絶えず納期に追われている忙しいITエンジニアにとって、立ち止まって自分の将来を考える時間や余裕はあまりないかもしれない。だが、将来の見通しが立っていると、目標に向けて努力する手助けや、将来への不安を払拭するお守りにもなる。本連載では、個人が自分のキャリアを構築する方法をお届けする。ITエンジニアが幸せに働き続けるための手引きとなればと思う。
第1回の「幸せの原点『自分とは何者なのか』」では“自己理解”についてふれた。この自己理解というプロセスをとおして働く目的が明確になった個人は、どのような能力を得る必要があるのか。第2回では、雇用される能力“エンプロイアビリティ”を考える。
エンプロイアビリティ(employability)は、employ(雇用する)とability(能力)を組み合わせた言葉で、個人の“雇用され得る能力”を意味する。この言葉について@IT自分戦略研究所では、過去に次のような解釈をしてきた。
終身雇用制度は崩壊し、年功序列や長期雇用も企業に期待できない時代。企業がかつて保障してくれていたこれらの安定が得られない以上、スキルアップやキャリア構築も企業に依存できない。被雇用者自らが主体的に自身のキャリアを形成していかなければならない。こうした背景のもと、日本において1990年代後半からエンプロイアビリティという考え方が注目されるようになった。(当時の日本経営者団体連盟は1999年に「従業員自律・企業支援型」という提言を行っている)。
市場環境が厳しくなるにつれて、ビジネスパーソン1人1人が自分のエンプロイアビリティ向上を意識するのは自然な流れだろう。だが、このことは企業にとって脅威ともなる。(個人のエンプロイアビリティが向上することで)優秀な人材の流出につながる可能性が高くなるからだ。しかし、労働市場全体の質を高め、人材の適切な流動化を促すために、企業側も従業員のエンプロイアビリティ強化に取り組む必要がある。このことは企業の社会的責任であるとみなされつつある。(参考:ナビゲート ビジネス基本用語集)
人材の流出や移動というニュアンスから、エンプロイアビリティは「転職能力」と訳されることがある(「仕事を通して自己価値を生み出そう」)。ただし、転職するための能力だけではなく、いま働いている企業において継続的に雇用され続ける能力という意味も含む。いち企業の枠を越えたビジネスパーソンとしての市場価値、それがエンプロイアビリティである。(参考:ナビゲート ビジネス基本用語集)
社団法人 日本経営協会 専任講師 倉持和子氏の言葉を借りれば、エンプロイアビリティに必要な要素には次の3つが挙げられるだろう(参考:キャリアデザイン)。
(1) 専門能力(豊富な知識、経験、創造性、論理性、問題解決スキルなど)
(2) コミュニケーション能力(プレゼンテーションスキル、傾聴スキル、概念化スキルなど)
(3) 対人関係構築能力(多様性に対する適応性、動機付けスキル、協調性など)
(1)で挙げた専門能力について、特定非営利活動法人 キャリアカウンセリング協会の関口みゆき氏はこう説明している。
(2)のコミュニケーション能力は、エンプロイアビリティの基本である。相手の話を聞き、相手の立場に立って考えるスキル、自分のアイデアやビジョンを他人に伝えるスキルはエンプロイアビリティとして評価される。(3)も、仕事を円滑に進めていくために必要とされている。
また、厚生労働省が平成13年に発表している資料「エンプロイアビリティの判断基準等に関する調査研究報告書」では、エンプロイアビリティの能力を以下のように定義している。
A 職務遂行に必要となる特定の知識・技能などの顕在的なもの
B 協調性、積極的等、職務遂行に当たり、各個人が保持している思考特性や行動特性にかかわるもの
C 動機、人柄、性格、信念、価値観などの潜在的な個人的属性に関するもの
厚生労働省によると、「Cは個人的かつ潜在的なものであり、これを具体的・客観的に評価することは困難と考えられるため、エンプロイアビリティの評価基準として盛り込むことは適切ではなく、A、Bを対象に評価基準をつくることが適当である」としている。
上記に挙げた2つの“エンプロイアビリティの3要素”どちらかに、いまの自分を当てはめてみよう。あなたの能力が客観的に見えてくるはずだ。
エンプロイアビリティの要素の定義はさまざまだが、エンプロイアビリティの向上で重要なのは、所属した組織や部署、就業期間ではなく、そこで積んだ経験や挑んだ課題の内容、上げた成果だ(倉持氏)。エンプロイアビリティを強化するためには、漫然と仕事をするのではなく、常に目標や経験を意識しながらスキルを磨いていくのが良い。
第1回の自己理解から第2回のエンプロイアビリティまで“自分”に重きを置いてきたが、次回はそこから一歩離れ、自分を取り巻く環境がキャリアデザインにどう影響していくかを考えていきたい。
参考資料
▼「キャリアデザイン」(社団法人 日本経営協会)
▼「キャリアデザイン発想法(生き方ルールブック)」(PROSEEK)
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