5年後のキャリアビジョン、10年後のライフビジョン:キャリアデザインを考える(4)
絶えず納期に追われている忙しいITエンジニアにとって、立ち止まって自分の将来を考える時間や余裕はあまりないかもしれない。だが、将来への見通しは、自分の願望を叶える手助けや、将来への不安をふっしょくするお守りになる。本連載では、キャリアデザインの方法をお伝えする。ITエンジニアが幸せに働き続けるための手引きとしてご利用いただければと思う。
あなたは、5年後、10年後のキャリアを想像できるだろうか。いまの仕事をがむしゃらにこなしている人にとっては、それどころではないかもしれない。だが、少し立ち止まって考えていただきたい。いまの仕事を一生懸命頑張ることが、将来の自分にどう影響するのか。一方、なりたい姿を漠然とでも思い描いている人は、ビジョンをより明確化することが大切だ。それによって、やるべきことが分かり、チャンスに出合える可能性が高くなる。きっと、無意識や偶然の出来事に左右されることも減るだろう。今回はキャリアデザインで最も重要な、キャリアビジョンについて説明する。
キャリアビジョンの立て方について知りたい方は、以下の記事も参考になります
・キャリアとキャリアビジョンを考える
・キャリアビジョンを実現させる4つの方法
ビジョンは魅力的であるべし
キャリアデザインとは「ビジョンを明確にし、課題を認識したうえでキャリアプランを策定する一連のプロセス」のことだという(元@ITジョブエージェントの辻俊彦氏)。ここでいう、ビジョンとプランはどう違うのか。辻氏は「キャリアデザインを作りませんか?」で、ビジョンとプランの違いを次のように説明する。
プランは現実的なニュアンスが強い、(細かく区切られた)目標ともいいかえられる。この目標とは「期限と到達点が明示されているもの」(碓井慎一氏、小林剛氏「キャリアデザイン発想法」)のこと。いつまでに、何をするかを客観的に評価できるものを指す。一方、ビジョンは願望色が強く、「『達成する』というよりも『実現へ向けて自分を動機付けていく』媒介である」(同)。ビジョンは思い浮かべるだけで気分が高まるような魅力的なものであることが望ましい。大げさにいえば、キャリアビジョンとは、これから先、5年、10年と自分を支える続ける言葉である。何が起こってもぶれない“芯”のようなものであってほしい。そのためには、自分の心に耳を傾け、正直な気持ちで考えることが大切だ。
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キャリアビジョンは「Backcast」で
「自分戦略を考えるヒント」の筆者、堀内浩二氏によると、キャリアビジョンの描き方には、大きく2つのあるのだという。「Forecast(フォーキャスト)」と「Backcast(バックキャスト)」だ。
Forecastは、現在を起点にして未来のある地点の状況を予測するもの。「積み上げ発想」ともいわれる。このアプローチの難点は、「将来あり得る姿」しか描けないこと。3年後の目標を達成するために、1年→2年→3年と順番に考えていくため、3年後が現在の延長線なり、常識にとらわれやすい。
Backcastでは、まず、「将来ありたい姿」を描く。そして、未来のある地点における目標を実現するために、現時点で何をすべきか行動計画を立てるものだ。3年後のビジョンを実現するために、3年→2年→1年と時間をさかのぼりながら通過地点を設定していく。「さかのぼり発想」とも呼ばれる。ビジョンを達成するためにどうするかを考えるので、現状に縛られることなく、大胆な施策を打ち出せる。大きなことを成し遂げる際に必要な考え方であるとされている。自分の限界を突破したいなら、ぜひBackcast方式でキャリアビジョンを考えていただきたい。
5年度、10年後(ライフプランとキャリアプラン)の立て方
一般的にキャリアビジョンは3年、5年、10年区切りで立てられることが多い。自分がイメージしやすい期間で立てるのがよいだろう。ここでは、5年、10年スパンで考える。「10年では遠い将来の到達点を、その中間の5年では通過点を確認でき、これから先、人生の大きな構造が見えてくる」(キャリアデザイン発想法)。
●10年後
キャリアデザイン発想法には、「仕事関係のビジョン(キャリアビジョン)とそれ以外の人生や生活全般にかかわるビジョン(ライフビジョン)を描き分けるとよい」とある。こうすることで、10年後にどんな生活基盤を形成し、そのうえでどんな職業人生を構築したいのかという全体像をつかむことができるという。
ライフビジョンでは、「誰とどんな生活空間で過ごし、どんな生活様式を実現していたいのか、生活水準はどれくらいか、平日・週末はどのように過ごしていたいのか、地域社会とはどんなかかわりを持ちたいのか、生活信条は何か、といった人生や生活全般にかかわる願望」を描く(同)。
キャリアビジョンでは、「どんな会社・組織でどんな仕事をし、どんな役割を果たしていたいのか、どんな人間関係の中で仕事をしたいのか、といった仕事や職業人生にかかわる願望」を描く(同)。
●5年後
5年後のキャリアビジョンは、10年後より具体的である必要がある。一方、ライフビジョンについては10年後で説明した方法と同じように考えてみよう。
より具体的なキャリアビジョンとは「詳細な仕事の内容、職種、自分のポスト(地位や肩書き)、所属組織、具体的な人脈、到達していたい専門性のレベル、保有していたい資格、収入レベル」のこと。職種については以下を参考にしていただきたい
キャリアデザイン発想法では、「5年後は予測しやすいため、現在の延長になりやすい」とある。だが、先にも述べたように、ビジョンは願望である。自分の気持ちに正直になり、できるだけ本音で考えよう。
正直、5年先を読むことは難しい
以上、キャリアビジョンの考え方・立て方について説明してきた。当然ながら、必ずしも計画どおりにキャリア形成ができるわけではない。成功者が語るサクセスストーリーは、成功後に語られる、後付け理論であることが多い。また、辻氏が以下で述べるように、不安定な世の中で「5年先を読むことは難しい」。
それでもキャリアデザインをする意義とは。冒頭でも述べたが、キャリアビジョンを持つことで、自分にとって必要なこと、不要なことが見え、より多くのチャンスをつかむことができる。めまぐるしく変わる市場や洪水のような情報に振り回されないためには、明確なビジョンが必要だ。
もし、キャリアデザインが計画どおりにいかないときは、ビジョンを変える前に、まずはプランを環境変化に合わせて変えてみてはいかがだろうか。辻氏も、キャリアプランは変わるものであり、短期間の目標設定が重要と述べている。キャリアビジョンの詳しい実現方法については次回解説する。
参考資料
▼「キャリアデザイン」(社団法人 日本経営協会)
▼「キャリアデザイン発想法(生き方ルールブック)」(PROSEEK)
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