「いまの延長では困難」、富士通は1ペタ スパコンをどう開発?

2005/6/23

 富士通はピーク性能3PFOLPS(ペタフロップス)、実行性能1PFOLPSを超えるスーパーコンピュータを2010年度末までに開発する取り組みを始めたと6月22日に発表した。富士通はUNIXサーバ、IAサーバなど汎用サーバの延長としてスパコンを開発し、それぞれの技術を生かすなどの相乗効果を出してきた。しかし、1ペタフロップスを超えるスパコンは「いまの開発の延長線上では難しい。技術のブレークスルーが必要」(富士通 経営執行役 サーバシステム事業本部長 山中明氏)。富士通は国の支援も仰ぎながら、地球シミュレータの75倍の性能の当たる次世代スパコンの開発に取り組む。

富士通 経営執行役 サーバシステム事業本部長 山中明氏

 富士通のスパコン事業は現在、UNIXサーバのPRIMEPOWERをベースにしたスカラSMP型のアーキテクチャを採用した製品と、IAサーバのPRIMERGYの技術を生かして、サーバをクラスタ構成にして性能を上げたIAクラスタ型製品の2つを提供している。顧客によってはスカラSMP型とIAクラスタ型の両製品を組み合わせて利用しているケースもある。300サイトで1000システムが稼働している。スカラSMP型スパコンの最高性能は13TFLOPS。2005年後半にはItanium 2プロセッサを採用した富士通のIAサーバ「PRIMEQUEST」をベースに、Linux搭載のスパコンを出荷する予定で、「2007年にはスカラSMP型は数百テラフロップスに達し見通し」(山中氏)だ。

 スカラSMP型、IAクラスタ型の開発を進めながら、1PFOLPS超のスパコン開発も続ける。2004年10月には富士通研究所に「ペタスケールコンピューティング推進室」を設置した。推進室を本社内に設置しなかったのは、研究所段階での要素技術の開発が重要になると判断したからだ。推進室長の木村康則氏は、1PFOLPSを超えるスパコンの開発について「現技術トレンドの延長では達成は困難」と話し、技術のブレークスルーが必要と説明した。

 では、どのようなブレークスルーが必要なのか。富士通がまず取り掛かるのはノード間の通信を高速化するインターコネクトの開発だ。木村氏は2010年までのプロセッサの性能向上を「現状のクロック数の2〜3倍程度」と予想。この程度の性能向上にとどまるプロセッサを利用して、1PFOLPS超のスパコンを開発するには、「1万程度の計算ノードを接続する必要があり、効率のよいインターコネクトの開発が最重要課題」となる。現状のスパコンのノード数は1000程度。

富士通 取締役専務 伊東千秋氏(中央)と富士通研究所 ペタスケールコンピューティング推進室長(右)。富士通はクール・ビズを実施中

 富士通は九州大学などと共同で文部科学省のプロジェクトに選定された。2005年度の研究費予算は4億円。開発するのは、広帯域を実現する光パケットスイッチ技術や、ノードの高速化、負荷低減を行う高機能スイッチなどのインターコネクト技術。データ転送速度を数10GB/sに高めることや、現状技術では数10万本になるケーブルを数千本に削減することを目指す。

 1PFOLPS超のスパコンのアーキテクチャは「この1〜2年でグランドデザインを作成する」(富士通 取締役専務 伊東千秋氏)としていて、まだ明確ではない。伊東氏は「いずれにしてもクラスタの考えを導入しないといけない。また、1つ1つのノードも最高性能でないといけない」と述べた。プロセッサについても「たぶん、2010年には科学技術計算の環境はLinux。Linuxにとって最もパフォーマンスがよいプロセッサを考える必要がある」としたうえで、「汎用プロセッサでペタフロップスの性能が出せるとは思えない。ほかのベンダから購入できるとも思えないので、自社やパートナーで開発しないといけない」と語った。

(@IT 垣内郁栄)

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富士通の発表資料

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