1000キロのディザスタ・リカバリを可能にしたiSCSI技術

2003/7/12

 大地震などの災害や事故に備えて、企業の重要なデータをリアルタイムに遠隔地でバックアップする「ディザスタ・リカバリ」というSANの構築方法が注目されている。その手法は数多くあるが、データストレージEXPOの会場では、iSCSIを用いて1000キロメートル離れた地点でのディザスタ・リカバリの実証実験が行われた。

 実証実験は、NTTコミュニケーションズの通信インフラ、東京エレクトロンが国内の代理店となっている米Nishan Systems(ニーシャンシステムズ)の「IP Storage Switch」、ブロケードコミュニケーションシステムズのファイバチャネルスイッチを用いて、iSCSIを介してSANを1GbpsのIPネットワークに接続。遠隔地の複数のストレージディスクアレイにデータを書き込むミラーリングに成功し、1000キロメートルでのディザスタ・リカバリが十分に実現できる成果を残せたという。

ニーシャンシステムズのプロダクトマネジャー プラサッド・パミディムッカラ氏

 実験の成功に大きく貢献したのは、ニーシャンのiFCP(インターネット・ファイバチャネルプロトコル)というテクノロジ。iFCPはニーシャンが独自で開発したプロトコルだが、2002年の12月にIETFから標準として採用されたという。iFCPを使うと、既存のファイバチャネルインフラをIPネットワークを通して拡張することができる。

 ニーシャンのプロダクトマネジャー プラサッド・パミディムッカラ(Prasad Pammidimukkala)氏は、iFCPが搭載されているIP Storage Switchについて「IPとSANの両方のインフラが有効活用でき、各コンポーネントを相互接続できる。IPルーティングを有効活用したスケーラブルなIPストレージへの展開ができる」とメリットを強調した。

 また、パミディムッカラ氏によると、実験に使われたIP Storage Switchの特徴はiFCPだけではないという。大容量のバッファを送るために送信パスを最適化する「FAST Write」機能や、自動的にファイバチャネル回線かiSCSI回線かを判別し、それぞれに合った方法で通信させる「マルチプロトコル機能」などがある。「これら3つの機能が、長距離回線につきまとうパフォーマンス劣化を少なくし、高速での通信を可能にした」と説明。「IPとストレージに精通するわれわれが、SANで実現している機能をiSCSIでも可能にした」とテクノロジへの自信を見せた。

 現在、企業データのバックアップはデータセンター内のストレージで行われることが多い。しかし、自社システムとデータセンターの環境をSANで構築しファイバチャネルで接続することは、距離に比例してコストがかかるうえ、100キロ以上の遠距離での接続はファイバチャネルの規格で不可能だった。これらファイバチャネルの問題を解決するテクノロジとしてiSCSIが注目されているのだ。

 iSCSIを使ったディザスタリカバリ実験の成功は、SANに関する距離の問題を解決し、ストレージ市場にiSCSIテクノロジが採用されていく引き金となるだろうか。今後の業界動向に注目したい。

(編集局 富嶋典子)

[関連リンク]
Nishan Systems
東京エレクトロン

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