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連載:コンバージェンス項目解説(5)

金融商品の市場リスクを定量化、時価開示の新指針とは

大谷真之
プライスウォーターハウスクーパース株式会社
2010/2/8

時価情報の開示対象を金融商品全般に拡大する適用指針が適用される。企業が求められるのは、企業が保有する金融商品を定量的に分析し、結果を開示することだ。対応のポイントを説明しよう。(→記事要約<Page 3>へ)

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 市場リスクの定量的情報を投資家に開示しているということは、EUの事業会社では日常の経営管理においてこのような情報を把握しているということである。金利や為替レートの変動による財務インパクトに関する情報は、経営計画を立案する際の基礎データとなる。経営計画実行時においても、定量的情報を用いて日常的に市場価格の推移を財務インパクトと関連付けながら、状況に応じて対策を講じることが可能になる。決算日が近くなってから慌てて業績予想修正の検討を始めることがない。つまり、市場リスクの定量的情報を把握することで、経営管理の計器飛行をより精緻にすることが可能となる。

総合的に判断し手法を決定

 事業会社において市場リスクの定量的管理を導入するか、また、どの手法を用いるかについては、このように保有している金融商品の市場リスクが経営計画や業績予想に与える量的重要性(つまり定量的情報の有用性)や、手法の精度、導入の手間、維持コストなどを考慮して決定されることになるだろう。例えば導入の手間について考えてみると、金融機関に適用されている新BIS規制(通称、バーゼルII)では「内部モデル手法」としてVaRを用いる場合、取引部署から独立したリスク管理部署の設置や、VaR算出時の仮定の統計的検証などが求められる。

 また、当然ながら、このようなリスク管理手法を理解、運用できる人材も必要である。従って、ただVaRを導入すれば良いというものではなく、それを使いこなせるだけのリスク管理体制の整備が同時に必要となる。これに対して、BPVであればVaRのような高度な統計技術を用いず、一定時点の経理データから市場リスクの影響を受ける金融商品を抽出することで見積もり可能であることから、VaRよりもBPVのほうが望ましいといえる。

 投資家への情報提供という点では、開示するとなれば監査対象になり、コストの増加につながる。しかし2ページの表にあるように、EUの主要な事業会社は市場リスクの定量的情報を投資家に提供している。従って、会計基準で求められていないからといって日本の事業会社が市場リスクの定量的情報を開示しないということは、投資家への情報提供という点でEUの事業会社との間に格差が生じることになる。市場リスクの定量的管理を導入した場合は、入手した定量的情報を自主的に開示したほうが望ましいと思われる。

 なお、定量的情報を開示する場合は、定性的情報であるリスク管理体制についても併せて記載することになろう。具体的には2010年3月期から開示対象となるリスク管理方針、リスク管理規程、管理部署の状況、リスクの減殺方法、測定手続きなどについて記載することになる(適用指針19号第3項(3))。

 以上、見てきたように、事業会社にとっても市場リスクの定量的情報の有用性は検討する価値があると思われる。適用指針19号の適用への対応を機に、日本の事業会社の経営管理をより一層発展させていくことが望まれる。

筆者プロフィール

大谷 真之(おおたに まさゆき)
プライスウォーターハウスクーパース株式会社
ファイナンス&アカウンティング アソシエート
監査法人における財務諸表監査や財務デューデリジェンス、一般事業会社における経営企画業務などを経てベリングポイント(現プライスウォーターハウスクーパース)に入社。内部統制やIFRSなどのコンサルティングサービスに従事。

要約

 2008年3月10日に企業会計基準適用指針19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」(以下、適用指針19号)が公表された。IFRSへのいわゆる会計コンバージェンスをにらんだ会計基準で、従来、有価証券など一部の金融商品に限定されていた時価情報の開示対象を金融商品全般に拡大している。

 また、リスク管理体制の記載についても、従来は派生商品(デリバティブ)に関する部分のみに限定されていたが、金融商品全般に対して認識された重要なリスクについて記載を求めるなど、投資家に提供する財務情報の充実を図っている。

 適用指針19号は、基本的には2010年3月31日以降に終了する年度末財務諸表から適用されるが、そのうち一部の開示内容については2011年3月31日以降に終了する年度末財務諸表から強制適用となる。

 会社が保有している金融商品(負債も含む)に含まれる市場リスクが重要であると考えられる場合には、重要と判断した市場リスクについて定量化を行い、その結果を開示することになる。社内のリスク管理体制の中ですでにバリュー・アット・リスク(以下、VaR)などを用いて定量的管理を行っていれば、その内容を開示すれば良く、定量的管理を行っていない場合にはベーシス・ポイント・バリュー(以下、BPVという)による合理的な想定を行い、その結果を開示することになる。

 事業会社において市場リスクの定量的管理を導入するか、また、どの手法を用いるかについては、このように保有している金融商品の市場リスクが経営計画や業績予想に与える量的重要性(つまり定量的情報の有用性)や、手法の精度、導入の手間、維持コストなどを考慮して決定されることになるだろう。

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