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連載:コンバージェンス項目解説(2)

工事進行基準は3つの条件で理解できる

山田和延
プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント株式会社
2009/10/29

2009年4月から適用されるようになった工事進行基準。ソフトウェア会社などでは大きな影響を受けた。IFRSの動向からも注目される工事進行基準の概要を説明する(→記事要約<Page 3>へ)

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税法も工事進行基準に対応

 ここまでは財務会計におけるルールや留意点を説明してきたが、法人税についても簡単に触れておく。

 法人税の計算では2008年度から、工期1年以上かつ請負金額が10億円以上の工事には工事進行基準が強制適用されている(注)。これ以外でも任意に工事進行基準が適用することは可能だ。また、いままで任意で適用することができなかった、損失が見込まれる工事についても、工事進行基準が適用できるようになるように変更されている。

(注) 法人税における工事進行基準にかかわる改正規定は2008年度から適用であるが、1年間の経過措置があったため、ほとんどの会社では実質的な適用は2009年度からとなる。

 繰り返すが、これは法人税の話であり、財務会計のルールとは異なることに留意していただきたい。

 なお、消費税の計算に当たっては、工事完成基準で適用することが原則であるが、進行基準で適用することもできる。基本的には完成基準のほうが消費税の計上タイミングが遅くなり、課税上は有利となる。しかしこれは、消費税だけ完成基準とする場合の事務負担なども考慮して決定しなければならない。

IFRSと日本基準の差異

 一方、IFRSでは請負形態の工事および受託開発のソフトウェアについて工事進行基準を適用する要件は、ほぼ日本と同様で、成果の確実性が認められるものが対象となる。では成果の確実性が認められない場合はどうか。IFRSでは、工事完成基準を適用することはできない。

 代わりに、工事収益と工事原価を同額計上する「工事原価回収基準」と呼ばれる方法を適用する。工事原価回収基準とは、発生した原価のうち、回収できる見込みの分だけ収益を計上する方法である。工事原価回収基準を採用すると、工事中の売り上げは原価と同額かそれ以下となり、利益が計上されることはない。

IFRSでの工事進行基準の適用は今後困難に

 現在、IFRSと米国会計基準の間で会計基準のコンバージェンスを行っている。このなかで、収益の認識については、契約者間の契約上の資産、負債に焦点を当てたアプローチが採用され、資産を顧客に移転するという契約上の約束(履行義務)が果たされることにより、収益を認識するという方向で検討がされている。

 現在適用されている工事進行基準では、資産が顧客へ移転されていない時点で収益を認識しているが、この新しいアプローチでは、資産が移転しない、すなわち、顧客が建設中の資産を支配しない限りは収益が認識されないことになる。つまり、現在一般に行われている契約のもとでは、工事が完成する前の途中段階では支配が移転しているとはいえないため、新しいアプローチが採用された場合、IFRSでは今後、工事進行基準を適用することが難しくなりそうである。

 ただし、IFRSにおいてこの新しいアプローチが会計基準に適用されるのはまだまだ先であり、また、日本の会計基準も当面はこのまま残るため、引き続き工事進行基準に対応していくことは必要となる。また将来、財務会計としての工事進行基準を適用することが難しくなるとしても、この適用に必要となる原価管理体制やプロジェクト管理体制の構築は、工事の品質管理や収益管理には非常に有効となる。

 経営管理体制の構築という面では、工事進行基準を適用するための体制整備は、決して無駄となることはないはずである。

筆者プロフィール

山田 和延(やまだ かずのぶ)
プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント株式会社
ファイナンス&アカウンティング シニア マネージャー 公認会計士
東京工業大学工学部卒。一般事業会社を経て、朝日アーサーアンダーセン株式会社(現プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント株式会社)に入社、現在に至る。制度連結システムの導入、グループレポーティングシステムの構想、連結予算管理システムの構想と導入、決算早期化、企業組織再編、各種規定整備、内部統制等のコンサルティングに従事。会計制度変更による影響や対策、管理会計の取り組みに関する講演・雑誌寄稿等多数。共著に「IT業界のための『工事進行基準』完全ガイド」(日経BP社)他

要約

 工事進行基準については、2009年4月から開始する事業年度より「工事契約に関する会計基準」および「工事契約に関する会計基準の適用指針」が適用されている。IFRSとのコンバージェンスの一貫として導入された会計基準であるが、本家本元のIFRSでは工事進行基準の適用を認めない方向となりつつある。しかし、当面は日本でも工事進行基準は残るため、これに対応しておくことは必要となる。

 工事進行基準とは、完成したものを引き渡す契約がある前提で、工事進捗度合いに応じて売り上げを計上する方法である。工事進行基準を適用すると、工事の進捗(しんちょく)度合いに応じて売り上げと売上原価が計上され、長期にわたる企業経営活動の実態が財務諸表でとらえやすくなる。工事進行基準の客観性を担保するためには、3つの項目について信頼性を持って見積もることができる場合に、工事進行基準を適用することとしている。

 対象となるのは主として建築工事であるが、プラント建設や受注製作のソフトウェアも含まれる。特に影響が大きいのは受注製作のソフトウェアであろう。

 現在、IFRSと米国会計基準の間で会計基準を統一する調整を行っている。このなかで、収益の認識については、リスクと経済価値が移転した時点から、支配が移転した時点を重要視する方向で検討がされている。この考え方によれば、通常は工事が完成する前の途中段階では支配が移転しているとはいえないため、IFRSでは今後、工事進行基準を適用することが難しくなりそうだ。

 ただし、IFRSにおいてこの考え方が会計基準に適用されるのはまだまだ先であり、また、日本の会計基準も当面はこのまま残るため、引き続き工事進行基準に対応していくことは必要となる。

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