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連載:IFRS基準書テーマ別解説(3)

IFRSの「従業員給付」「退職給付」を理解する

田島聡志
仰星監査法人
2010/1/26

IFRSでは、従業員給付に関する会計処理についてIAS19号の中で包括的に定めている。一方、日本基準においては従業員給付に関する包括的な基準は存在せず、有給休暇引当金等の規定の有無や、退職給付に関する具体的な会計処理方法の一部が異なるなど、いくつかの顕著な相違点が存在する。

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過去勤務債務の認識方法

 最後に、日本基準とIAS19号との間では、過去勤務債務の処理の方法に相違点がみられる点を説明しよう。

 日本基準では、過去勤務債務は数理計算上の差異と同様の方法で処理する(ただし、当年度の発生額を翌年度から費用処理する方法を用いることはできない)こととしている。

 一方、IAS19号 では、過去勤務債務について、給付の権利が確定するまでの平均期間にわたり、定額法によって費用として認識することとしている。ただし、給付の権利が確定している範囲内のものについては、直ちに費用として認識する。

今後の方向性

 以上、現行の日本基準とIAS19号との主な相違点を見てきたが、IAS19号の退職給付会計については、数理計算上の差異の償却、認識方法などの会計処理方法の選択肢の幅が大きいことが企業間の比較可能性を害しているという批判が多く、また当期にどのような事象が生じたのかが分かりにくいという指摘を受けていることから、IASBは近い将来IAS19号を大幅に改訂することを予定している。

 すでに、2008 年3 月にディスカッション・ペーパー「IAS19 号『従業員給付』の改訂に係る予備的見解」がIASB より公表されており、この中では、確定給付制度における遅延認識の廃止(数理計算上の差異の即時認識のほか、制度資産からの収益について現期待収益と数理計算上の差異への区分の廃止や権利未確定の過去勤務費用の一括認識など)を含めて、現行のIAS19号に基づく会計処理を大きく変える方向性を示していることから、大きな注目を集めている。

 2009年11月6日付のIASBの作業計画によれば、2010年1〜3月の公開草案の公表を経て、2011年1〜6月に最終基準書が公表される予定である。その際には、改めて現行の日本基準との相違点を洗い出す作業が必要となるため、留意が必要である。

筆者プロフィール

田島 聡志(たじま さとし)
仰星(ぎょうせい)監査法人

東京大学工学系研究科修士課程を修了後、東レ株式会社にエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。公認会計士試験合格後、東京北斗監査法人(現仰星監査法人)に入所。2005年より全米5位の会計事務所であるRSM McGladreyのマンハッタン事務所に出向後、2009年に帰国し現在に至る。現在は、国際会計基準への移行支援業務及び研修、所属する国際ネットワークへの対応業務、国際的な監査業務などに従事している。

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