夢や目標がなくても成功できる「自分軸論」エンジニアも知っておきたいキャリア理論入門(12)(1/2 ページ)

本連載は、さまざまなキャリア理論を紹介する。何のため? もちろんあなたのエンジニア人生を豊かにするために。キャリア理論には、現在のところすべての理論を統一するような大統一理論は存在しない。あなたに適した、納得できる理論を適用して、人生を設計してみようではないか。

» 2009年06月24日 00時00分 公開
[松尾順シャープマインド]

 今回は、トップアスリートや著名人のコーチングで知られるプロ・コーチ、平本相武(ひらもとあきお)氏のキャリア論をご紹介しましょう。はつらつとした雰囲気が魅力的な平本氏の講演を聞いたことがあります。背筋がすっと伸びてやる気がわいてくる、そんなお話でした。

 平本氏の考え方は、キャリア論に留まらず、幸せな、充実した人生を生きるための人生論といえるものです。キャリアデザインには、夢や目標がなければならないという思い込みを打破し、「将来どうなりたいか、自分でもよく分からない」と悩む人に希望をくれる理論です。

「ビジョン=ありたい姿」と「価値観=自分らしさ」

 平本氏によれば、「ビジョン」、すなわち将来「自分がありたい姿」を明確にすることでやる気が出るタイプの人と、「価値観」、すなわち「自分が大事にしたいこと=自分らしさ」に沿って生きられることが、やる気につながるタイプの人の2種類がいるそうです。「ビジョン」と「価値観」の違いを平本氏は旅行にたとえて説明しています。

 あなたが旅行に行く場合、少なくとも次の2つのどちらかの目的があるはずですね。

○○に行きたい(行先)

○○だから行きたい(理由)

 例えば、「ハワイ」(行先)に行くことができれば、旅行でも仕事でも、理由は何でもいいという場合があるでしょう。逆に、「温泉」(理由)に入れるなら、行先はどこでもいいという人もいます(行先、理由のどちらも満たされないとダメという人もいるでしょうけど……)。大事なのは、少なくとも、行先、あるいは行く理由のどちらかが満たされなければ、充実した旅行にはならないという点です。

 では、上記のことを人生に置き換えてみましょう。

○○な人生を送りたい(行先)

○○だからそんな人生を送りたい(理由)

 ここで、どんな人生を送りたいか、という人生の行先こそが「ありたい姿」、すなわち「ビジョン」です。そして、どうしてそんな人生を送りたいかという理由、いい換えると「大切にしたいこと」=「自分らしさ」が「価値観」なのです。

 平本氏は指摘します。わたしたちの多くは、「行先」(ビジョン)や、「理由」(価値観)が分からないまま、人生という「旅」を続けていると。

自分軸……行動・判断の指針になるもの、そしてやる気のもと

 わたしたちがいまほど豊かでなかったころは、とにかく食べるために、一生懸命、汗水たらして働くだけで精いっぱい。仕事を選ぶどころか、ビジョンや価値観などを考えている余裕はありませんでした。しかしいまは、雇用環境が悪化しているとはいえ、生きること、働くことについて、ありたい姿や自分らしさを考える余裕がある時代です。

 だからこそ、自分の人生の「行先」や「理由」を見つけ、自分の思うような人生を設計していく必要があるというのが平本氏の主張です。平本氏は、ありたい姿(ビジョン)、自分らしさ(価値観)のことを合わせて「自分軸」と呼んでいます。自分軸が必要なのは、わたしたちは「選べる時代」に生きているからです。

 キャリアについていえば、世の中にはさまざまな仕事がありますよね。一定の制約はあっても、どの仕事を選ぶかはあなたの自由。そこで、仕事を選ぶ際のよりどころ、すなわち判断や行動の指針となるのが自分軸なのです。そしてまた、自分軸が明快であれば、ありたい姿、自分らしさの実現に向けて「やる気」が沸々とわいてきます。その意味で、自分軸は「やる気のもと」となるものです。

ビジョン型の人、価値観型の人

 前述したように、人にはビジョン=ありたい姿を重視する傾向が強い人と、自分らしさ=価値観を重視する傾向が強い人がいます。前者をビジョン型、後者を価値観型と平本氏は呼んでいます。平本氏によれば、それぞれのタイプの特徴は以下のとおりです。


●ビジョン型

 未来に実現したい自分の「ありたい姿」を思い浮かべ、「あの姿にたどり着きたい」と思うことでモチベーションが上がる人。「夢」とか「目標」というとワクワクする人。就職や転職のとき、「何年後に自分はこんな仕事をしたい」と先に決め、その目標達成のためにやるべき仕事を選ぼうとするタイプ。やる気を持続するうえで大事なのは、自分のビジョンに「近づいている感」です。

●価値観型

 いままでの経験の中から育まれてきた「自分らしさ」に基づき、「自分にとって大事なことで1日1日を満たしたい」と思うことでモチベーションが上がる人。就職、転職のとき、「クリエイティブな発想が生かせる」「マイペースでルーティンワークをこなす」といった、自分の価値観を指針に仕事を選ぶタイプ。やる気を持続するうえで大事なのは、自分の価値観が「満たされた感」です。


 さて、あなたはビジョン型ですか、それとも価値観型ですか。

 従来のキャリア理論では、将来の目標や夢を明確にすることが強調されてきました。しかし、わたし自身を含め、確固たる夢や目標がなく、「あなたの夢は?」と聞かれると戸惑ってしまう人もたくさんいます。そして、「夢や目標がないとダメなんだ……」と落ち込んだ経験があるかもしれません。

 しかしそんな人でも、人生や仕事の中での「こだわり」や「大切にしていること」は必ずあるはずです。そうした「自分らしさ」が満たされることが人生の幸せにつながっているのではないでしょうか。平本氏の理論は、人の幸せややる気の源泉には、夢や目標といったビジョンだけでなく、自分らしさを発揮するための価値観があることを教えてくれています。夢や目標がなくても、成功できるし幸せになれる、という温かいメッセージをわたしたちに投げ掛けてくれているのですね。

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