[ガートナー特別寄稿]
日立はストレージ世界市場を制覇できるか


ガートナージャパン
データクエスト ストレージ担当シニアアナリスト
鈴木雅喜

2002/5/11

 日立製作所は、5月8日に新しいストレージソリューションコンセプト、「True North」(トゥルー・ノース)とともに、次世代ハイエンドストレージ「SANRISE9900Vシリーズ」と統合システム運用管理ソフトウェア「JP1」に新たに統合するストレージ・ソフトウェア群を公表した。日立は自社の成功のためにストレージ事業を非常に重要なものと位置付け、ストレージ世界市場の中でNo.1を目指すと述べている。ここでは日立のTrue Northとストレージ世界市場の中での同社のポジションについて考えていきたい。

■True Northは、オープン化の決意表明

 “True North”とは、直訳すれば「真北」。もともと航海や航空の分野で用いられていた言葉のようで、「本当に大事な目標」という意味である。日立がこの標語とともに目指す方向性は、ストレージに関する「オープン化」、そして「ストレージのハードウェアとソフトウェアの融合」である。

 ストレージ市場の歴史は浅い。RAID機能を有するストレージ製品が登場したのは1980年代の後半、日本では1990年代に入ってからである。歴史が浅いがゆえに、ベンダそれぞれの独自色の強い製品群が市場を織り成してきた。しかしこの2、3年の中で、ほとんどすべてのストレージベンダが、少なくとも標準化を進める方向性を表明している。ユーザーは、ストレージが多様なサーバー製品に接続可能となり、ストレージ資源が共用できるようになるだけでは満足せず、標準化を通して異なるベンダのストレージ製品を相互に接続し、効果的な統合管理とともにTCOを下げられるインフラを求めている。

 ベンダにとって、独自色を弱め標準化を推進することは、場合によっては差別化要素を失い、ベンダ間の競合を激化させることにつながる。しかし日立はユーザーのニーズにこたえることが、結果的に自社のビジネスにプラスに働くと判断したようである。自社のストレージに関するAPIの他社への公開を進め、さらに業界標準のモジュール提供を通して他社のストレージ・ハードウェアとの接続性や、他社のストレージ・ソフトウェアとの連携を容易にしていく方向を明らかにした。そういったことから、True Northは、日立のストレージ・オープン化への決意表明と言ってもいいだろう。

■高まるソフトウェアの重要性

 ストレージ市場と言うと通常、RAID構成をとるストレージ・ハードウェア市場のことを指す。しかし、市場の動向を考えるうえで最も重要になる「製品の価値」とは、ハードウェアによってもたらされるものではない。ソフトウェアによるものでもないし、サービスでもない。ユーザーにもたらされるストレージの真の価値とは、このハード、ソフト、サービスの3つがそろってはじめて成り立つものである。この意味ではTrue Northのなかでソフトウェアを重要なコンポーネントの1つとして位置付けた方向は妥当なものと言えよう。しかし必ずしも業界の先陣を切ったわけではない。

 日立の強力な競合企業であるEMCは、かなり以前からストレージ・ソフトウェアにビジネスチャンスを見出し、ハイエンド領域で他社より先行してきた。現在でも、ソフトウェアの対応範囲やその多機能性では他社の追随を許さない。ストレージ・ソフトウェア世界市場では、EMCが3割を超えるシェアで首位をキープし、ベリタス・ソフトウェア、IBMと続いている。この数年間で躍進を遂げているIBMも、ストレージ・ソフトウェアに対してさらに注力するようになった。ストレージ・ビジネスの中で、ソフトウェアに売上面での成長と利益の源泉を求めていくトレンドは今後も強まっていくだろう。

 日立にとっての課題は、このソフトウェア部分にある。ストレージソフトウェア市場の規模は、ハードウェア市場に比べて小さいが、その重要性は高まっている。企業の目的は収益を上げることであって、シェアを取ることは直接の目的ではない。同社はハードウェアの強みを温存しながら、ストレージ・ソフトウェアに関して、今後さらに多くのリソースを割いて猛烈なキャッチアップを図っていくであろう。また市場での開発競争が時間との戦いであることを考えると、独立系ストレージ・ソフトウェアベンダのなかで世界市場No.1のベリタスとの技術提携をどのように生かしていけるかが、非常に重要となるだろう。

■日立の可能性と課題

 日立はストレージ世界市場を制覇できるのであろうか――。激動のストレージ市場の中で市場シェア予測をすることは非常に難しいし、するべきではないというのが、ガートナーのポリシーでもある。ただ、ハードウェア部分だけ切り出し、ヒューレット・パッカード向けOEM、サン・マイクロシステムズ経由で販売されるものを含めると、日立はすでにトップを狙えるポジションにあることは確かである。日立は競争力のあるストレージ・ハードウェアで世界市場をリードしていける可能性を有しているといえよう。しかし、たとえそれが実現したとしても、それはゴールではない。ストレージ・ソフトウェア市場への日立の戦略と現実の対応をさらに注視していく必要があろう。

注:ガートナーは世界最大のIT戦略アドバイス企業で、本記事は同社日本支社 ガートナージャパン データクエスト ストレージ担当シニアアナリスト 鈴木氏からの寄稿である。

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日立製作所の発表資料

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