Weekly Top 10

勢いを増すWebKit

2008/05/19

 先週の@IT NewsInsightのアクセスランキングは第1位は「グーグル先生を超える良回答連発、Powersetを使ってみた」だった。セマンティック・サーチと呼ばれることもある新しいアプローチの検索エンジンの使い勝手を、いくつかの検索の実例で紹介した。

NewsInsight Weekly Top 10
(2008年5月12日〜5月18日)
1位 グーグル先生を超える良回答連発、Powersetを使ってみた
2位 「YARV」の笹田氏にIPA賞 SW試験最年少合格の中3生徒も
3位 「1日36万ユーザーが増加」、Skypeの現状
4位 大手重工業のIHI、オープンソースCRMを採用
5位 あらゆるサイトをSNS化、「Google Friend Connect」発表
6位 「VMwareも統合管理」、マイクロソフトSystem Centerの今後
7位 富士通、ブレードサーバは「中くらい」を狙いたい
8位 PS3のゲームプレイ動画を直接YouTubeに
9位 マイクロソフトのヤフー買収断念が意味するもの
10位 来日したゲイツ会長、「Windows 7はトップシークレットだ」

 ランキングには入っていないが個人的に気になったのは「WebKitと統合したQtをデモ、Trolltech」というニュースだ。というのも、最近、WebKitに強い勢いを感じるからだ。開発ピッチが速いし、採用例も増えている。もしかすると、次世代のRIAプラットフォームの覇者の位置に最も近いのはWebKitではないか。

 RIAといえば、Adobe AIRやSilverlightが思い浮かぶかもしれないが、そもそもこうしたフレームワークが必要だった理由はHTMLの表現力や、HTMLを使ったWebアプリケーション開発フレームワークが貧弱だったからだ。

 しかし、HTMLでも十分なのではないか。

 開発フレームワークは、Ruby on RailsやCake PHP、Python向けではDjangoなど優れたものが登場している。一方、HTMLは次バージョンのHTML 5で、オーディオやビデオといったマルチメディア関連機能、Webアプリケーション向けの機能など、かなり強化される。標準規格としてのHTML 5については、その採用や普及について懐疑的な見方もあるようだが、そうしたことは、勢いづくWebKitには関係がないかに見える。なぜなら、WebKitではすでに多くのHTML 5の機能を取り込んでいて、なおかつWebKitが使われる場面の多くではWebKit以外のHTMLレンダリングエンジン――Trident(IE)だとかGecko(Firefox)だとかPresto(Opera)――のことを気にしなくていいからだ。

 WebKitはもともとUNIXのデスクトップ環境「KDE」のHTMLレンダリングエンジンとして開発がスタートしたが、今では異なるベンダやプロジェクトが採用し、急速に開発が活気づいている。Googleがリードする携帯電話向けLinuxプラットフォームのAndroidはWebKitを採用しているし、やはり携帯向けLinuxプラットフォームを策定するLiMOファウンデーションもWebKitを規格に取り込んでいる。好調のアップルはMac OS XやWindows向けWebブラウザのSafariやiPhoneでWebKitを採用している。ノキアは、Symbian OS向けのS60プラットフォームにWebKitを移植して端末に組み込んでいる。そして、冒頭に書いた通り、Trolltech(ノキアにより買収済み)はQtにWebKitに統合した。次世代のJava VMにはWebKitが統合されるという噂もあるが、それもある種の必然に感じられる。

 WebKit関連のニュースで記者が衝撃を受けたのは4月1日のEpiphanyチームによるGeckoからWebKitへの全面移行の発表だ。Epiphanyというのは、KDEと並ぶ(もしかすると、すでにKDEよりも先に行っているかもしれない)UNIXデスクトップ「GNOME」の標準Webブラウザだ。知る人は少ないだろうし、GNOMEユーザーですら使っている人は少ないと思う。そういう意味では細かな話なのだが、WebKitの勢いを象徴する出来事だと思う。

 Epiphanyのチームは、それまで対応してきたFirefox・Mozillaのレンダリングエンジン「Gecko」のサポートをやめて、WebKitに一本化すると発表したのだ。理由はGeckoのリリースサイクルが遅すぎてGNOMEの6カ月単位のリリースに合わないこと、抽象化レイヤのメンテナンスに労力がかかりすぎることなどだ。そうした分かりやすい理由とは別に、Epiphanyチームは「WebKitには勢いがあると感じている」と述べているのが象徴的だ。WebKitの採用により、より多くの開発者をEpiphanyやGNOMEプラットフォームに引きつけることができるとしている。

 Epiphanyチームが述べているとおり、開発者、各種ソフトウェアモジュール、プログラミング言語、開発フレームワークなどが織りなす大きなエコシステムの中で、WebKitが急に中心的な場所に躍り出てきた感じがするのだ。それは、おそらくWebKitが最初から優れていたからとか描画が速かったからそうなったというのではない。WebKitは、最もベンダ色の付いていない、誰もが共通の土台として利用可能なオープンソースのHTMLレンダリングエンジンだったからこそ、採用されたのではないか。誰もが採用し、そして改良し、優れたソフトウェアになってきたために、さらに採用が加速する。そうした好循環が生まれている。

 これはLinuxカーネルに似ている。Linuxも、OSのカーネルとして優れていたから採用され、普及したというより、当初はベンダ色のないオープンソースのOSカーネルとして、最もいい位置にいたことが採用の理由だった側面がある。

 モバイル端末や組み込み系で、そのUIの未来がもし、CSSやSVG、DOM、JavaScriptなども含めた広い意味でのHTMLにあるのだとしたら、そのとき使われるエンジンはWebKitになるのではないか。

 ネットワークを使う端末として、現在われわれはついデスクトップやノートPCを想像するが、インターネットやWebアプリケーションの表示デバイスの将来を左右するのは、非パソコン系の端末である可能性がある。現在は、デスクトップ向けにコンテンツやアプリケーションをデザインして、それを苦労してモバイルに対応しているが、この関係はいずれ逆転するに違いない。そのとき、人々が最も使っているレンダリングエンジンはTrident(IE)でも、Gecko(Firefox)でもないように思えるのだ。GeckoはWebKitほどに他のソフトウェアやプラットフォームと融合したりしていないし、何よりモバイルへの布石が弱い。

 もちろん、同じWebKitといっても、QtやiPhone(Cocoa Touch)のようにネイティブのUIをサポートしているものもあり、UIの話はそれほど簡単ではないだろう。

 最近のWebKitの勢いを見ていると、ある種の集合的意思のようなものを感じる。1990年代後半に、何もかも80番ポートで済ませようすることに誰もが本気になったなと感じたのと似た感覚で、「もしかすると皆さんWebKit(HTML)に本気ですか」と独りごちたりしている。

(@IT 西村賢)

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