[Interview] アダプテックが占うiSCSIの普及スピード
2003/7/16
ストレージ業界で最も注目されているIP-SAN。その中で標準化が策定されたTCP/IPプロトコルスタック上でSCSI通信を行う「iSCSI」(internet SCSI)に対応した製品が発売され始めている。IPネットワークを介したローカル/リモートバックアップ、異種ストレージを統合管理するストレージの仮想化、ピア・ツー・ピアでのコピー、ディザスタリカバリ、異種SAN間のミラーリングなどでの利用が期待されている。
データストレージEXPO(主催:リードエグジビション ジャパン)で7月9日に講演した日本IBMの大和システム開発研究所 先進システムズ開発 技術理事 青木直孝氏によると、iSCSIは標準規格として策定され、実運用への導入が進みつつあるという。IP-SANのテクノロジ進化を後押しした要因の1つに、ストレージやSCSIの性質を熟知しているTOE(TCP Offload Engine)カードベンダを挙げた。サーバをSANに接続するためのボード、HBA(ホストバスアダプタ)にiSCSI対応のTOEチップをうまく組み込んだことが功を奏したという。
そこで大手ストレージベンダにiSCSIテクノロジのコアとなるTOEカードを提供している米アダプテックのストレージ・ネットワーキング・グループ副社長兼ゼネラルマネージャ
ラム・ジャヤム(Ram Jayam)氏に、SANとiSCSI市場の現状と今後について聞いた。
──iSCSIがSANにもたらすメリットは?
米アダプテックのストレージ・ネットワーキング・グループ副社長兼ゼネラルマネージャ ラム・ジャヤム氏 |
ジャヤム氏 iSCSIは、TCP/IPネットワークに接続するために、SCSIコマンドをイーサネットヘッダで包んで「カプセル化」する技術。SANのファイバチャネルのエンドシステムにも使用できるので、IPをベースにしたSANを構築できる。
従来のSANインフラは高コストなファイバチャネル・ファブリックで接続するが、iSCSI機器を通すことで、TCP/IPでの通信が可能となる。既存SANインフラとIPベースのインフラの両方をiSCSIで統合することで、これまでのiSCSI-SAN、Fiber Channel-SAN、NASのリソースを有効活用することができるようになる。それだけでなくネットワークのコアをTCP/IPに置き換えることで、かなりのコストが削減できる。
ネットワーク管理者レベルの変化では、これまでiSCSIを使ったSANのファイバチャネルでは、サーバ同士をつなぐ際に、何かしらのソフトウェアを用いなければ相互運用できなかった。TCP/IP経由にすれば互換性の問題はすべて解消され、容易に操作できるようになる。
──IP-SANの導入事例はあるか。
ジャヤム氏 すでに米国で大企業3社にアダプテックのiSCSI技術が導入されている。全米に工場を持つメーカーのSANインフラを、IP-SANで接続した。ミシガン大学では、2カ月ごとに0.5テラバイトずつ増えていくDAS(Direct Attached Storage)のディスクシステムに悩まされていたが、こちらもiSCSIサーバでIP-SANネットワークと接続することで解消した。もう1件は、複数個所に同じデータを保存し、多くの無駄な資源を抱えていたレベル3リサーチ。IP-SANを使い拠点間のリモート接続をすることで解決できた。
これらの例は大規模な企業ばかりだが、IP-SANは本来、これまでコストがかかりファイバチャネル・インフラを導入できなかった中小企業で、力を発揮すると考えている。成熟したブロードバンドのWANを活用し、自社の分散したストレージを一元管理することができるようになる。
──IP-SANではデータの転送に遅延があるのではないかといわれている。
ジャヤム氏 確かに、IP-SANのパフォーマンスは大きな課題として指摘されてきた。TCP/IPプロトコルスタック自体がファイバチャネルプロトコルに比べてオーバーヘッドが大きいという性質があり、データ伝送効率が悪いとされていた。iSCSIではSCSIとTCP/IPプロトコル処理によるサーバのCPUへの負荷が大きく、パケットの遅延も問題視されていた。
この問題を解決するためにわれわれは、ソフトウェアによってではなく、ハードウェア上でプロトコル処理を行えるように考えた。そのため、TOEを搭載したNAC(Network Acceleration Card)を開発した。アダプテックのシリコン製TCP/IPリーダーを使い、iSCSIのWANで600マイル離れた地点の実証実験を実施したが、IP-SANのデータ転送で遅延の生じなかったことが証明された。
──IP-SANは今後、どのように普及していくと考えているか。
ジャヤム氏 SANとIPインフラをiSCSIで統合することによって、多くの企業が恩恵を受けることになる。IP-SANのメリットを多くのユーザーが体験すると同時に、さらに多くのベンダがこの可能性に満ちた魅力的な市場に投資をしていくことは間違いないと考えている。
アダプテックでは、現在10ギガバイトのネットワークで使用できる映像、音声など複数のプロトコルに対応させたNACの開発に取り組んでおり、1年以内に発売できるだろう。
(編集局 富嶋典子)
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アダプテックジャパン
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