スーパー理論でキャリアの全体像を考えよう:エンジニアも知っておきたいキャリア理論入門(2)(2/2 ページ)
本連載は、さまざまなキャリア理論を紹介する。何のため? もちろんあなたのエンジニア人生を豊かにするために。キャリア理論には、現在のところすべての理論を統一するような大統一理論は存在しない。あなたに適した、納得できる理論を適用して、人生を設計してみようではないか。
ライフロールは8つの役割を演じること
キャリアは、「人生のある年齢や場面のさまざまな役割の組み合わせ」であるとスーパーは考えました。典型的には、人は以下の8つの役割を職場、家庭、地域、学校などを舞台として演じます。
役割 | 説明 |
---|---|
子ども | 親との関係における自分、親に対して注がれる時間のことを意味します。小さいころころは、子どもとしての役割がほとんどです |
学生 | 学ぶという立場にいるのが学生。小・中・高、大学はもちろん、働きながら夜社会人大学院などに行く人もまた学生の役割も兼ねています |
職業人 | 文字どおり、仕事をやるという立場。アルバイトなども立派な職業人としての役割です |
配偶者 | 夫、妻の役割。法律上の夫婦でなくても、共に生活を送るパートナーとしての役割です |
家庭人 | 親元を離れてから始まる役割。家事全般をやる役割で、多くは女性が主婦と呼ばれて担当しますが、男性がやることが多い日曜大工的なことも、家庭人としての仕事です |
親 | 子どもを持ったときから始まる役割です |
余暇を楽しむ人 | 文字どおり、趣味やスポーツなど、好きなことをして楽しむ立場、それに費やす時間のことです |
市民 | スーパーは、市民を無給のボランティアを行う役割としています。社会を構成する一員として、社会に貢献をするということです |
私たちは、生涯を通じて、上記8つの役割を1つ、あるいは複数を並行してこなしながら、毎日を送っていきます。多くの社会人の一番の悩みは、職業人としての役割に没頭しすぎると(あるいは没頭せざるを得ないため)、配偶者、あるいは家庭人、親としての役割がおろそかになり、時に離婚や家庭崩壊につながることもあるという点でしょう。
従って、私たちは限られた人生という時間の中で、相互に影響しあう各役割にどれだけの時間を投じるかを考え、全体としてうまく回っていくようにバランスを取ることが求められます。いわゆる「ライフ・キャリア・バランス」という視点が、「これからのキャリア」を設計するに当たって不可欠であることがお分かりになるかと思います。
そしてまた、これらの役割のどれに重点を置き、どのような演じ方をしているのかがあなたの「自分らしさ」を形成するものとなります。人生におけるさまざまな舞台においてあなたが見せる演技こそが、あなただけが持つキャラクター(性格)を発揮しているということがいえるわけです。
なお、スーパーは、生涯におけるライフロールの各役割の始まりと終わり、相互の重なり合いを「ライフ・キャリア・レインボー」(通称、「キャリアの虹」)と呼ぶ図に表しています(図1)。
図1 ライフ・キャリア・レインボーの図。Donald E., Ph.D. Super、Branimir Sverko、Charles M. Super編『Life Roles, Values, and Career International Findings of the Work Importance Study』(Jossey-Bass Publishers刊)の24ページの図を基に簡易化し、日本語で表記
14の価値観とは何か
スーパーは、個人は、自分にとって重要な価値観を仕事、あるいはほかのライフロールにおいて達成しようとするということを実証しました。そして、人が重要と感じる価値観の種類を次の14個に整理しています。
価値観 | 説明 |
---|---|
能力の活用 | 自分のスキルや知識を発揮できるか |
達成 | よい結果が得られたという実感が持てるか |
美的追求 | 美しいものを見いだしたり、つくり出したりできるか |
愛他性 | 人の役に立てるか |
自律 | 自律できるか |
創造性 | 新しいものや考えを発見したり、デザインできるか |
経済的報酬 | お金を稼いで、高い水準の暮らしが送れるか |
ライフスタイル | 自分の行動で自分を計画し、望む生き方ができるか |
具体的活動 | 体を動かす機会が持てるか |
社会的評価 | 成果を周囲からきちんと認めてもらえるか |
危険性 | リスクと伴う、わくわくするような体験を持てるか |
社会的交流性 | ほかの人と一緒にグループとして働けるか |
多様性 | さまざまな活動に従事できるか |
環境 | 仕事やそのほかの活動にとって心地よい環境か |
あなたは、これらの価値観のどれをどの程度重要だと思いますか。自分の価値観を自分自身でしっかり把握することは、自分はどんな仕事に向いているのかを判断すること、すなわち適切な職業選択に有効です。
私がキャリア・アドバイザーとして、社会人の方のキャリアの相談を受ける場合、上記の価値観を基にした数十枚の「バリューカード」(価値観カード)を用いて、相談者に優先順位を付けてもらいます。普段の生活では、自分がどんなことを重視して物事を判断し、行動しているかを意識しないものですが、就職・転職など大きなキャリアの転機においては、きちんと自分の価値観を明確化しておくことが大切なのです。
なお、最初に書いたように、あなたが大切にしたい価値観が仕事を通じて達成されない部分があったとしても、ほかのライフロールの中でそれを達成するようにすればいいのです。例えば、仕事の中で「美的追求」をしたいけど、それができるような仕事でないのであれば趣味で絵画などの芸術を通じてその価値観を追求すればいい。幸せな、充実した人生を送るために、仕事だけで自分にとって大切な価値観をすべて達成しなければならないということはないのです。
参考文献
▼キャリアカウンセリング入門、渡辺三枝子、E.L.ハー著(ナカニシヤ出版)
▼キャリア・カウンセラー養成講座 テキスト(日本マンパワー)
▼キャリア・カウンセラー「伯楽」養成講座 テキスト(社会開発研究センター)
▼Life Roles, Values, and Careers: International Findings of the Work Importance Study、Branimir Sverko、Donald E., Ph.D. Super、Charles M. Super編(Jossey-Bass Publishers)
筆者紹介
松尾 順(まつお じゅん)
1964年福岡県生まれ。早稲田大学商学部出身。市場調査会社、IT系シンクタンク、広告会社、ネットサービスベンチャー、ネット関連ソフト開発・販売会社を経て、2001年より有限会社シャープマインド代表。マーケティングリサーチ、広告プロモーション企画&プロデュース、Webサイト開発企画&プロデュースを多数手掛ける一方、キャリア理論や心理カウンセリング、コーチングを学び、主に個人を対象とするキャリアアドバイザーとしての仕事を増やしてきている。顧客心理の理解向上を目指す「マインドリーディング・ブログ」主宰。「シナプスマーケティングカレッジ」講師。
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