[Interview]
インターネットの新しいマーケット創造者となるか、MEX

2002/7/9

 “IX(Internet eXchange)”という言葉をご存じだろうか? IXとはインターネットの中継地点であり、多くのISP同士が接続することで互いのトラフィックを交換する場所である。交通網を例に挙げれば、東京駅や新宿駅などの多数の路線や鉄道会社やバス会社などが相互に乗り入れ接続を行う、巨大なターミナルみたいなものだと考えていただければいいだろう。日本国内では、JPIXという商用IXや、NSPIXPなどの実験IXなどが有名である。

 IXはインターネット上で重要な役割を担っているが、その存在があまり一般ユーザーにアピールされる機会は少ない。そうしたIX事業を展開する企業として、1997年に電力系事業者が中心となって出資を行いスタートしたのが、「メディアエクスチェンジ」(Media EXchange:MEX)である。現在では、IXだけでなくiDC事業も展開しており、インターネットの新しいビジネス・モデルを最先端で展開する注目の企業でもある。

 今回は、メディアエクスチェンジ取締役の石田慶樹氏と、同社 技術部長の高田 寛氏の2人に、MEXの事業内容とそのビジネスモデル、それに最近メニュー拡充を発表した「IPv6試験サービス」について話を伺った。


――MEXといえば、IX(Internet eXchange:ISP共通の接続点)を提供する企業として有名ですが、その活動内容について教えてください。

メディアエクスチェンジ取締役の石田慶樹氏

石田氏 確かに、当初はIX事業を中心に展開してきましたが、現在ではiDCビジネスの方が中心になっています。レイヤ3のIXを全国に展開して、そのトラフィックの中心地にコンテンツを集めていく……、という感じです。全国展開ということもあり、地方のISPさんからは積極的な引き合いがありますし、レイヤ3での接続という、「IPであればどんな回線でも接続できる」という便利さがポイントだと考えています。

――IXを提供する専門の企業として、以前よりMEXに非常に興味があったのですが、どういった発想からビジネスを始められたのですか?

石田氏 MEXの設立は1997年ですが、当時はiDCのようなビジネスモデルは一般的ではありませんでしたから、「トラフィックの中心地にコンテンツを集積していこう」という漠然としたアイデアをもとに、手探り状態でスタートしました。そのころのインターネットは、企業やユーザーがインターネットに接続するための接点であるISPが中心でしたから、そのISP同士の接続点としてのIX事業からスタートしたわけです。やがて、トラフィックの中継地点としてのIXの役割が重要になり、コンテンツの集積地点としてのiDC事業をスタートさせました。

――iDCの稼働状況はいかがですか?

高田氏 現在、東京・池袋のサンシャイン60内の2フロアを使ってiDCを実現していますが、稼働率は60%を超えており、そろそろ新しい場所が必要になってきました。既存ユーザー向けの拡張スペースを余分に確保しておく必要があることから、一般にiDCの稼働状況の上限の目安が、80%ぐらいだといわれているからです。iDC事業を開始して1年少しですから、かなりの伸びだと考えています。

――ユーザーから評価が高いポイントはどこでしょう?

メディアエクスチェンジ技術部長の高田 寛氏

高田氏 「使いやすさ」と「スピード」だと思います。

 IXという性格上、バックボーンへの太いパイプを持っているため、国内ポイントからのアクセス速度やレスポンスのよさは高い評価ポイントだと思います。また、作業スペースの提供や高度な技術サポートなど、使いやすさでも評判をいただいております。

――2001年末から、「IPv6試験サービス」の提供を開始されましたが、これはどういった内容のサービスなのでしょうか?

石田氏 MEXのハウジング・サービスを利用している既存ユーザー向けに、IPv6ネットワークへの接続環境を提供しようという試験サービスです。IPv6に興味を持っているユーザーは多いと思いますが、その方々にIPv6環境を無料で提供して実験を行ってもらおうという目的で始めました。

――反響はどうでしたか?

石田氏 利用されているユーザー数でいうと、まだまだです。おそらく、日々の運用が忙しく、IPv6のことまで頭が回らないのが現状だと思います。ですが、コンテンツがなければIPv6の広がりもないわけですから、コンテンツ事業者の方々のIPv6対応が今後の重点課題だといえます。先日、より広く試験環境を利用いただこうと考え、試験サービス期間の延長と拡充を発表しました。具体的には、従来のハウジング向けのIPv6サービス以外に、イーサネット・ポートによるIPv6接続サービスやIPv6レンタル・サーバ・サービスなどのメニューを追加しました。IPv6は一般には敷居が高いという印象があるようで、レンタル・サーバ・サービスはその敷居を少しでも低くするのが狙いです。

――IPv6を利用しているユーザーは、どういった事業者の方が多いのですか?

石田氏 利用しているユーザーというよりは、IPv6に興味を持っているユーザーという観点からですと、やはり「コンテンツへの課金」を考えている人たちでしょう。IPv4の時代は、NATが存在することでCookieなどの情報を駆使して、コネクション管理を行っていました。IPv6の時代になれば、クライアントに対して直接IPアドレスを指定して、コネクションを常に保持したやりとりができるわけです。エンド・ツー・エンドでのトランザクション管理を行い、いかに課金していくのかを考えるような人たちが、IPv6に強い興味を持っています。

――逆に、「こういった部分がまだIPv6で不完全」という個所はありますか?

石田氏 数多くのトラフィックをさばく技術が、まだまだ未知数だいえます。例えばIPv4では、それこそ何年もかけてルータ上で大量のトラフィックをさばくことを実践して、運用上問題ないことを検証してきたわけですから。IPv6はまだこういった経験をしていませんので、「高負荷環境での安定運用」がどこまで行えるか、そしてそのための「ノウハウを蓄積できるか」がポイントだと思います。

高田氏 ノウハウ面では、DNSの逆引きをどう設定するのかといった面で困ることがあります。またユーザーからの質問で多いのは、「(広大な)アドレスをどうやって割るのか」という問題でしょうか(笑)。


 最初の交通網の例でいえば、MEXのビジネスモデルはターミナル駅を用意し、そこに巨大なデパートやアミューズメント施設を建てるようなものである。そこで売る商品やアトラクションが、インターネットでいうところのコンテンツであり、MEXはテナント事業(つまりiDC)を展開する鉄道グループ会社のような企業なのである。

 「ISP事業はやがて価格競争へと進み、付加価値を提供できる企業だけが生き残る」と、数年前に叫ばれていた。実際、現在では自前でバックボーンを持つIIJやNTTコミュニケーションズなどの1次プロバイダを除き、アクセス回線を提供するだけの2次プロバイダ各社は極端な価格競争の波にのまれた。また、業界大手数社が中心となって設立された「メガコンソーシアム」に多くのISPなどが加盟しているように、苦境に立たされているのが現状だ。

 ISPを中心としていたトラフィックの流れは、やがてiDCなどのコンテンツ集積点を中心としたものに変化していく。iDCやASP(Application Service Provider)といったビジネスは、そうした未来図を目標に興ってきたものである。だが、経済不況やユーザー側のアクセス回線が未熟だったという問題もあり、iDCやASPを推進する専門事業者はこれまで苦戦を強いられてきた(巨大iDCの米Exodusの破たんが顕著な例)。

 だが、時は熟しつつある。日本では、ADSLや光ファイバなどのブロードバンド接続サービスが急激に伸びつつあり、いかにバックボーンを充実させ快適なコンテンツの提供環境を用意できるかに注目が集まりつつある。ここにきて、コンテンツ事業者が本格的にビジネスを展開する下地が整ってきたといえる。IX事業で人(トラフィック)を集めて、コンテンツによるビジネスを展開していく。インターネットにおける変化をそのままビジネス・モデルに組み込んだのがMEXなのかもしれない。

 IPv6試験サービス提供に見られるように、今後はこれらインフラをもとにした、インターネットの新しいマーケット創造者としての役割を期待したいところだ。

(編集局 鈴木淳也)

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