連載:IFRS対応ITシステムの本質(2)
先行企業のIFRS対応システムを解説しよう
鈴木大仁
アクセンチュア株式会社
2009/8/17
欧米グローバル企業は日本企業を凌ぐ圧倒的な業績を誇っている。このような欧州のハイパフォーマンス企業はどのようなIFRS対応ITシステムを開発しているのか。その開発思想を解説する(→記事要約<Page 3>へ)
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日本企業が採るべきロードマップ
第1回では2015年の強制適用から逆算すると、2013年4月までにはIFRS対応したITシステムの刷新を狙えるようにプロジェクトを計画すべきであり、さらに早期適用を目指すのであれば、まずは梅コースでの対応から始めることで作業重複や無駄を排除し、次の松竹コースを狙えるようなロードマップを描くのが望ましいと述べました。
ロードマップを描く上で、グローバルレベルの松コースに挑むならば、グローバルデザインしたテンプレートシステムの構築のみならず、グローバルロールアウトチームを組み、システムの各拠点への同時ロールアウトを考えねばなりません。運用保守費用を削減するためにも、受け皿となるシェアードサービスセンターも準備する必要があります。
“松竹梅”別のIFRS対応モデル |
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アクセンチュア資料から作成 |
また、システム導入の松竹梅に関わらず、会計制度面においては、各企業はグループ共通の会計方針や元帳を再設計するために、ルールや情報の骨子検討、骨格定義し、その要件をIT部門に伝えてシステム化構想に織り込んでもらう働きかけが必要です。財務・経理部門がIASB(国際会計基準審議会)やASBJ(企業会計基準委員会)、金融庁といった外部機関の詳細検討に合わせてIFRSの詳細に関する具体的手続きや判断基準を設計する一方で、IT部門ではそれらをシステム機能として実装に移すアプローチをとることが必要となります。
来年、再来年は多くの企業がERPの保守期限切れを迎え、ERPバージョンアップを検討しているようです。重複投資を回避するためにも、企業はIFRS対応とERPバージョンアップ対応の歩調を合わせることが大切です。アクセンチュア調査によると、IFRSに関わるコストは欧米の大企業で数億円から数十億円に上るという結果が出ています。IFRS導入に伴い構築すべき経営モデル、検討の諸要素を早期に整理し、ロードマップ(関係する複数取組み間のマイルストン/プロジェクト・マスタスケジュール)を定義することが必要です。
日本企業にとっての課題
いままでの常識は、もはや常識ではなくなってきています。日本企業がIFRS対応する上での最大の課題は、英語力も含め、日本人の持つ思いやりの気持ちや優しさ=弱さという所にあるのではないかと考えます。現地と渡り合い、グローバル拠点を束ね、新しいことを創造していくリーダーシップを日本企業の本社が握れるかという点が、まさしく課題であり、成功要因になるでしょう。これからIFRS導入を目指す企業の社員一人ひとりが、他部署や他者依存せずに、社内にメッセージを発信することから変革が始まるのだと考えます。
筆者プロフィール
鈴木 大仁(すずき ひろひと)
アクセンチュア株式会社
IFRSチーム
システムインテグレーション&テクノロジー本部
パートナー
1989年、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。大手消費財メーカー複数社のIFRS導入やERP再構築プロジェクトを手掛ける。そのほか、大手化学メーカー、大手食品・飲料メーカー、大手自動車会社などでERP導入プロジェクトを担当。
アクセンチュア IFRSサイト
要約
営業利益率で比較すると欧米企業が10〜20%台なのに対して多くの日本企業は数%。欧米企業は日本企業を凌ぐ圧倒的な業績を誇っている。このような欧州のハイパフォーマンス企業はどのようなIFRS対応ITシステムを開発しているのか。その開発思想を解説する。
欧米のグローバル企業の標準システムでは、ERPのコードやマスタ、システム機能の徹底した共通化、物理的な共有を推し進めている。IFRS対応を契機に、ここ2、3年の間にグローバルERPシステムを構築した欧州企業の中には、販売物流・製造・調達・会計・人事といった基幹系業務全般を範囲とし、その約85%の機能をグローバルで共通化したケースもある。
連結会計システムについても、ERP内の単体会計システムとIFRSベースで勘定科目を統一。セグメント情報についてもERP側からダイレクトに入ってくる形式を採っている企業が多い。組替えや付替えなどが介在せず、シンプルな形でERPから連結まで一貫したシステム構成としている。
IFRS対応でポイントになる総勘定元帳の持ち方も日本企業と欧米グローバル企業とでは大きく異なる。欧米グローバル企業は1つの元帳で、IFRSと同時に複数国の会計基準/税法に同時に対応している。勘定科目を同一にし、グローバル複数国に対応可能な元帳を持つことで、この対応を実現している。
これからIFRSの準備を始める日本企業がロードマップを描く上では、グローバルレベルの企業を目指す場合、グローバルデザインしたテンプレートシステムの構築のみならず、システムの各拠点への同時ロールアウトを考える必要がある。運用保守費用を削減するためにも、受け皿となるシェアードサービスセンターも検討すべきといえる。