公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(21)
デフレを食い物にする官業ビジネスの弊害
高田直芳
公認会計士
2011/10/28
物価を考える際、水は常に“最新製品の供給”であるから、需給法則が当てはまるはずだ。したがって、供給過多であれば価格は下がってもよさそうなものなのだが、水道料金はむしろ上昇し続けている。一体なぜなのか。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年12月4日)
PR
前回コラムでは、自動車三大メーカー(トヨタ・ホンダ・ニッサン)を取り上げた。今回はエレクトロニクス業界として、ソニー・富士通・NECの業績を検証する予定でいた。ところが、これが「難攻不落トリオ」なのである。
ソニー・富士通・NECの決算書を見た人なら、すぐにわかるだろう。2009年に入ってからの四半期すべてが、赤字決算の連続。富士通についてはファナックの株式売却益によって、2009年9月期に黒字を確保したが、その売却益を消去すればソニーやNECと「同じ穴のムジナ決算」だ。
黒字決算の企業に対する分析手法は、世の中に山ほどある。経営危機に陥って倒産した企業に対する経営分析も星の数ほど存在する。ところが、赤字決算を続けていながら、経営危機を心配されない企業に対する経営分析というのは、古今東西、聞いたことがない。
こうした「健全なる赤字決算」はどう分析したらいいのだろう、と考えあぐねていたときに、姪っ子から「おじさま。業績がヒドイと、どうして分析の対象にならないのですか?」と問いかけられた。
失礼ながら、シロウトはときどき、専門家がハッとするような言葉を投げかけてくることがある。彼女は「業績が悪いはずなのに、ソニーも富士通もNECも、企業活動を続けているわけでしょう?」と畳み掛けてきた。
確かに、彼女の言う通りである。「健全なる赤字決算」を続ける企業こそ、分析対象として「おいしい」と考え、取り組むべきである。
20世紀初頭にケインズ経済学が登場したときは、別名「不況の経済学」と呼ばれたものだが、ソニー・富士通・NECについては「不況の経営分析」とでも称して、次回、俎上に載せたい。
実は、解析処理もコラムも完成している。あとは3社のデータに、もう少し哀愁を漂わせたいものだ、と考えているところだ。
ということで、今回は官業ビジネスの「弊害」と「不思議」を取り上げる。サラリと軽めではあるが、毒舌の風味を楽しんでいただきたい。
企業努力を怠らない民間企業
ぬくぬく生きながらえる公共団体
本連載コラムの第7回ではユニクロ(ファーストリテイリング)、また、第8回ではニトリとポイントを取り上げた。明暗分かれる流通業界では「明」の代表格として、これら3社はマスメディアなどで再三にわたってとりあげられる。
その他に注目される企業として挙げられるのがカインズホームである。北は宮城県から西は岡山県まで展開をしている。2010年には本社が、群馬県高崎市から埼玉県本庄市へ移転するという。成長する企業の重心は、徐々に都心へシフトするようだ。
残念ながら同社は非上場企業なので決算書が公開されておらず、経営分析の対象にならない。ただし、カインズの業績は不明でも、同社の店舗を訪れて店内を数分ほど歩き回っていると「この企業は、すごいなぁ」と感心させられる。
筆者の自宅近くにあるスーパーマーケットは、地元では安売りとして有名で、筆者が好んで買う野菜ジュースは1パック180円程度で販売されている。ところが、カインズの店頭では、同じ商品が158円で売られていた。
これほどの価格差があると、カインズには、大量仕入れ大量販売の仕組みだけでは説明できないノウハウがあることを伺わせる。
流通業界に限らず、株式会社と名の付く組織は、企業努力というものを怠らない。ところが、世の中には努力をしなくても、ぬくぬくと生きながらえる組織が存在するから困ってしまう。