私だってもう少し「技術者」でいたかった:ITアーキテクトが見た、現場のメンタルヘルス(8)(2/2 ページ)
常にコンピュータ並みの正確さを要求されるITエンジニアたち。しかし、ITエンジニアを取り巻く環境自体に、「脳を乱す」原因が隠れているという……。ITアーキテクトが贈る、疲れたITエンジニアへの処方せん。
私だってもう少し、「ITエンジニア」でいたかった
このITエンジニアは、リーダーより10歳年上のバリバリの技術者です。管理職に進む道もあったようなのですが、それを拒んで専門職の道を進んでいるそうです。だからコンピュータにめっぽう強いし、開発経験も豊富。リーダーが話す内容はことごとく論破されてしまいます。リーダーは、そんな自分を情けないと思っていました。
「私は、気が付いたらリーダーになっていました。だからスキルがない。このITエンジニアのような身分がうらやましいです」
うらやましい気持ち、分かるような気がします。一ITエンジニアの時代は、コンピュータの管理だけをしていればよい。でもリーダーになったら、人の管理もしないといけない。加えてお金(経費)の管理もあります。技術を武器にしているITエンジニアにとって、人の管理とお金の計算は苦手な分野なのかもしれません。
ITの仕事は、新しくて革新的な技術に出合える、面白い仕事だと思います。でもその技術を使うのは人間です。だからITの仕事では、コンピュータの管理だけでなく、そこで働く人の管理も重要です。人を管理できるリーダークラスのITエンジニアを育てていかないと、IT企業の経営は成り立たなくなってきます。
コンピュータのスキルを身に付けようと思ってIT企業に入社しても、気が付けば人を管理するリーダーになってしまっていた。こういうキャリアの変化は、自然に起こります。リーダーはいいます。
「あともう少し、コンピュータの勉強をしたかった……」
自分のキャリアは自分で作る
今回の事例のようなことは、誰にでも起こり得ます。
自分の仕事や生活形態が、意識しないうちに変化してしまった。でもそれが面白くない。何のために仕事をしているのか、分からなくなってくる。
そんなとき、自分のパフォーマンスを落とさず、今後は希望の仕事を得られるようにするために、有効な方法があります。
これから説明する「時(とき)の分析3ステップ」です。ここでいう「時」とは、「現在」「過去」「未来」の3つのことです。
第1ステップは、いまの仕事を「現在」から眺めてみます。仕事を楽しくさせているものは何か。嫌いにさせているものは何か。「何」を分析して突き止めます。
第2ステップは、いまの仕事を「過去」にさかのぼって眺めてみます。過去のどんな出来事や手順が、いまの楽しい仕事や嫌いな仕事を呼び込んでいるのか。その「経緯」を分析して突き止めます。
第3ステップは、いまの仕事がこれからどう変化するかを「未来」から眺めてみます。過去に良い経緯があったら、それを「しっかり継続」させると、もっと良い仕事を呼び込みます。過去に悪い経緯があったら、それを「きっぱりやめる」と、これ以上悪い仕事を呼び込まなくなります。
このステップを頭に入れながら、次の行動を起こすようにすれば、これから良い仕事、希望の仕事が集まる傾向が高まります。
これを聞いてリーダーはいいました。「過去を分析して、間違いを繰り返さない。これが大切なのですね」
そのとおりです。早い段階で自分の仕事の履歴を分析しておくことが大切です。嫌な仕事を呼び込んだ事実を見つけ出して、今後はそれをできる限り避けながら進むようにします。そうすると徐々に良い方向に的が絞られてきて、面白い仕事に出合う確率がアップするでしょう。
自分のキャリアは、偶然に転がり込んでくるわけではありません。キャリアは自分で設計して、自分の力でゲットする。そう考えながら仕事をすると、悪い状況に流されず、うまくメンタルヘルスを維持しながら、前進できると思います。
自分の仕事の履歴を分析する。いますぐスタートしてください。
筆者紹介
樋口節夫
日本アイ・ビー・エムに22年間勤務し、その後独立。アーキテクトとしてメインフレームからオープンシステムまで幅広いシステム構築に携わった経験から、コンピュータシステムの良しあしはそれを使う人間の良しあしによって決まることを発見。人間のパフォーマンスアップツールとしてITコーチング手法を開発し、人材開発およびテクニカルコンサルタントとして活躍中。『ITコーチング入門―SE・ITエンジニアのための問題解決とスキルアップ』(技術評論社刊)をはじめ、技術系や人材系の著書多数。主宰する樋口研究室では、ITエンジニアが危機から身を守るための練習会(ワークショップ)も実施している。
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