品の例が挙げられます。
このモデルは意外と古くからありました。例えば印刷用の製版フィルムです。印刷の品質を維持するために印刷会社は、現像機メーカーのフィルムを使う場合が多かったのです。そのため印刷業者が製版フィルム作成に掛かる累積総コストは、現像機購入費よりも、フィルムほかの消耗品の金額の方が大きくなります。ですから、現像機(兼フィルム)メーカーは大胆な値引きをしてでも、現像機のリプレイスを取りにいく営業を仕掛けていました。現在では印刷装置のデジタル化が進んでいますので事情は変わってきていますが、印刷や複写機の業界では、よく知られたビジネスモデルです。
機能軸の拡張は、それを追求していくと時間軸の拡張へと発展していきます。コンピュータ事業の場合には、ソリューションの先にはシステムサービスやアウトソーシングといった時間軸上でのサービスの拡張が進められました。
- 注:図1でコンピュータ事業におけるサービス拡張の例としてシステムサービスを挙げたが、厳密にいうと顧客個別にサービスの範囲と実施方法を計画・契約するもので、多数の顧客に対して標準化されたサービスを提供することとは異なる。まだ実施例が少ないのでシステムサービスを例示したが、本来は一部のSFAなどに見られる業務用のASPなどの方が、筆者の論点に適合するものであることを追記しておく。
時間軸の拡張には、製品導入後のアフターサービスの付加価値化というだけでなく、従来は必要なときだけ行っていたサービスを、顧客の(製品利用の)目的に合わせて拡張し、常時付加価値を提供するように緻密化するという意味もあります。A社の事例もコールによる修理という「点」のサービスから、定期的な点検保守という時間軸に沿った「線」のサービス、そして本来は顧客自身が行っていた設備資産の管理を代行し、保守保全の計画を立て堅実に遂行するという顧客プロセス代行型のサービスへと拡張しています。不動産業界では、従来は別々の業者が行っていた清掃・点検業務を一括受託して、業務計画の策定から業務の遂行までをファシリティマネジメント(総合的な施設管理)として事業化する例が見られます。これはさらに、家賃の収受や入退去業務まで行うプロパティマネジメントへと広がっていきます。
このような機能軸および時間軸のサービスの拡張を進めていくと、必然的に顧客の業務へのより深い関与が要求されるようになります。顧客が製品を購入した後、製品の機能を発揮できるように導入を行い、それを使用、運転もしくは運用し、顧客が目的とする事業上の成果を生み出していくという顧客のライフタイムに対してかかわっていくことになるからです。顧客が製品を使用して成果を上げていくための管理業務を代行支援することになるのです。顧客が行っていた管理業務を代行するということは、顧客とそのプロセスを共有するということになります。
Page1 生産財メーカーの競争戦略 機能軸のサービス拡張、時間軸のサービス拡張 |
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