対立するグリッド標準化団体、IBMとオラクルの代理戦争か

2004/4/28

 米IBMのVice President, Grid Computing Sales and Business Development アルバート・バンシャフト(Albert Bunshaft)氏は4月27日、イベント『Grid World 2004』(主催:IDGジャパン)で講演し、オラクルなどが設立したグリッド・コンピューティングの商用利用を目指す新組織「エンタープライズ・グリッド・アライアンス」(EGA)について、「先ごろグリッドにかかわる新しい団体が発表されたが、何を持ってグリッドのスタンダードを推奨していくのか。標準化の基盤を崩すことは許されない」と述べ、暗に批判した。

米IBMのVice President, Grid Computing Sales and Business Development
アルバート・バンシャフト氏

 バンシャフト氏はグリッド・コンピューティングの進展について、商用利用、科学技術計算の利用に限らず、「シングルなオープンスタンダードを遵守することがグリッドの進化に重要」と強調した。IBMが押すグリッドの標準化団体は「The Global Grid Forum」(GGF)。そのGGFが策定したグリッドの標準仕様「Open Grid Services Architecture」(OGSA)は「グリッドにおけるTCP/IP」(バンシャフト氏)とIBMはとらえている。「さまざまな通信プロトコルがかつてあったが、いまはTCP/IPこそがスタンダードになっている。同じようにグリッドのコミュニティはOGSAこそがスタンダードになるとして努力を重ねている」。

 バンシャフト氏が批判したEGAは2004年4月20日に設立。エンタープライズ分野でのグリッドの利用を促進するとしていて、「企業のおけるグリッド構築を促進するためのベストプラクティスや業界標準を定めます」(EGA日本語パンフレット)という。設立企業は、オラクルのほかに、EMC、富士通・シーメンス・コンピューターズ、ヒューレット・パッカード、NEC、ネットワーク・
アプライアンス、サン・マイクロシステムズ。EGA会長はオラクルのバイスプレジデントが務める。EGAとGGFは参加企業のほとんどが重なっている。オラクルもOGSAに参加している。しかし、GGFはIBMの存在感が強いことから、商用利用分野でのグリッドのリードを狙うオラクルが中心となりEGAを設立した、と考えられる。

 グリッドの商用利用に関する新団体については、2003年9月の「OracleWorld」でオラクルのサーバテクノロジ担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのチャック・ロズワット(Chuck Rozwat)氏が「商用ベースで利用するグリッドのコンソーシアムを業界で築きたい」と述べていた。

 バンシャフト氏は「グリッドの標準化に対する努力が分散してはいけない」と強調し、EGAをけん制。対するEGAはエンタープライズ分野のグリッドでは科学技術計算とは別のスタンダードが必要になるとの姿勢だ。そもそもグリッド・コンピューティングとは何かの定義についても、業界内でいまだに混乱がある。グリッドをめぐる対立は簡単には収束しないだろう。

(編集局 垣内郁栄)

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