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マイクロソフトは本当にオープン戦略に転換したか
2008/03/31
先週の@IT NewsInsightのアクセスランキングは第1位は「Googleレベルの学生が起業した『Preferred Infrastructure』」だった。東大、京大出身の若きエンジニアたちが集まり、技術力の高さで勝負する取り組みをレポートした。ソフトウェア開発のベンチャーでもサービスが収益を上げるまで受託開発で糊口をしのぐというケースが多いが、Preferred Infrastructureは受託開発はせず自社開発で勝負をするのだという。技術力、ビジネスモデル、ベンチャーとしてのあり方など、今後もさまざまな観点で注目を集めそうだ。
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個人的に気になったのは、最近突発的に過熱した「Webブラウザ戦争」だ。戦いといってもマイクロソフトやFirefox陣営が参加していないので一過性の熱病のようなものと見るべきかもしれないのだが、それでもInternet Explorerの動向は大いに注目だ。つい最近、IE8はWeb標準に準拠したレンダリングモードをデフォルトにするという方針変更をしたばかりだからだ。
IE開発チームは従来の独自路線を否定するかのように、次期バージョンのWebブラウザであるIE8で標準準拠を強く打ち出したきた。記者は、この方針転換がどうも理解できないでいる。
EUでの独禁法裁判への配慮か
オープンな規格への準拠、相互運用性重視といったことは、もはやIT業界全体のマントラとなった感がある。だから、マイクロソフトの最近のオープン、協調路線への転換自体は合理的な方針変更に見える。マイクロソフトは2008年2月21日(米国時間)にプロトコルやフォーマットの相互運用性を強化する方針だと発表している(発表文)。
これは欧州の独禁法裁判で負け続けていることへの対応という側面もある。2008年2月27日にもマイクロソフトは欧州委員会から、2004年に出された是正命令に従わなかったことを理由に追加制裁金8億9900万ユーロ(約1440億円)の支払いを命じられている。2004年、2006年、2008年の3回で、マイクロソフトが欧州で命じられた制裁金の総額は約16億7700万ユーロ(約2680億円)にのぼる。
欧州委員会の追加制裁金支払いの決定は、マイクロソフトのオープン戦略発表から、わずか6日後。まるでマイクロソフトのアナウンスをあざ笑うかのようなタイミングだった。欧州委員会の発表には、命令不服従を理由に追加制裁金命令を出すのは「EU競争法50年の歴史で初めて」と、マイクロソフトにとっては不名誉な解説まで付いていた。メディアはこぞってその1文を取り上げたので、ご覧になった方も多いだろう。
OOXMLの「オープン」に意味はあるか?
マイクロソフトはオフィス文書についてもOOXMLとして、その仕様をオープンに公開。2006年12月にECMAで標準化され、ECMA経由でISOに提出。現在も投票プロセスが進行中だ。2007年9月にいったんは標準化が見送られたが、2度目の投票が行われ、今週末にもISO標準として採択されるかどうかが決定しそうだ。
IE8やOOXMLでのオープン、相互運用、標準準拠といった戦略は一貫して同社の基本戦略の転換を示している――、そう見るのは素朴すぎると思うのだ。どれもまだ実際の結果を見なければ、本当に同社がオープン戦略をとっているのか、単なるポーズに過ぎないのか分からない。
プロトコルやファイルフォーマットがロックインの力を持つのは、その仕様が非公開だからではない。ネットワークを流れるパケットをのぞくなりバイナリを読むなりすれば、表層的な仕様は解析できる。より本質的なのは実装だ。実装が複雑で他社になかなか真似ができないことこそが支配力の源となる。
例えば、2008年2月15日にマイクロソフトがオフィスのバイナリフォーマットを公開したことをもって、データ互換性の問題が解決したように考えるのは早計だ。マイクロソフトでExcel開発チームに在籍していたことがあるソフトウェアコンサルタントのジョエル・スポルスキー氏は、Excelのフォーマットが本質的に複雑であることを、その歴史的経緯を含めて解説している。Excelは相互運用性のことが問題にならない時代に小さなチーム内で開発されたものだった。従って、Excelはマイクロソフト社内で自由に使えるバイナリライブラリに強く依存する形で進化してきた。今からExcelバイナリのトランスレータをスクラッチで実装するとなればWMFフォーマットや、OLEコンパウンドストレージなど、マイクロソフト社員が「Windows環境」という名の下に前提としてきたライブラリなどを、すべて自分で実装する必要がある。ExcelにはWordのドキュメントを埋め込める。従ってOOXMLの表計算のデータ形式を完全に実装するにはWordデータのパージングも行わなければならないのだという。
Wordには「次の段落と分離しない」という段落オプションがある。2つの段落が前後のページで“泣き別れ”とならないよう制御する指定だ。このオプションはファイルフォーマットに含まれていて、特に難しいものではないが、その実装の挙動となると話は別。正しくWordと同等の働きをさせるのに数週間かかるのではないかと、スポルスキー氏は指摘している。ソフトウェアは、こうした細かな機能の塊なので、WordやExcelの完璧なクローンを作るには、それらの開発に注ぎ込まれた数千人年という開発プロセスを、もう1度繰り返さなくてはいけないだろうという。もし精度の高いオフィス文書コンバータを用意しなければならないとしたら、Windowsサーバを立ててWebサービス経由でオフィスソフトのコードを流用することだ、とまで言ってやり方を紹介している。
バイナリだけではない。OOXMLには「autoSpaceLikeWord95」のような、挙動が詳述されていないタグがある。サードパーティは、これをどう解釈して実装すればいいのだろうか。IBMもOOXMLについて同様の考察を同社のサイト上で公表し、懸念を表明している。以下に該当部分を引用する。
ECMAから入手できるOOXML標準はPDF文書のセットとして配布されており、全体で約6000ページあります。これは大規模な仕様であり、広範かつ詳細にまでわたっています。この仕様がこれほど大規模な理由は単純です。OOXMLは実質的に、Microsoft Officeアプリケーションがファイルに保存する可能性のある、あらゆる種類のデータ・チャンクの完全な複製なのです。
OOXMLに関しては、いくつかの技術的なクレームが上がっています。そうしたクレームはどれも、煎じ詰めれば同じ基本的な内容に行き着きます。つまりOOXMLは妥当な共通交換フォーマットを規定するのではなく、バグの適合性に至るまでMicrosoft Officeの機能セット全体を規定しているのです。このためMicrosoft Office以外の実装者にとっては、OOXML標準を満たすのは実情にそぐわない(そして満たすことは実際には不可能な)大きな負担となる一方で、Microsoftが既に出荷しているものには都合良く完全に一致しています。これは大きな懸念事項です。
UNIX上でWindowsアプリケーションを動かすためのエミュレーション環境「WINE」は、十数年にわたる地道で継続的な開発の結果、アプリケーションを限定すれば使えるレベルに到達した。しかし、これまでサン・マイクロシステムズの「WABI」を含めて誰も実用レベルでWin32 APIを完全にエミュレーションすることに成功していない。その理由もソフトウェアの本質的な複雑さにあるのであって、APIの仕様がオープンかどうかは表層的な問題だ。APIの向こう側でAPIの仕様書から読み取れない動きをされたら、もうお手上げだ。
マイクロソフトの合理的な戦略は、次のようなものではないか。
オープン戦略を標榜し、APIやプロトコルの仕様はすべて公開し、できれば標準化していく。と、同時にソフトウェア実装の複雑さはなるべく維持して、単純な模倣ソフトウェアの互換性が低く見えるようにして顧客の支持を取り付ける。ユーザーは80%の互換性しかないソフトウェアを選ばないだろう。
例えば2次元ベクトルグラフィックフォーマットを定義するマイクロソフト独自規格の「VML」(Vector Markup Language)は、OOXMLでは過去の互換性のために存在していると書かれている。ISOでオフィス文書標準化プロセスに日本代表の一員として参加している村田真氏が2008年3月26日に公開した報告書によれば、こうした後方互換性のための機能は「transitional features」(移行のための一時的な機能というニュアンスだろうか)というくくりでまとめられ、オフィス文書がそれを含むどうかは明示的に区別されることになったという。スキーマも2種類用意する。
移行措置として別枠にくくり出すのは美しい妥協案だ。しかし、やり方は簡単ではないか? transitional featuresを含むかどうかのチェックボックスをWordでもExcelでもプロパティ画面の奥の方にひっそりと置いておけばいい。デフォルトは「使う」にしておけば誰もそんな属性は気にしない。移行のために当面transitional featuresを使うというのは顧客の選択です――。マイクロソフトはそう説明すればいい。こうして相変わらず世の中のオフィス文書はtransitional featuresを含んだものが大半となり、相変わらずマイクロソフト向けに作成されたオフィス文書や新規に作成されたオフィス文書は、マイクロソフト製品でしか正しく開けないことになる。
【追記】2008年2月25日から2月29日まで、スイスのジュネーブで各国代表が集まりOOXMLのBRM(バロット・レゾリューション・ミーティング)が行われた。BRMは昨年の投票時に各国からOOXMLに対して寄せられたコメントや修正要求について個別に論じる場で、ECMAで標準化されたOOXMLの仕様に比べて、BRMを経た現在のOOXMLの仕様(ISOでは正式にはISO/IEC DIS 29500と呼ばれている)は大幅に改善されたようだ。ECMAはBRMの内容を公表していないが、同会議に日本代表の1人として参加した村田真氏によれば、後方互換性確保のためのtransitional featuresに含まれる機能、例えば「autoSpaceLikeWord95」のようなアプリケーション依存のものは、詳細な動作アルゴリズムの解説が付記されることとなったほか、「必須(requirement)」から「推奨(recommendation)」という言葉に書き改められたという。ただし、autoSpaceLikeWord95だけで2ページ以上の記述になるという。
暴露された米マイクロソフトの社内メールアーカイブ
プロトコルがオープンかどうかは競争力や市場支配力とは関係がない。実装の複雑さこそが命だ。なぜならスニッファでのぞけばネットワークを流れるパケットはキャプチャでき、その解析も簡単だからだ。だからノベルはマイクロソフトにプロトコルで敗退したのだ――。このロジックは記者が考えたものではない。1990年代にマイクロソフト社内の幹部の間でかわされたとされるメールアーカイブで読んだマイクロソフトのExchange担当幹部の分析だ。
そのメールアーカイブというのは、1990年代に全米各地でマイクロソフトを相手取って起こされた反トラスト集団訴訟の1つ、アイオワ州での裁判で原告団から証拠資料として法廷に提出されたものだ。信じられないほど膨大な社内メールのアーカイブで、ビル・ゲイツやスティーブ・バルマーをはじめとする幹部らが、喧々囂々(けんけんごうごう)メールを使って自分たちのビジネス環境を分析し、戦略を練るというリアルなやり取りが含まれている。この証拠資料は2007年1月に受理されているが、その真贋についての司法判断は下されていない。証拠資料としてメールアーカイブが提出されたとたん、7年越しで争ってきた裁判は急転直下、和解してしまったから、もはや真相は藪の中だ。2007年4月に成立した和解条件は、原告団を構成する個人や企業、政府機関に対して、マイクロソフトが最高1億7995万ドルを支払うというものだった。
原告団は証拠資料をネット上で公開。それが後に別のWebサイトで保存され、すべてPDFで読めるようになっている。このアーカイブが公になったとき、英語圏では大きな話題を呼んだ。例えばマイクロソフトのジェームズ・プラモンドン氏というテクノロジー・エバンジェリストは2000年1月の日付があるメールに添付された「エバンジェリズムは戦争だ」という資料の中で、ISVのソフトウェア開発者たちのことをマイクロソフトのために戦争を遂行するチェスのポーン(将棋の歩に相当)に例えていたことが非難の対象となり、後に謝罪している。事実上、メールアーカイブの少なくとも一部資料を本物と認めているわけだ。
Windowsプラットフォームを破滅に導くもの
ビル・ゲイツが書いたとされる1998年12月5日の日付のメールが衝撃的だ。少し長いが全文を引用してみよう(日本語訳は記者による)。
われわれが戦略上変えなければならないことが1つ――、オフィス文書が、他社製ブラウザでうまく表示できてしまうのを許すのは、我が社に対して最も大きなダメージを与える行為の1つだ。
われわれはそうした結果につながるあらゆる努力をやめさせて、オフィス文書が「プロプライエタリなIE」の機能に強く依存するよう、改めて注意しておかなければならない。
それ以外のことはすべて、われわれのプラットフォームにとって自殺行為だ。これは、Windowsを破壊してしまう行為としてオフィスがやってはならないことなのだ。
より詳細な説明も喜んでする。
同様に、オフィス/ExchangeにおけるDAVへの熱狂は非常に大きな問題だ。このことについても皆がちゃんと認識していることを確認しておきたいと思う。
かみ砕いて言えば、ビル・ゲイツはオフィス文書とIEという組み合わせで、他社製品を排除しなければ、Windowsプラットフォームの破滅につながると警鐘を鳴らしているわけだ。これは同社がW3Cで標準化された2次元ベクトルグラフィック言語のSVGを無視して独自規格のVMLを使い続けたことや、OOXMLでもSVGと同等のことをするためにDrawingMLを作ったことなどを合理的に説明しているように思われる。
もっとも、たとえこれが本物であったとしても、10年前と時代が古い。戦略が変わっていても不思議ではない。マイクロソフトの強みは戦略が間違っていたらすぐに決定を翻すという節操のなさだろう。1990年代半ばにIE3、4、Windows 95の開発に携わった日本人プログラマの中島聡氏は、近著『おもてなしの経営学』(アスキー刊)のなかでビル・ゲイツの常人離れした決断力の速さを指摘している。中島氏によれば、たった1度の会議で、それまで傍流だったWindows 3.1系統の開発者たちが取り組んでいたWindows 95の製品化を決めたという。Windows 95のプロトタイプが動いているのを見た瞬間に、開発に何年もかけていた「Cairo」と呼ばれていた次世代OS開発プロジェクトの取り潰しを決定したという。社内的には先進的OSであるCairoに未来があると思われていて博士号持ちのエリート集団が取り組んでいたが、先に実装が動いたのはWindows 95だったからだという。中島氏との対談で当時を振り返る元マイクロソフト会長の古川享氏も、ビル・ゲイツの決断力を賞賛し「どんなに膨大なリソースをつぎ込んでいても、間違いに気付いたら即時にストップ」すると述べている。ビル・ゲイツにはサンクコストに拘泥する不合理さがみじんも感じられない。
従ってもしそれが競争に勝つために合理的な戦略であるならば、マイクロソフトは何の躊躇もなくオープン戦略に転換するだろう。しかし、記者にはそれがまだ同社にとって最善の方策と思えない。
中島氏はWindows 98の後、今のGoogle Docsのような製品を作ろうとしたが、社内で頭ごなしに否定されたという。しかし振り返ってみてみれば、パッケージソフトウェアとしてのオフィス製品が同社にもたらした日本円にして何兆円もの巨額の収入をリスクにさらしてまで、今でいうSaaSのようなビジネスに賭けるという選択肢はビジネス戦略としてはあり得なかったわけで、その意味でマイクロソフトの選択は正しかったのではないかと中島氏は回想している。
現在にいたるまで、SaaS、SaaSと言われながらも実際に巨大な利益を生み出しているのはマイクロソフトのオフィス製品などパッケージソフトウェアという現実がある。グーグルのGoogle Docsは話題性こそ高いが、検索広告で得ている莫大な利益で実験的に開発している研究開発製品という側面がある。
マイクロソフトがオフィス製品という収益源を死守すべき理由は、今も10年前と変わっていない。だから記者は、同社の基本戦略が本当の意味での相互運用性の向上にはないのではないかと疑うのだ。マイクロソフトにとっては、HTML同様に「どのアプリケーションでもそこそこは表示できるが、マイクロソフト製品以外では正しく見えない」というのが最も望ましい。
メールアーカイブは本物か?
念のために繰り返して書くが、先に挙げたメールアーカイブが原告側を利する目的で捏造された創作だという可能性もある。このメールアーカイブはあくまでも証拠資料でしかない。資料をどう見るかは読者次第だ。ただ、次の4つの理由で記者はこれらが本物である蓋然性が高いと考えている。
1つは技術・ビジネス双方にまたがる詳細な分析が見事であること。しかも数年というスパンに渡って破綻なく実名でコミュニケーションを行っている。あまりにおもしろいので、記者はほぼ全文を読んでしまったが、とても創作とは考えづらい。例えばビル・ゲイツが1995年に書いたネットスケープ社の分析などは出色だ。
2つめは提出された3186点の証拠資料のうち、55点について機密情報に触れるとの理由から、マイクロソフトが前掲のWebサイトに対して掲載を取りやめるよう要請し、実際に削除されたこと。贋作や創作といった捏造記事に機密情報が55点も紛れ込むと考えるのは不自然だ。アーカイブのなかには価格改定時の価格表といった資料もあり、細かな数字や利用許諾の文面もすべて含まれている。
3つめは、7年にもおよんだ裁判が唐突に和解に至ったのが証拠資料提出の直後で、それが和解の引き金になったと疑われること。
4つめは、社内メールアーカイブの暴露がアイオワ州の裁判が初めてではなく、その流出経路について、興味深い1つの証言があるからだ。
ベストセラー『コンピュータ帝国の興亡』などIT業界に関するエッセイで知られるテクノロジージャーナリストのロバート・X・クリンジリー氏が、2007年2月に「闇に葬られたマイクロソフトの汚いやり口」(Microsoft dirty tricks that were never revealed)と題する記事のなかで、マイクロソフトからバックアップ業務を請け負っていたという証言者の言葉を引いている。アイオワ州とは別の裁判だが、かつてマイクロソフトがメールアーカイブという証拠の隠滅を図ったと考える理由があるというのだ。
アイオワ集団訴訟和解成立の2007年に先立つ2005年――。マイクロソフトはBurst.comという企業との間で、独禁法違反と特許侵害に関する訴訟で和解している。このとき原告側は、交渉中のマイクロソフトがBurst.comのストリーミング技術を盗んだとし、交渉していた当時の社内メールの提出をマイクロソフト側に要求していた。
一方、マイクロソフト側は失われたメールを探し出すのはあまりにも困難だと主張していた。法廷は最終的に、どれほど困難であってもバックアップテープからメールアーカイブを探し出すようマイクロソフトに命じる。しかし実際にはマイクロソフトがバックアップからメールをリストアしなければならなくなる前に、6000万ドルの和解金を支払うことで両者は和解してしまった。
しかし、クリンジリー氏に対して、かつてマクロソフトと契約関係にあったサーバ保守・運用会社の元社員が、当時の内幕を暴露している。その元社員によれば、該当するメールを含むテープの所在はハッキリしていて、メールの復元は容易だったという。元社員は企業のバックアップデータ管理を行うIron Mountainの「11号ビル」のテープ保存庫から、該当するテープを回収したが、その後、それらのテープが忽然と消えてしまったと証言している。マイクロソフトの弁護団がメールアーカイブのリストアがきわめて困難だと法廷で主張しているときには、すでにテープは回収済みだったというのだから、きな臭い。
さらに、元社員は驚くべき証言をしている。マイクロソフトは当時OutlookのメールボックスであるPSTファイルをバックアップ対象から除外するというポリシーを持っていたが、バックアップソフトが実際に除外に失敗していたばかりでなく、マイクロソフト関係者のなかに意図的にファイルを改変して除外フィルタを通り抜けるようにしていた人物がいるというのだ。
この証言情報を提供した人物の身元について、クリンジリー氏は「解雇され、シアトルから去った」と書いている。クリンジリー氏が作り話をしている可能性はあるが、氏が、これまでの実績や信用をリスクにさらすとは考えづらい。
長々と書いてきたが、マイクロソフトがプラットフォームやファイルフォーマットによる囲い込み戦略を放棄すべき理由が記者には今ひとつ分からないのだ。時期尚早ではないだろうか。だから、表面上はAPIやプロトコル、ファイルフォーマットを公開しつつも実装の複雑さという一見分かりづらいものを密かに囲い込みのリソースとして活用するという選択は、企業として合理的な戦略に思えるのだ。
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