連載:SAPで実現するIFRS対応(4)
公開! SAPを使った業界別IFRS対応事例
鈴木大仁
アクセンチュア株式会社
2010/1/29
日本企業がIFRS対応を検討するに当たり、いくつかの参考となる海外事例を紹介する。各事例の分析から分かった共通した特徴も指摘したい。いかに二重投資を避けるかがポイントだ (→記事要約<Page 3 >へ)
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欧州消費財メーカーB社
消費財メーカー、特に食品や製薬、日用品などを扱うグローバル企業の特徴は、会計のみならず、販売物流・生産管理・人事などSAPのERPをほぼフルモジュールで導入し、かつ集約インスタンス(1インスタンスから4インスタンス程度)で構築しているケースが多いことである。これによってグローバル・サプライチェーンとグローバル経営管理、並びにキャリアマネジメントも含めた完全なグローバルオペレーションの統一を図っている企業が多く見られる。欧州消費財メーカーB社における、欧州・アフリカ・中東・北南米・日本を含めたアジアのグローバルオペレーションの共通化率は、会計領域のみで98%、販売物流・生産管理領域を含めると85%程度という。世の中、無理なことはない。挑戦しない姿勢が無理を生むのだ。
北米保険業C社、韓国保険業D社
クレーム処理、請求入金などフロント部分を個別にERP化する事例も海外では多々見られるが、保険業はじめ、金融系企業に共通するERPの導入範囲の特徴は、会計、購買、固定資産、ビジネスインテリジェンスといったバックオフィス領域に限定していることである。C社は米国企業であるが、カナダが2011年に迎えるIFRSの強制適用や比較開示年度を考慮し、この2010年1月にIFRS対応ERPの初期カットオーバーをした。また、韓国企業のD社も2011年の韓国でのIFRS強制適用を見据え、2010年4月からの新年度に向けてKGAAP(韓国GAAP)の貸借対照表情報からIFRS情報を作り出す最終移行段階の作業を実施中である。
カナダ公共事業E社
内需型産業であるE社では、従来からSAPのERPを導入していた。範囲は上述したC社、D社と同様のバックオフィス領域に加えて、プロジェクト管理、設備管理、顧客問合せ、料金計算/請求などのフロント領域とSAP ERPを多岐に利用している。内需型産業であり、売上高構成は本社が大半を占め、主要子会社数は1桁台前半というE社の事例を最後に紹介する理由は、日本の電力・ガス・輸送などの公共・公益などの設備産業に対する良い事例だと考えるからである。
E社は、バージョンアップのタイミングに合わせて、IFRS対応のためのERP会計モジュール再構築をしたわけだが、その導入範囲は、上記A社やB社のように、グループ、グローバル全体で1つのERPにIFRSを実装させて共通使用させるという大きな話ではなく、本社のみへの導入に現時点ではとどまっている。本社単体で捉えても公正価格と取得原価の二重管理、コンポーネントアプローチによる資産数の増加、減損や借り入れ費用の償却、経済活動の実態に合わせた償却期間や方法への対応など、固定資産並びに決算領域においては業務量の面でIFRSの大きな影響が見込まれたからだ。現在E社では、カナダの2011年強制適用を踏まえ、並行開示開始タイミングであるこの2010年1月からこの再構築後のERPを使いCGAAP(カナディアンGAAP)とIFRSとの日々並行記帳を開始している。
E社の具体的な取り組み時期と内容は以下の通りとなる。
- 2007年〜:IFRS検討開始
- 2008年〜2009年上期:IFRSベースのERP設計・開発
- 2009年下期:ユーザー試行
- 2010年1月:システム本番稼動、IFRS記帳開始
- 2011年12月:強制適用によるIFRS決算報告、CGAAPとの並行開示期間終了
日本企業の競争力復活を
私の寄稿は、今回が最終回となります。読者の皆様のご多幸と、日本の国際競争力の維持・復活、またIFRS対応を契機とした日本企業のグローバル競争力の向上/飛躍を祈願して、「SAPで実現するIFRS対応」を締め括らせて頂きたいと思います。ありがとうございました。
筆者プロフィール
鈴木 大仁(すずき ひろひと)
アクセンチュア株式会社
IFRSチーム
システムインテグレーション&テクノロジー本部
パートナー
1989年、 アクセンチュア入社。大手消費財メーカー複数社のIFRS導入やERP再構築プロジェクトを手掛ける。そのほか、大手化学メーカー、大手食品・飲料メーカー、大手自動車会社などでERP導入プロジェクトを担当。IFRSフォーラムで「IFRS対応ITシステムの本質」を執筆
アクセンチュア IFRSサイト
要約
日本企業がIFRS対応を検討するに当たり、いくつかの参考となる海外事例を紹介する。事例を紹介する前に、各事例を分析した結果、アプローチ面において共通した特徴が挙げられることを指摘したい。
欧州では、IFRS導入決定から適用開始まで3年足らずであったため、十分なITシステム対応をする時間がなく、結果的に強制適用が開始された2005年時点では暫定対応ともいえる梅コース(連結のみでの対応)に留まったケースが多かった。IFRS及び複数会計基準(松コース)に対応したSAPの本格的ERP製品(mySAP ERP 2004)は2005年前後に出荷が始まった。このため、ユーザー企業側としては製品出荷を待つという選択肢しかなく、彼らの取ったアプローチは、「まずは“梅”対応し、“松”を目指す」というものであり、これには二重投資が発生した。
欧州企業の本格対応のアプローチを、2015年3月期強制適用となった場合の日本企業のケースに当てはめて時間軸を試算してみた。拠点展開にかかる期間は、3年〜5年という範囲で捉えるべき。この試算は大企業であればIFRSの検討を始め、初期計画を立てるタイミングは、まさしくいまであることを示唆している。
事例として紹介するのは欧州機械メーカー、欧州消費財メーカー、北米保険業、カナダ公共業などの企業。それぞれのシステム化改修の思想やアーキテクチャを紹介する。