連載:IFRS時代の新リスク管理入門(2)
IFRS対応業務プロセスの内部統制ガイド
河辺亮二、伊藤雅彦(監修)
株式会社日立コンサルティング
2009/11/16
IFRS時代の内部統制システムを確立するに当たって、具体的な業務プロセスレベルでの統制活動の方向性について検討を行う。さらに、IFRSとグループガバナンスとの関係についても論じたい(→記事要約<Page 3>へ)
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(3)棚卸資産(IAS2号)に関する内部統制
IFRSの棚卸資産の測定では、原価(コスト)と正味実現可能価額(NRV:Net Realizable Value:予想売価から販売にかかる費用を控除した金額)のいずれか低い額によって開示を求める、いわゆる「低価法」を強制している。また、低価法による評価減について市場価値が回復した場合には、戻入れ(評価益の計上)が強制される。さらに、わが国の小売業等の原価の測定で幅広く用いられている簡便法(標準原価法や売価還元法など)については、適用結果が実際原価と近似する場合のみ適用を認める、などといった点で異なっている。
つまり、棚卸資産の原価管理が脆弱な会社もしくは事業所は、コスト管理に係る内部統制を強化する必要があり、期中において棚卸資産の公正価値の変動を、適切にモニタリングする仕組みの構築が求められる。具体的には、標準原価を採用している場合、毎四半期での実際原価との乖離(かいり)状況のチェックに加え、企業が保有する在庫の陳腐化状況について、低価法による評価損の発生する兆候をチェックする手続きの確立が必要となる。また、グループ内で運用に偏りが生じないよう、方法や判定基準などをマニュアル化し、グループ内で共通ルールの定着を図るという視点も、内部統制上必要となる。
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(4) 有形固定資産(IAS16号)に関する内部統制
有形固定資産の認識と測定における、IFRSと日本基準との大きな差異は、IFRSの資産・負債アプローチによる価値の測定と、日本基準の損益アプローチによる(可処分)所得の測定の違いにある。資産の取得原価の構成要素や減価償却や減損処理に関しても、その考え方の違いが明確に反映されており、IFRSでは有形固定資産の帳簿価額の測定を可能な限り経済的な実質(公正な市場価格)に適合させるためのルール化が図られている。
具体的には、取得原価の構成に関しては、将来の資産除去債務の固定資産への計上や購入に係る借入れコストの資産計上、減価償却に関しては、経済的耐用年数による償却の強制、減損に関しては、戻し入れ処理による公正価値への近似化などが定められている。
日本基準の固定資産管理は、税法との関係から償却費の計算、税務上の損金算入額などが緻密に計算されており、損益計算という目的で緻密に管理はされている。一方で、資産価値の変動の認識という視点では、相当大雑把な測定がなされている(帳簿価額で据え置かれている)というケースが散見される。減価償却費の計算も、経済的な便益の消費パターンを反映した償却によらない状況が一般的であり、IFRSでは差異が著しいものについて、連結決算において調整処理が求められる可能性が高い。
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固定資産の管理に係る内部統制の柱は、「認識」においては固定資産の構成管理と取得原価情報との対応の明確化、「測定」においては公正価値の評価プロセスの妥当性のチェックにあるだろう。固定資産の保有数が膨大な設備装置産業においては、資産の購入、建設・工事管理から、固定資産管理まで一連のプロセスの中で、原価の構成状況を適切に把握する仕組みの構築と運用監視に関する内部統制が求められる。また、減価償却費の計算においては、国内(税務)基準、IFRSと目的に応じた残高・履歴管理の仕組みが求められる。また、固定資産の財産価値の変動(陳腐化)が激しい業界においては、経済的耐用年数の見積もりは、原則として毎期見直しを行う必要があり、また減損評価のプロセスを確立するとともに、手続きはマニュアル化してグループにて共有することが、内部統制の要件として挙げられる。
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(5)営業債権(IAS39:金融商品の認識と測定)に関する内部統制
IFRSでは、営業債権の評価はIAS39号(金融商品の認識と測定)に従い、償却原価法による認識が行われる。さらに、債権の評価に関して、わが国の基準では、企業の保有する営業(売上)債権を一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等の3区分に分類し、債権の貸倒見積高を算定して貸倒引当金を計上するのが一般的である。しかし、IFRSでは「将来発生する期待損失」についてはIAS37号における引当金としては認識されないため、一律に見積もり、将来キャッシュフローの割引現在価値に基づく減損の対象として、IAS39号の金融商品会計に準じた取扱いとなる。従って、よほど妥当な理由がない限り、通常わが国において一般債権に対して税務上認められている、過去の貸倒れ実績率に基づく貸倒引当金の計上は認められなくなる可能性が高いといわれる。
営業債権の減損に関する内部統制としては、債権管理部門において取引先ごとに適切に将来割引キャッシュフローを見積るプロセス(DCF法)を確立することが要件となる。特に、貸倒れ懸念債権に関しては、債務者の支払能力を総合的に判断するため、担保及び保証による債権のカバー状況を加味したうえで、可能な限り客観的な資料を入手して、評価時点における回収可能額の最善の見積もりを行うための合理的な基礎(より客観的な証拠、エビデンス)を入手することが必要となる。決算報告の前提としての営業債権の減損の内部統制は、与信管理という意味においても企業のリスクマネジメントに直結する領域となる。
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