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アイデアを形にするJoostのスピード感
2007/05/28
先週の@IT NewsInsightのアクセスランキング1位は「HDD交換ミス&バグで4時間ダウンしてしまう『ひかり電話』」だった。原因が単純な人為ミスと特定されたとあって、読者の関心を強く引いたようだ。6位にも、この件の第一報が入っている。
ひかり電話は5月15日にもNTT東日本管内で約7時間にわたって通話ができなくなる障害が発生しているほか、昨年9月にもサーバソフトウェアの不具合で約3日間ダウン、10月にはNTT西日本管内で障害が発生するなどトラブルが続いている。
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ところで個人的に気になったのは、P2PテレビのJoostだ。サービス内容やインターフェイスについては記事中に詳しく書いたので繰り返さないが(執筆から1点だけ機能追加があり、番組を見ている最中にボタン1つで番組に関するブログが書けるようになった)、技術的にもビジネス的にも、そしてライフスタイルを変える可能性を持っているというエンドユーザー視点で見ても、とても興味深い試みだ。
Joostは、開発スタイルという点でもユニークだなと感じた。ユニークはいい過ぎかもしれないが、お金や人、コードの集め方が、とても“今風”なのだ。
P2Pテレビというアイデア自体は、おそらくP2Pが騒がれ始めた2000年頃にまでさかのぼるだろう。Joost創業者の2人も、2005年頃にはアイデアを練り始めた話している。根幹部分だけを取ってみると、ある意味では誰でも思いつくアイデアだが、実際にビジネスとして成り立ち得るものを作り上げた手腕は賞賛に値する。実際に動くコードを、わずか1年と少しというスピードで実現し、世に出したかと思えば、すでに映像業界や広告業界の大手も口説き落とした後だという。これほどのスピードで、コンテンツ提供者、開発者、視聴者を納得させられるものを出せたのはなぜだろうか。
技術的な面でいえば、Mozillaのコードを流用し、「巨人の肩に乗れば楽だから」といい切ってしまえるのは、きわめて今風だ。マルチディアや通信関連のライブラリを、自分たちで書くことなど、オープンソースで育った世代には思いもよらないのだろう。Mozillaであれば、Mac OSやLinuxへの移植の手間も小さくて済むだろう。また、IPv6だとか、NGNだとか既存の枠組み自体を変えるような時間のかかることはしようとせず、目の前にある技術で“ハック”してしまう。そういうスピード感こそ、インターネットではないかと改めて感じ入った。
また、驚くのは、サーバを設置している最中の写真を含め、開発談をリアルタイムでブログに載せるなど、きわめてオープンなことだ。広報活動の一環として映像インタビューもWebサイトで公開しており、詳細にわたってJoostのスタンスや技術的バックグラウンドを説明している。こうしたことは、技術力とスピードに自信がなければ、なかなかできないことではないだろうか。1年間のクローズドな開発で、技術的、ビジネス的に十分先に進んでいるという自信があるのだろう。
ルクセンブルクの小さな事務所からスタートしたJoostだが、すぐに北米からも腕に覚えのある優秀な技術者を集めたという。Joostは今でもまだベンチャー企業に過ぎないが、すでに活動は大西洋を挟んで分散している。シリコンバレーのベンチャーキャピタリストから多額を資金も集めている。
1つのアイデアを種にして、大西洋を挟んで、人(技術)、資金、ビジネス上のキープレーヤーが続々と集まっていく姿には目を見はるものがある。EU加盟国の人々が国境がないかのごとくに経済活動を行うのは分かるが、ヨーロッパとアメリカは、かつてここまで近かっただろうか。企業活動がグローバルになったとはいえ、ベンチャー企業が最初からグローバルという例は多くないのではないか。どこか1カ所で作り、育てたコア技術を「世界に持って行く」と息巻くベンチャーは多いが、Joostのように最初からグローバルに開発という例は寡聞にして聞いたことがない。そうした点で、Joostはインターネットの落とし子といった印象を受ける。
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