企業価値向上を支援する財務戦略メディア

連載:日本人が知らないIFRS(2)

「IFRS襲来」ではない

高田橋範充
中央大学 専門職大学院国際会計研究科 教授
2009/9/29

「IFRS襲来」と表現されるようなIFRSについての否定論が日本には存在する。国際的状況、特に米国の戦略を説明することでIFRS否定論の誤りを明らかにする (→記事要約<Page 3>へ)

前のページ1 2 3

PR

 この崩壊は2つの要因によって起きた。1つは、財務報告の国際化問題が、それまでのクロスボーダーの上場問題から、インターネットを媒介として成立したグローバル資本市場へと推移したことである。もう1つは、2005年から始まった欧州域内のIFRSの強制適用が急速に普及することが予想され、それが米国企業の意向を変化させていったことである。すなわち、欧州の在外子会社や、買収対象企業の財務報告がIFRSに準拠しており、本社だけ米国基準に固執することはかえってビジネスチャンスを逃す可能性が生じることになるからだ。米国企業社会内部からもIFRSへの要求が芽生えてきたのである。

 この段階になり、単なる調整表による統合では十分ではなく、1つの高品質な会計基準を、全世界において共通して採用すべきという認識が広がり始めた。この方向性を促進するものとして、IFRSを使用するためのロードマップが2008年に公表されたのである。

 このような米国の議論を追っていくと、米国はIFRS適用において後退する可能性はほとんどないことが分かる。むしろ、そのような可能性がないからこそ、IASBに影響力を行使し、できる限り、米国の意見を通そうとしているといえるであろう。それが、米国の現在の立場である。時計の針が戻ることはないのである。

否定論を主張している場合ではない

 一見すると、最初に述べた(2)や(3)の議論は、あたかも国際状況を熟知しているかのように聞こえる。しかし、正確にIFRSを巡る議論を追っていくと、むしろ、これらの議論が国際状況を無視したものであり、これらの議論がまかり通ること自体が、日本社会の国際的無知を露見させているように思われる。

 今回取り上げた議論は、IFRSを巡る国際戦略の一部である。G20のIFRSに関する言及や、中小企業版IFRSの国際的意義など、まだまだ論点はある。これらの議論は、いずれもIFRSの国際的普及を促進させることになる。IFRS否定論を主張している場合ではない。世界は間違いなく、1つの財務報告基準を必要としている。それへの対応こそが、国家としての、あるいは個々の企業としての国際戦略の重要な部分に直結するように思われる。

筆者プロフィール

高田橋 範充(こうだばし のりみつ)
中央大学 専門職大学院国際会計研究科 教授

公認会計士二次試験に合格後、中央大学大学院経済学研究科博士後期課程修了(経済学博士)。福島大学助教授、中央大学経済学部教授を経て、国際会計研究科教授。著書に『ビジネス・アカウンティング』(ダイヤモンド社)

要約

 IFRSへの関心が日本で急激に高まっている。ただし、多くの関心は「IFRS襲来」と表現されるように、端的に「外圧」と理解する論調が多いように思われる。そのような論調の背後には、IFRSに対する批判的見解や否定論が存在している。

 ただし、IFRSをめぐる議論を詳細に追っていくと、否定論の根拠には状況認識にかなりの誤りがあることも明らかである。

 IFRSは日本人の視点から見ると、とても極端な議論を展開しているように思える。IFRSはあくまで資本市場から見た企業評価のみを議論の対象としており、その生産能力の評価を無視しているように感じられるのである。

 ただし、IFRSの議論を打ち破るような論理や会計・財務報告のモデルを日本人ないしは日本社会が提示しているかといえば、ノーと言わざるを得ない。国際的に共通した財務報告のモデルは、投資家の意思決定を中核とすべきだ、というIFRSの主張は論理的に強固である。

 米国が自国基準を放棄し、IFRSを受け入れに向かっての準備を始めたことも、日本だけが自国基準に固執することの意味合いを薄くしている。IFRS受け入れに至る米国の議論を追ってみると、米国の問題意識の変遷が分かる。

 世界は間違いなく、1つの財務報告基準を必要としている。それへの対応こそが、国家としての、あるいは個々の企業としての国際戦略の重要な部分に直結するように思われる。IFRS否定論を主張している場合ではない。

前のページ1 2 3

@IT Sepcial

IFRSフォーラム メールマガジン

RSSフィード

イベントカレンダーランキング

@IT イベントカレンダーへ

利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | サイトマップ | お問い合わせ
運営会社 | 採用情報 | IR情報

ITmediaITmedia NewsプロモバITmedia エンタープライズITmedia エグゼクティブTechTargetジャパン
LifeStylePC USERMobileShopping
@IT@IT MONOist@IT自分戦略研究所
Business Media 誠誠 Biz.ID