1000CPUでグリッドを体感、「Grid Challenge」開催へ

2005/1/8

 情報処理学会などが主催する基盤システムに関する学会「先進的計算基盤システムシンポジウム」(SACSIS:Symposium on Advanced Computing Systems and Infrastructures)は、産業技術総合研究所など各研究機関のコンピュータ・リソースを統合して1000CPUの分散環境を構築、学生や企業に提供しグリッド・コンピューティングの高度な利用を競わせる「Grid Challenge in SACSIS2005」を1月末に始める。

東京大学大学院情報理工学系研究科の助教授 田浦健次朗氏

 Grid Challenge実行委員会の委員長で、東京大学大学院情報理工学系研究科の助教授 田浦健次朗氏が1月7日に開催されたグリッド協議会シンポジウム「グリッド・ショーケース」で説明した。

 Grid Challengeは産業技術総合研究所や東京大学、東京工業大学、筑波大学などの8つの研究所が持つクラスタ環境のコンピュータをネットワーク経由で統合する。1000CPUの分散環境を構築して、Grid Challengeの参加者が自由に利用できるようにする。実行委員会はグリッドの並列プログラミング環境としてGlobus toolkit、Ninf-G、GXPをインストールする。参加者が各自でミドルウェアをインストールすることもできる。分散環境のノードはすべてLinux。

 Grid Challengeには与えられた問題を解く速度を参加者が競う「規定課題部門」と、1000CPUのリソースを使って製品や研究物の実験を行う「自由課題部門」がある。規定課題部門は学生限定。自由課題部門は学生のほかに企業や研究所が参加できる。自由課題部門は5月に行われるSACSIS2005で成果をポスター展示して報告するのが参加の条件。

 田浦氏は「能力がある学生の発掘やグリッド分野への人材の引き付けが期待できる」と述べ、Grid Challengeの狙いを説明した。また、企業や研究者が自由課題部門に参加できるようにしたことで、ソフトウェアのスケーラビリティや分散環境のテストの場、売り出しの場になると述べた。

■グリッドのこの1年を予測

 グリッド・ショーケースでは産業技術総合研究所 グリッド研究センター センター長の関口智嗣氏が基調講演を行い、2005年に注目されるグリッドの動きを予測した。

産業技術総合研究所 グリッド研究センター センター長の関口智嗣氏

 関口氏は科学技術、ビジネス、標準化、インフラの4分野について説明した。科学技術では実験的なグリッド環境が世界中で構築され、今後はその効率的な運用やアプリケーション、長期間の実運用が焦点になると述べた。5年後に通じる「高度コンピューティング環境のイメージが固まってくるだろう」と語った。

 ビジネスでも経済産業省が進める「ビジネスグリッドコンピューティングプロジェクト」が実証実験段階を迎える。関口氏は第4四半期にもユーザー企業の実証実験が始まるとして、今後は「グリッドによるTCO削減やシステム構築の容易化などの評価が出て、どれだけユーザー企業が増加するかが注目される」と述べた。

 標準化では、グローバル・グリッド・フォーラム(GGF)の動きが注目されるという。グリッドの標準化に対しては研究者やベンダにさまざまな動きがあり、GGF以外の団体の活動も活発化している。関口氏は標準化に関する動向に対応して「GGFの機能を強化する動きがある」と説明し、「GGFは標準化に関するドキュメントを相次ぎ出してくるのではないか」と語った。

 インフラでは、「Globus Toolkit 4.0」が4月にも登場する。WSRF(WS-Resource Framework)を本格的に実装したバージョンで、高い注目を集めると見られる。反面、このGlobus Toolkit 4.0が普及に失敗すると、ほかのグリッドのミドルウェアが今後の主導権を握る可能性もある。関口氏は「Globus Toolkitベースで今後も進むのか、ほかの実装が必要になるのかの大きな判断が迫られる1年になる」と述べた。

(編集局 垣内郁栄)

[関連リンク]
Grid Challenge in SACSIS2005
産業技術総合研究所 グリッド研究センター
グリッド協議会

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