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突然の規定変更。そんなの誰が決めたの?ITアーキテクトが見た、現場のメンタルヘルス(3)(2/2 ページ)

常にコンピュータ並みの正確さを要求されるITエンジニアたち。しかし、ITエンジニアを取り巻く環境自体に、「脳を乱す」原因が隠れているという……。ITアーキテクトが贈る、疲れたITエンジニアへの処方せん。

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重要なのは、「互いが納得しているか」

 コンピュータのコミュニケーションでは、データを送ったら、相手からデータを受け取ったマーク(アクノレッジという)が返ってくるまで待ちます。マークが戻ってこない限り、コンピュータは次のデータを発信しません。この手順を守っているので、データは確実に相手に届きます。

 人間のコミュニケーションは違います。人間同士の会話では、言葉が途切れることもあるし整理されていないこともあります。しかし、それでも相手に内容を伝えられます。なぜなら人間は、こま切れの言葉であっても、脳で意味を組み立てて推測しながら理解することができるからです。コンピュータはデータがそろわない限り処理を開始できませんが、人間はデータがそろっていなくても、処理を開始させることができます。

 人間のコミュニケーションでも、情報の正確さは重要です。しかしそれ以上に重要なのは、互いが情報に納得しているかどうかです。正論であっても、法律に逸脱していなくても、納得できない内容であれば合意はされません。逆に、多少不確かな情報であっても、誠実に素直に、簡潔に相手に届けようとする意思があれば、人間は納得して情報を受け止めようとするそうです。これはコンピュータではできない作業でしょう。

 この話を聞いて、グループリーダーはいいました。「自分が納得していない内容では、どう頑張って説明しても、相手は納得しないんだと思いました」。私もそのとおりだと思います。

納得感を高めるコミュニケーションの方法

 それでは、互いが納得したうえでコミュニケーションをするにはどうしたらいいのでしょうか。

 グループリーダーが感じたように、まずその情報に自分自身が納得していることも必要です。ただ、相手がそれに納得するかどうかは、相手の経験や考え方にもよります。

 しかし、できるだけ納得感を高められるよう、伝え方を工夫することはできます。それを手順化したものが、下記の「会話の質を向上させる3ステップ」です。

図1 会話の質を向上させる3ステップ
図1 会話の質を向上させる3ステップ

 第1ステップでは、あなたの言葉が相手に「届いているか」どうかを確かめます。まず、あなたの伝えたい情報(言葉)が相手の耳に入ることが重要です。相手がメールを打っている、こちらを向いていない、何かに気をとられている、こういう状況で言葉を発しても、相手の耳にはほとんど入りません。

 第2ステップでは、あなたの言葉を相手が「理解しているか」どうかを確かめます。言葉が相手の耳だけでなく、脳までも到達していることが重要です。相手があなたの言葉にうなずいている、目を合わせている、メモを取っている。こういう動作が見られれば、あなたの言葉を脳で理解しようとしていることが分かります。

 第3ステップは、あなたの言葉に相手が「納得しているか」どうかを確かめます。相手はあなたの出した情報が有益なのか無益なのか、納得できるものなのかできないものなのか、しっかり頭(脳)で考えて決めたいと思っています。あなたは「私のいったこと、どう思う?」とか「分かった?」とか尋ねてみて、相手の納得感を確認してください。相手が納得すればそれでいいですし、もし納得しなかったら、また違った言葉に換えて、第1ステップから会話をやり直してください。これを続けるとあなたの会話の品質は少しずつアップしていきます。

 グループリーダーは、このように感想を話していました。「この手順を守って会話すれば、相手だけではなく私自身の納得感もアップするかもしれません」

 言葉は、ただ流ちょうにしゃべるだけではいけないこともあります。垂れ流し状態になり、後に何も残らない可能性があります。上記の3つのステップをしっかり練習して、あなたの武器として使ってください。それがあなた自身のスキルアップにつながると思いますし、組織全体のメンタルヘルスを正常に維持するためにも重要だと感じます。

筆者紹介

樋口研究室

樋口節夫

日本アイ・ビー・エムに22年間勤務し、その後独立。アーキテクトとしてメインフレームからオープンシステムまで幅広いシステム構築に携わった経験から、コンピュータシステムの良しあしはそれを使う人間の良しあしによって決まることを発見。人間のパフォーマンスアップツールとしてITコーチング手法を開発し、人材開発およびテクニカルコンサルタントとして活躍中。『ITコーチング入門―SE・ITエンジニアのための問題解決とスキルアップ』(技術評論社刊)をはじめ、技術系や人材系の著書多数。主宰する樋口研究室では、ITエンジニアが危機から身を守るための練習会(ワークショップ)も実施している。



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