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会社に行くのが怖い。どうしたらいいの?ITアーキテクトが見た、現場のメンタルヘルス(4)(2/2 ページ)

常にコンピュータ並みの正確さを要求されるITエンジニアたち。しかし、ITエンジニアを取り巻く環境自体に、「脳を乱す」原因が隠れているという……。ITアーキテクトが贈る、疲れたITエンジニアへの処方せん。

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困難な仕事の恐ろしさ

 IT業界の現場には、「おかしい」とか「変だ」と思うような仕事が続いて起こるケースがあります。誰が見ても人員不足のプロジェクトが受注され続ける、同じ障害が3年間発生し続ける、提案するたびにディスカウントを要請され続ける、これが際限なく続きます。

 人間は連続して嫌な思いを経験すると、結果の先読みをするようになるようです。次に何が起こるのか、また嫌な思いをするのか。嫌な思いが終わりなく続く恐怖を想像するそうです。

 感電するのが分かっていて、わざわざ濡れた手で電源コードに触れる人はいません。危ないと知っている場所には近づかないようにするでしょう。危険を回避する自然な行動です。それなのに、与えられる仕事がいつも危険で困難なものだったら、メンバーは疲れてしまい、マイナスパワーに引き込まれてしまいます。

 コンピュータを高速稼働させるときは、水や空気で冷やしながら使います。そうしないと熱を持ってしまい、事故の原因になります。人間も難しい仕事をしたら、どこかでそれを終了させて、脳を休ませないといけません。疲れが取れてから次の作業を行う必要があります。脳にも冷却期間がいるのです。そうでないと、人間にも事故が起こります。

自分でゴールを作ってしまう

 先ほどの話をしてくれたリーダーはいいます。「終わりが見えていればいいのだけれど。そこまで行けばもうない、それが分かっていれば頑張れるのですが」

 確かにそうですね。現場には、終わりの見えない仕事が大量にあります。終わりの見えない仕事は、目的地を決めずに飛ばすジェット機に似ています。燃料を補給する場所が分からないまま飛ぶわけですから、いつか燃料切れで墜落します。

 目的地が決まっていさえすれば、そこで燃料を補給することで、飛行し続けることができます。

 困難な、終わりの見えない仕事を依頼されたら、そこに自分で終わり(目的地やゴール)を設定してから仕事を始めると、終点が見えて安心です。そのための1つの方法を紹介しましょう。「ゴールを作るための三人称変化」という方法です。

図1 ゴールを作るための三人称変化
図1 ゴールを作るための三人称変化

 例えば、あなたに「ちょっと嫌だな」と思ってしまうような仕事の依頼があったとしましょう。まずその仕事を「私ビュー」で見てみます。その仕事をやると自分の知識や経験をゲットできると思うなら、思い切ってその仕事を完了させることを、自分のゴール(目的地)にします。

 またその仕事を「あなたビュー」でも見てください。「あなた」というのは、自分の上司や同僚、家族、恋人です。自分が仕事をするのはあなたのため、自分があなたに利益を与える、そう考えます。そしてこれを実現させることを、自分のゴールにします。

 「私」にも「あなた」にも当てはまらなければ、「みんなビュー」を使いましょう。「みんな」というのはグループや会社、国などです。自分の仕事はみんなの利益になる。平和をもたらす。後世に残る。これを自分のゴールにします。

 リーダーはこの話を聞いていいました。「自分で決める。これが重要なのですね」

 そのとおりです。この手順は、嫌なことから逃げず、自分をコントロールするために大切なものです。仕事の成果が、いつも自分の成果になるとは限りませんが、自分の成果は自分で決めるという発想をすると、自分の行動に大きな意味が出てきます。

 これをメンバー全員で感じるようになると、無意味な仕事はなくなります。その結果、会社や組織のメンタルヘルスも正常に保てるようになるでしょう。

 この手順を練習して、ぜひ皆さんの会社や組織でも活用してみてください。

筆者紹介

樋口研究室

樋口節夫

日本アイ・ビー・エムに22年間勤務し、その後独立。アーキテクトとしてメインフレームからオープンシステムまで幅広いシステム構築に携わった経験から、コンピュータシステムの良しあしはそれを使う人間の良しあしによって決まることを発見。人間のパフォーマンスアップツールとしてITコーチング手法を開発し、人材開発およびテクニカルコンサルタントとして活躍中。『ITコーチング入門―SE・ITエンジニアのための問題解決とスキルアップ』(技術評論社刊)をはじめ、技術系や人材系の著書多数。主宰する樋口研究室では、ITエンジニアが危機から身を守るための練習会(ワークショップ)も実施している。



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