「オープンソースはソフト産業を壊滅させる」は正しいか
2003/5/22
経済産業省の商務情報政策局 情報処理振興課 課長補佐 久米孝氏 |
マイクロソフトなどのソフトベンダが、オープンソースソフト、特にGPL(General Public License)を批判する際によく使うのが、「知的財産権を否定し、健全なソフト産業の発展を阻害する」というフレーズ。この指摘は正しいのか。
経済産業省の商務情報政策局 情報処理振興課 課長補佐 久米孝氏は、「パッケージ、ライセンス販売によって収益を得るビジネスモデルだけをソフト産業と考えれば、Yesだ」と、オープンソースソフトがソフト産業に与える影響を説明したうえで、「ソフトを供給して、サービス、メンテナンスで収益を上げるという、利益率が高い筋肉質のビジネスモデルへの移管をベンダは考えるべきだ」と述べ、ベンダがビジネスモデルの変更を迫られているとの考えを示した。
久米氏は、5月21日〜23日に開催の「LinuxWorld Expo/Tokyo 2003」の基調講演に登場。政府、経産省のオープンソースソフトへの立場として、「大きな期待をしている」と語った。「オープンソースソフトがほめ殺しに遭って、期待がしぼむといけないと思い、強い点を伸ばし、弱い点をサポートしていく」というのが政府の基本政策だ。
そのうえで、オープンソースソフトがソフト産業を壊滅させるとの指摘に対して、「オープンソースソフトを販売して、ベンダがこれまで通りの大きな利益を上げることは難しい。だが、オープンソースはイノベーターの参入障壁を引き下げて、さまざまな革新を呼び込む。技術者や学生のスキル向上にも役立つだろう」と述べた。「“モノ売りからサービスへ”は変えられないトレンド。売上至上主義から脱却して、高収益のビジネスモデルへの展開を本気で考える時期だ」として、ベンダに変革を迫った。
久米氏は、オープンソースソフトの課題についても指摘。企業がLinuxを導入しない理由のトップが「知識・ノウハウ不足」、2位が「社内サポート体制の欠如」と説明し、「オープンソースソフトにかかわる人材の問題、教育の問題がある」と述べた。だが、人材不足自体は大手ベンダが、次々とLinuxに本格参入したことで、中長期的には解決可能との認識。より深刻なのは、「オープンソースソフトでも引きずっている海外依存の体制だ」と語った。
久米氏によると、日本人、または日本の法人がリーダーシップをとって開発したオープンソースソフトは、UNIX系、Windows系を合わせてわずか42本で、「非常に少ない」(久米氏)という状況。国内にコンピュータサイエンスやソフトウェア関係の教育機関が不足していることから、「従来のソフトの海外依存型構造がオープンソースソフトの世界にも持ち込まれている」と指摘した。政府はこの問題を解決するために、2003年度の予算で10億円を計上。OSやミドルウェアの民間開発を支援している。デスクトップ用OSの開発も支援していて、独立行政法人 産業技術総合研究所で、開発されたOSを実証的に利用する“産総研モルモット計画”も展開予定だ。オープンソースソフト、GPLについての法的な課題を財団法人 ソフトウェア情報センター(SOFTIC)が研究していて、まもなく報告書を公開するという。
久米氏はオープンソースソフトの今後の期待分野として、システム・インテグレーション分野や組込分野、デスクトップ分野を挙げた。SI分野は、オープンソースソフトを積極的に活用しようとしている中国の市場に、日本企業が進出できる機会で、久米氏は「業界の構造改革のきっかけになる」としている。また組込分野は、「日本の競争力確保の切り札」と強調。デスクトップ分野は「課題は多い。導入実績を増やし、ユーザーの期待を適正なレベルにコントロールできれば、活路が開ける」と述べた。
(垣内郁栄)
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