[Interview] SASのソリューションがわかりやすくなった

2003/6/6

 SAS Institute Japan(SAS)は4月、通信業界に特化したインテリジェンスソリューション「SAS Telecommunications Intelligence Solutions(SAS TIS)日本語版」を発表した。SAS TISはSASが提供する業界別ソリューション「xIS」の1つ。SASはワールドワイドでは、金融業界向けや製造業向けなどさまざまな業種別テンプレートを発表しており、今回日本で先駆けて発表したのがSAS TISだ。出荷開始は6月1日。「国内の通信業界は『グローバル競争の激化』と『顧客数の頭打ち』という2つの大きな課題に直面している。こうした中、データマイニングソリューションへの期待する向きが大きくなってきた」と述べる同社に、TISの概要と通信業界向けビジネス戦略について伺った。話を聞いたのは、営業本部第1営業部 統括部長 高木義博氏と、営業本部 第1営業部通信グループ マネージャー 福沢亮一氏、同グループ 藤井応彦氏。

――xISの数ある業界別ソリューションの中で、第1弾として発表したSAS TISだが、その理由を教えてほしい。

SAS Institute Japanの営業本部第1営業部 統括部長 高木義博氏

高木氏 理由は3つある。1番目の理由は、SASが通信業界で豊富なソリューションを持っており、こなれたソリューションを提供できることだ。ワールドワイドでSASを導入しているのは200社以上、チャーン分析(顧客の離反/解約率や、その原因を分析する手法)ソリューションを導入しているのは100社以上、そのほか設備計画ソリューション、Webレポーティングや分析ソリューションを導入している企業を含めると、延べ400社近い通信企業がSASのユーザーだ。もちろんこの中には、国内通信業のほとんどが入っている。

 こうしたユーザー企業から、さらに高度なデータマイニングソリューションを求める声が高まってきた。例えば、今まで顧客維持のためにチャーン分析しか導入していなかった企業が、マーケティングキャンペーン管理を併用したいと言ってきたり、または与信管理の徹底を図りたいといった具合だ。特に国内の通信業からのニーズが大きい。国内通信業界の抱えている問題が大きいからだろう。

――具体的には?

高木氏 従来、通信業界は規制の中でビジネスを進めてきた。ところが規制緩和が進んでグローバル競争にさらされるようになり、業界内も大きく再編されるようになってきた。つまり今までと同じビジネスのやり方・会社のあり方では生き残れなくなってきたと言える。そこでデータマイニングを使い、これからの経営の方向性を見定めようという動きが高まってきた。これが2番目の理由だ。

 そして3番目の理由として、顧客が頭打ちになってきたことが挙げられる。固定電話は言うに及ばず、これまで市場をけん引してきた携帯電話市場も飽和状態だ。では、どうやって顧客を維持・獲得するか。顧客は何を求めているのか。こうしたことを知るために、データマイニングをもっと活用しようというニーズが強くなってきた。そこで第1弾として、SAS TISを通信業界に向け積極展開しようという運びになった。

SAS Institute Japan 営業本部 第1営業部通信グループ マネージャー 福沢亮一氏

福沢氏 こうした課題は通信業界だけのものではない。金融業界も同様の状況にさらされている。『グローバル競争』と『市場飽和』は、すべての日本企業が抱えている最大の課題だと思うが、特に通信と金融は、物流が絡まない“データビジネス”という共通点もあり、データマイニングへの関心が特に高い業界だと言える。

 ただ、データマイニングを効果的に実践するにはノウハウが必要になる。今回発表したSAS TISは、特に通信業界に特化した形でのデータマイニング実践ノウハウが詰め込まれている。ただし、今述べたようにデータマイニングへのニーズはあらゆる業種・業態に共通すると思われるので、今後も産業別ソリューション「xIS」を引き続き市場に投入していく構えだ。

――SAS TISの中身はどのようなものか。

藤井氏 分析フレームワークとして、まずデータ管理用の「データウェアハウス」、各ビジネスニーズに対応するコンポーネント「分析アプリケーション」、それにキャンペーンマネジメント機能や分析結果を配信する「レポーティングツール」という3つの枠組みを用意し、さらに分析に最適化されたデータモデルなども提供している。

 分析アプリケーションとしては、(1)カスタマーリテンション(2)顧客セグメンテーション(3)クロスセル/アップセル分析(4)与信管理(5)マーケティング・オートメーション(6)通信業界用バランストスコアカードの6つを用意。この分析用コンポーネントについても拡張していく予定だ。

――業界向け分析テンプレートは、ほかのBIツールベンダやデータマイニングベンダ、SI企業なども提供しているが、それらの製品に比べてSAS TISはどのような特徴があるのか?

福沢氏 SIベンダが提供する業界別ソリューションと違い、SAS TISは「製品として出荷できる」という特徴がある。個別に作りこみをするのではなく、製品としてこのまま導入できるという点だ。なぜそうしたことが可能なのかと言えば、前述したとおりワールドワイドで200社近くの通信企業から得たノウハウがあるからだ。例えば、解約理由を知りたいのであれば、どんな分析手法を適用するか、そのためにはどんなデータをどのような形式で取得すべきかといったノウハウがある。こうしたモデルも、すべて提供しているのがSAS TISだ。ただし、システムとしての完成度は大体7割くらいだと思ってほしい。実際のインテグレーションや、レポート画面といった3割の部分は、企業ごとの個別ニーズに対応できる。データマイニングシステムの導入からPDCAサイクルの確立まで、短期間で済むというわけだ。

 また、SAS TISは分析画面だけを提供しているのではない。「分析結果を実ビジネスにどう生かしていくべきか」というテンプレートを提供している。これがBIツールベンダとの大きな差別化だ。

SAS Institute Japan 営業本部 第1営業部通信グループ 藤井応彦氏

藤井氏 もう1つ、SAS TISには「必要なコンポーネントから順次導入できる」という特徴がある。既に当社あるいは他社の分析ソリューションを導入しているのであれば、その部分は崩さず、必要なコンポーネントを導入すればいい。

――何度か話に出ているように、日本の通信業界はだいぶ再編成が進んでいるが、プレイヤーはある程度限られている。また、業界的に「他社がこのサービスをやっているからウチも」という“横並び”意識も強い。そこでビジネスの勝算はあるのか。

高木氏 固定電話会社や携帯電話会社だけを相手にするのではなく、ISPやデータセンタ事業者などもターゲットに入れている。この分野で多くの顧客を抱えていることからもわかる通り、当社はすでに勝ち組だと思っている。ただ、これまでのようにツールだけを提供すればいいというわけではない。もっと顧客のビジネス課題にフォーカスしてソリューションを提供することで、勝ち組としての地位を確立するつもりだ。

 確かに業界的に横並び意識が強い。ただしそれは、他社と同じ製品やサービスを提供してやっと同じ土俵に上がれるということ。では、どこで差別化を図るか。それを知るために必要なのがデータマイニングツールを含むビジネス・インテリジェンスだ。通信業界は当社にとって、非常に大きなビジネス市場だ。

――SAS TISの登場により、SAS自体の戦略も変わってきたと思う。以前は「データマイニングとは」という啓蒙活動が中心で、「製品自体は専門のマーケターや技術者が扱うもの」という位置付けでアピールしていたように思うが、今回の製品から一般のビジネスレベルを意識し始めた感があるが、この点については?

高木氏 数年前までは、データマイニング自体の認知度が低かったように思う。「データマイニングって何? 何ができるの?」という疑問の声が多かった。しかし最近になって、CRMや経営戦略といった分野で、データマイニングの重要性が理解されるようになってきた。また当社の製品自体も、昔に比べそうしたビジネスユースを想定したロジックを組み込めるようになった。市場の認知度が上がってきたことと、当社のソリューションがかなりこなれてきたため、分かりやすくなったからだ。かつてのように「データマイニングは難しい」、ひいては「SAS製品は難しい」という印象をぬぐうべく、これからも積極的にxISソリューションを展開していく考えだ。

(編集局 岩崎史絵)

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