[Interview]
SANはIPネットワークへ移行するのか?

2002/9/3

 ストレージベンダ各社は今年、SANの新しい管理手法の1つであるCIM(Common Information Model)など、新しい業界標準を取り入れた新しいストレージ戦略を公表した。その中で昨年、いち早くストレージ戦略を発表したのが、業界最大手のEMCだ。同社の新ビジョンは“オートIS”で、それに基づいた製品も出荷している。今回、来日した同社 アライアンス及び情報科学担当副社長 ドン・スワティック(Don Swatik)氏に、同社のその後の取り組みやSANの標準化動向、IPネットワークへの移行はあるのか、といった点について話を伺った。


――CIMの標準化はどこまで進んでいるのか? また、EMCのWideSkyとの関係は?

米EMC アライアンス及び情報科学担当副社長 ドン・スワティック氏

スワティック氏 CIMは、SNIA(Storage Network Industry Association)によって標準化が進められている。この標準化を進めている委員会が、DRM(Disk Resource Management)委員会で、それを統率しているのがEMCとHPだ。昨年(2001年)4月に「Storage Networking World」で、EMCはCIMのデモンストレーションを行った。

 現在、EMCはBluefinの開発を行っている。Bluefinとは、主にCIMのインプリメンテーションを行うプロシージャのことだ。今年6月、ほかの複数の企業とともに、SNIAに対してBluefinのプレゼンテーションを行った結果、SNIAは8月13日にBluefinのプロシージャを受け入れ、Storage Management Initiativeに取り入れることになった。

 標準化の次の段階は、CIMのスペックを最終的に決定することだ。これは今年後半から来年初頭に行われる。

 CIMとEMCのミドルウェア製品である「WideSky」は補完しあうものだ。WideSkyは、「Universal Translator」という機能を持つ。これは、WideSkyがEMCと各社のストレージの言語やブロケード、マクデータのネットワーク・コンポーネントの言語を解し、翻訳してくれる機能のことだ。

 CIMの標準化が進むにつれ、今後さらにWideSkyとの相乗効果が表れるだろう。なぜなら、CIMが翻訳しなければならない製品の言語が減り、その一方でWideSkyはCIM対応の製品とCIM非対応製品との間の翻訳だけを行えばいいという形になるからだ。

――CIMの開発が進んだ場合、WideSkyは本当にCIM対応製品間で翻訳する必要はなくなるのか?

スワティック氏 確かに、CIM製品間でも翻訳する必要は残るだろうと思う。これは、企業によって標準の解釈が微妙に異なってくるからだ。例えば、IBMや日立製作所、サン・マイクロシステムズなどで微妙に異なる。もう1点は、業界の革新のスピードは標準が策定されるスピードよりも速く進行するため、標準によってカバーされない機能が出てくるため、この部分もWideSkyで翻訳する必要が出てくるだろう。

――それでは、CIMの標準化が進んでも標準の解釈が異なってしまうのでは、ユーザーが不安になり、SANの普及を阻む結果になるとは思わないのか?

スワティック氏 SANの異なるソリューション間での相互運用性は、確かにユーザーにとって大きな課題になっていることは事実だ。そのため、当社はこれまで20億ドルを相互運用性のために投資を行い、さまざまなサーバやOS、ネットワーク・コンポーネント、ストレージなどとの相互運用性を検証してきた。日本でも、新宿のジャパン・ソリューション・センターがこの活動を行っている。

 つまり、そのような(SANの普及を阻むという)問題があることはあるだろうが、当社の製品、それを利用しているユーザーには、そうした問題は生じないと考えている。それは、いまいったような投資を常に行っているからだ。

――先日、サン・マイクロシステムズが、「Storage One」という構想を掲げた。また、日立製作所やIBMもWideSkyのような構想を公表しているが、それらについてどう考えているか?

スワティック氏 先日のサン・マイクロシステムズの発表内容だが、CIMとBluefinに準拠したAPI(インターフェイス?)の発表だった。しかし、この中にはEMCのWideSkyに含まれているユニバーサル・トランスレーターのような機能はない。

 基本的に他社は構想段階にあり、WideSkyのような製品を出荷していない。それに比べ当社のWideSkyは、昨年10月にすでに出荷を開始している。

――SANのIP化ということで、iSCSIやFCIP、iFCPなどの規格があるが、こうした動向についてどう考えているか?

スワティック氏 この1年あまり、IPネットワークとSANなどについて、さまざまな議論がされてきた。実際のところ、現在SANはファイバ・チャネルによって構成されている。聞くところによれば、ある企業のiSCSI製品は昨年発売したものの、いまだに1台も売れていないという噂がある。

 そうしたことにもかかわらず、EMCはストレージに接続するすべての規格をサポートしようと考えている。iSCSIも将来サポートしていく。実は、iSCSIの標準化を行っている委員会の委員長は、EMCのテクノロジストだ。

 ただし、iSCSIの進化は、皆が予想していたよりもゆっくりとしたものになっている。1997年にファイバ・チャネルが初めて出荷された。この製品は、完全に合意された標準化された規格に準拠したもので、SCSIに比べて転送速度は5倍速く、距離は25倍長く、そしてネットワーク化できるという特徴があった。

 しかし、SCSIからファイバ・チャネルへの移行に4〜5年もかかった。現在、iSCSIはいまだ標準化が終わったわけではない。しかも、ファイバ・チャネルと比べ転送速度は遅く、距離も短い。もし、iSCSIへと移行するにしても、それはファイバ・チャネルへの移行よりも長い時間がかかると思う。そのため、市場にはファイバ・チャネルとiSCSIが混在することになるだろう。だからこそ、相互運用性がますます重要になるなるわけだ。EMCは、ファイバ・チャネルもiSCSIの両方に接続できるように、今後とも投資を続けて相互運用性を確保し続けていく。

――ファイバ・チャネルでの接続は、10km(1本での接続)までだが、これについてSAN間のミラーリングなどを行うには短すぎるという意見があるが……。

スワティック氏 その意見に同意する。ミラーリングなどを行う場合、40〜50km離すよう推奨している。この距離においては、3つのソリューションを使い分けている。1つ目は、DWDMテクノロジを利用することで、これによって100km以上のミラーリングなどが可能となる。2つ目として、さらに長い距離では専用線という選択肢になるだろう。そして3つ目にIPネットワークを利用したミラーリングもある。

――日立製作所がIBMのストレージ事業を買収したり、サン・マイクロシステムズと提携したりしているが、彼らをライバルと考えることはあるのか?

スワティック氏 EMCの競争相手は、販売先の環境によって変わる。例えばメインフレームの環境ではIBMが、サン・マイクロシステムズのサーバ環境ではサンが、Windowsベースだとヒューレット・パッカードが競争相手になる。つまり、決まった競争相手がいるというわけではない。

 ソフトウェアに関していえば、EMCはリーダー的な存在だ。データクエストの調査結果によれば、ミラーリングやレプリケーション分野では、EMCのシェアは55%だ。ソフトウェア全体でのEMCのシェアは30%で、ベリタスソフトウェアは19%でIBMは14%だ。それに比べて日立のシェアは数パーセントしかない。


――最後に、SANの導入コストは高いという意見があるが、それについてどう思うか?

スワティック氏 SANのメリットは、TCOを削減できることだ。ストレージの導入から管理、廃棄するまでのコストは、ストレージ自体のコストの5〜10倍といわれている。ストレージをネットワーク化することで、この5〜10倍のコストを下げることができる。

 例えば、HPのコンピュータとストレージ、IBMのコンピュータとストレージなどといったシステムを導入している企業の場合、それぞれ異なるスキルを持ったエンジニアが必要になる。しかし、すべてのコンピュータから1つのストレージに接続することで、少ない人数でも管理することができるようになる。

 現在、ストレージのデータ量が伸びているのと同じようにストレージ・エンジニアを増やせるわけではない。だからこそ、EMCが推し進める「Auto IS」戦略が生きてくるわけだ。Auto ISは、ユーザーがこれまで手作業で行っていたタスクを、なるべくポリシー化し、自動化しようという戦略だ。

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イーエムシージャパン

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