連載:コンバージェンス項目解説(5)
金融商品の市場リスクを定量化、時価開示の新指針とは
大谷真之
プライスウォーターハウスクーパース株式会社
2010/2/8
時価情報の開示対象を金融商品全般に拡大する適用指針が適用される。企業が求められるのは、企業が保有する金融商品を定量的に分析し、結果を開示することだ。対応のポイントを説明しよう。(→記事要約<Page 3>へ)
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次に、これら市場リスクの定量的情報を開示するかどうか決定するためには、その市場リスクの重要性について検討する必要がある。適用指針19号によれば、「総資産及び総負債の大部分を占める金融資産及び金融負債の双方が事業目的に照らして重要であり、主要な市場リスクに係るリスク変数(金利や為替、株価等)の変動に対する当該金融資産及び金融負債の感応度が重要な企業」について開示が求められる(第3項(3))。
しかし、これら残高や感応度から数値基準で機械的に開示の要否を判断することを適用指針19号は求めておらず、一般的には「銀行や証券会社、ノンバンク等が想定される」(第18項)としている。このことから、多くの事業会社では定量的管理を行っているかどうかに関係なく、適用指針19号適用後も市場リスクの定量的情報について事実上は開示不要と思われる。
では、事業会社にとって市場リスクの定量的情報は全く不要といえるのだろうか。事業会社における市場リスクの定量的情報の有用性について、次に考えてみる。
市場リスクに関する定量的情報の有用性
まずは、IFRSにて市場リスクの定量的情報の開示が行われているEUでの事例を見てみることとする。下の表は、EUの事業会社のアニュアルレポートを基に作成した市場リスクの注記に関する開示状況である。
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サンプル選定に当たっては、売上高を基準として、EUに所在する各業種の代表的な企業を選定している。この表を見る限り、中には定量的情報を開示していない企業もあるが、すべての企業で市場リスクに関する何らかの情報開示を行っていることが分かる。事業会社においても、特に金利や為替レートの変動は経営計画や公表した業績予想に対する見直し要因となり得るものである。
その意味で市場リスクの定量的情報は重要である。実際、有価証券報告書の「事業の状況」において、経営成績などに影響を与えるリスクとして金利動向、為替動向を挙げている企業は多い(ただし、ここで為替動向という場合には金融商品の決済時損益や換算差額だけでなく、外貨建売上高の期中平均レートなどによる円換算時の影響も含まれる)。
例えば、次のような為替動向が業績予想に与える影響について示した企業の具体例もみられる。2009年1月、2009年3月期の営業利益予想額について、当初の4100億円から400億円に修正した(なお、この年度の最終的な実績は1271億円であった)。また、公表資料によれば、この3700億円の減少予想要因のうち、為替差損の影響は300億円である。また、前年度の営業利益実績額は3455億円であり、これと2009年度営業利益予想額400億円との差額である3055億円のうち、為替変動による部分は1100億円とのことである。これほど為替リスクが、常に業績に影響を与えるような場合もある。