オープンソースで損害賠償? ビジネスにリスクはないか

2003/8/2

 これまで順調に拡大を続けてきたLinuxが揺れている。米SCOによるIBMの訴訟がきっかけだが、国内のエンドユーザーやシステム・インテグレータ(SI)、ベンダの中にも「オープンソースに法的な死角はないのか」という声が出始めている。

SCOの社長兼CEO ダール・マクブライド氏。国内で行った会見で、「Linuxのムーブメントを止めてほしくないと、Linuxコミュニティが怒るのは分かる。コミュニティにとっては試練のときだ」と述べた

 自社がライセンスを持つUNIXのコードが、ライセンス先のIBMからLinuxに流用されたとして、IBMを相手取って損害賠償訴訟を起こしている米SCOは7月21日、カーネル2.4以降のLinuxを利用している企業に対して、ライセンスプログラムを新たに設定すると発表した。ライセンスを購入すれば、ユーザー企業のLinux利用にかかわる過去の“著作権違反”を、SCOは訴追しないという。これまでフリーで入手することができたLinuxに対して課税するようなライセンスで、ユーザー企業への影響は極めて大きい。

 SCOの社長兼CEO ダール・マクブライド(Darl McBride)氏は、新たなライセンスについて、「本日より(Linuxにかかわる著作権法違反で)SCOが損害を被っていることに対する訴訟を開始する。われわれは数万のユーザーが(Linuxによる)利益を享受していることを認識しており、SCOは補償されるべきだと考えている」として、「知的所有権は貴重で、尊重されるべきだ。知的所有権を利用して自身の商用的利潤になる企業は、ライセンス料を支払わなくてはならない」と発表資料で述べた。

 SCOは今年5月、世界の大企業1500社に対してLinuxの使用に関するライセンス料を求める可能性を示す文書を送付していた。すでに一部の企業に対してはライセンス料の支払いを求めている模様。SCOはライセンス料を支払わない企業に対しては、提訴する構えを見せており、支払いに応じる企業も現れそうだ。ライセンス料がどの程度の額になるかは、SCOが8月中にも発表する見通しとなっている。

「GPLは法的にはクリア。訴訟は起きていない」

 Linuxなどオープンソースソフトを使っていたり、開発に利用しているユーザー企業やSI、ベンダなどの中には、別の疑問も出始めている。つまり、「オープンソースソフトを改変したら、必ずソースコードを公開しないといけないのか」「自社で使っている改変したオープンソースのソフトを子会社に使わせたいが、ライセンス上問題はあるのか」などだ。特にLinuxなどオープンソースソフトの多くが準拠しているGNU GPLは、使ううえで注意が必要とされている。

 しかし、オープンソースソフトのライセンスに詳しい尾崎孝良弁護士は、「GPLは法的にはクリアになっている」として、「GPLにかかわる訴訟はほとんど起きていない」と説明する。「GPLの特徴は著作権に完全に準拠していること」と述べる尾崎弁護士は、「ソフトの利用と使用の違いが理解されていない」と指摘。著作権上は“利用する”とは複製することを指し、“使用する”とは、例えば本を読むことなどを意味するという。本を読むことが本の著作権を侵害しないように、GPL準拠のソフトを使用することは「著作権の対象外で、原則的には使用は自由」(尾崎弁護士)だという。つまりビジネス用とであっても自社内で使うだけならまったく問題はないということだ。

尾崎孝良弁護士。「ソースコードの積極的な利用を認めるかが、ベンダがコミュニティに貢献したいかの目安になる」と指摘した

 また、自社のシステム構築に合わせて、自社でGPL準拠ソフトを改変し、使う場合も「複製、公衆送信しなければソースコードを公開する義務は生じない」という。自社で改変したソフトを組み込んだシステムを、子会社に使わせる場合も尾崎弁護士によると「著作権法の私的複製」ということになり対象外。「改変したソフトを複製し、3000人で使ってもGPLでは違法にならない」というのだ。

 もちろん、改変したソフトを公開したり、販売する場合はソースコードの公開義務がある。SIとしてユーザー企業のシステム構築にかかわり、GPL準拠のソフトを改変したり、システムに組み込む場合も、再頒布にあたりソースコードの公開が求められると考えられる。ただ、GPL準拠ソフトを改変し開発する場合に、ユーザー企業がベンダやSIと機密保持契約を結ぶ場合は、ソースコードを公開する義務は発生しないという考えもある。

コミュニティに還元するのは正論

 尾崎弁護士の話を聞くとオープンソースソフトを使ったビジネス展開にはそれほど問題がないように思える。しかし、尾崎弁護士が最も伝えたいのは、「オープンソースソフトを使ってビジネスを展開できることと、オープン・コミュニティから批判を受けないことはまったく別」ということだ。法的には問題がないオープンソースビジネスでも、場合によってはコミュニティに反発を受けることがある。機能やパフォーマンスが優れていても、コミュニティから大バッシングを受けている製品やソリューションを顧客企業が選ぶだろうか。尾崎弁護士は「オープン・コミュニティの資産を使って何らかの企業利益を上げる以上、コミュニティに何らかの還元をすべきというのは正論だと思う」と述べた。

 では、オープン・コミュニティに対して、企業が認識すべきこととは何だろうか。尾崎弁護士は「GPL準拠のソフトを使う以上、ソースコードの著作権では稼がないという姿勢を先ずは明確にし、それからどうするかということだ」と語った。「オープン・コミュニティで生きる以上はソースコードは見せるというビジネスモデルでないと生きていけない」という認識だ。

 しかし、ソースコードを公開することに企業は抵抗があるのではないか。尾崎弁護士は「現実、ソースコードだけでは何もできない」として、「企業はソフトにサービスやサポートを組み合わせて、クレバーなビジネスをしないと理解は得られないだろう」と語った。尾崎弁護士が所属する牧野法律事務所には、オープンソースソフトのビジネスに関連して相談に訪れる企業もあるといい、「問題意識は高まっている」という。

業界団体もビジネス活用探る

 オープンソース・ソフトのビジネスでの活用については、行政や業界団体も調査を行っている。財団法人ソフトウェア情報センターは6月20日にイベント「オープンソースソフトウェアの動向と法的問題」を開催した。講演した岡村久道弁護士は、GPL準拠のソフトについて「自社内で改変して使い続け、外に出さない場合は頒布する必要はない。ソースコード公開が要求されるのは改変バージョンを何らかの形で公表する場合のみ」と説明した。

 岡村弁護士もコミュニティへの貢献が重要と考えている。GPL的には問題がなくてもコミュニティの精神を侵害するようなソフトの使い方をすると、「コミュニティで声が上がる。企業の信頼は、どれだけ誠実な対応ができるかにかかっている」という。岡村弁護士によると、コンシューマ向けのソフトを開発、販売していたあるベンダは、製品に含まれるプログラムがGPL準拠のソフトを含んでいるかかわらず、そのことを明記せず、ソースコードも公開していなかった。コミュニティから指摘されたベンダは、自社のWebサイトで謝罪し、ソースコードを公開。使用許諾契約をGPL準拠に一部変更したという。

 また、Linux用のプリンタドライバを無償配布していたあるベンダは、コミュニティからGPL違反の指摘を受けた。このベンダは多言語化するために使用しているGPL準拠のソフト(gettext)を、ソースパッケージに取り込み、非GPLのソースコード、非公開のバイナリとともに、それぞれのライセンスを明確にせずに二次配布を行っていたという。また、ソースコードを非公開にしていたライブラリ内でLGPLライブラリ(glibc)とリンクしていたが、その使用許諾がLGPLに準拠していなかった。

 コミュニティなどから指摘を受けたこのベンダはWebサイトで謝罪。改善策として、ファイルのライセンスを明確にしたうえで、gettextをLGPL準拠のバージョンに差し替えた。また、非公開コンポーネントについてLGPL第6条に基づき、リバースエンジニアリングを許可するよう使用許諾を変更したという。

 オープンソースソフトを使ったビジネスというと、安価にソフトを利用できる、ソースコードを参照できるなどが注目される。しかし、これらのメリットはコミュニティの努力の結果で実現されたといえる。コミュニティへの貢献がオープンソースビジネスを成功させるポイントになるだろう。

(垣内郁栄)

[関連リンク]
日本SCO
牧野法律事務所
財団法人ソフトウェア情報センター

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