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秋の情報処理技術者試験を振り返る特集:IT資格動向ウォッチ(3)(3/3 ページ)

今年、制度改訂後初の情報処理技術者試験が行われた。前編では、秋試験(高度試験、ネットワークスペシャリスト(NW)、ITストラテジスト(ST)、システムアーキテクト(SA)、ITサービスマネージャ(SM))を振り返る。

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ITストラテジスト(ST)

 旧試験のシステムアナリストと上級システムアドミニストレータ、両者に対応した試験となっていました。また組込みシステム系に対応する問題も用意されています。

(午前II試験)
 出題範囲はストラテジ系のすべてです。上級システムアドミニストレータよりも出題範囲が狭くなっていますので、対策はし易くなったといえるでしょう。重点5分野のうち、3分野(経営戦略マネジメント、システム戦略、システム企画)で18問(72%)と出題の大半を占めており、特に経営戦略マネジメントは10問出題されています。出題内容では、BPO、BI(Business Intelligence)、マネジメントバイアウト(MBO)、マーケティング要素4Pと4C、KPI、KGI、ファイブフォース分析、SECIモデル、死の谷、ロングテールなど、新規テーマの出題が目立ちました。旧システムアナリスト、過去問題の再出題が11問ありましたが、これまで出題されていないテーマは、受験者の知識取得率が低いでしょうから、新規出題の多い今回の試験は難易度が高かったと思われます。

(午後I試験)
 出題テーマは、4問中3問が業務改革・業務改善とそれを推進する新システム、1問が組込みシステムの企画でした。ITストラテジストでは、システムアナリスト試験と比較して、問題に取り上げる題材・システムについて規模や複雑性を小さくすることが公表されていましたが、今回は、「既に方向性が定まった業務改革に関連して、情報システムの機能要件を検討する」という趣旨で出題されています。また問1〜3では、問題文のボリュームが従来の1.5倍程度に増えましたが、問題中に設問のヒントが十分に含まれており、問題文の記述を基に解答が考えられるよう構成されています。題材となる業務知識がなくても解答に支障はなかったでしょう。難易度は標準的と思われます。一方、問4の組込みシステムの企画問題は、今回最も難易度が高かったといえます。自社の技術内容を基に他社との差別化戦略を検討するのですが、自社の優位性か他者の弱みかどちらの観点で解答すべきか決めかねる問題でした。

 今回のような「業務改革」事例は、戦略の知識を問う問題が作りやすく、今後もさまざまな業種の個別システム化構想・計画がテーマの中心になると予想されます。

(午後II試験)
 出題テーマは、「個別情報システム化構想」(問1、システムアナリスト向け)、「情報システム活用の促進策立案」(問2、上級シスアド向け)、「組込み製品の企画変更」(問3、組込みシステム系)と対象ごとに1問ずつ出題されています。組込みシステム系問題は、制約条件・論点が多く、論述が難しかったでしょう。ほかの2問は、オーソドックスな内容で比較的論述がしやすかったと思われます。

 旧試験では、設問ウで設問イに対する評価を論述させたのに対して、今回試験からは、設問イとウの論点に関連はあっても、異なる論点を論じるように求められています。制約字数が減って時間に余裕があるように見えますが、論点が増えたことを考えれば特に難易度が下がったとはいえません。

 今後は、今回と同じく「事業戦略、情報戦略、全体システム化計画などの立案」「ユーザー企業側の視点からの情報システムへの投資効果・データ活用」「組込みシステム」を1問ずつ出題するものと予想されます。

システムアーキテクト(SA)

 今回試験では、基幹系業務システムを題材に、従来型の構造化・データ中心アプローチを適用するなど、過去の題材から大きな変化はなく、本来のシステムアーキテクトというよりはシステムエンジニアという内容でした。また、午後?・午後II試験ともに、組込み系システムの開発エンジニアを対象とする問題が出題されています。

(午前II試験)
 出題分野は、システム開発技術9問(36%)、システム企画8問(32%)重点分野の2分野の専門知識が中心です。難易度の高い問題が5問ありますが、全体として特に難易度が高いということはないでしょう。重点2分野を中心に対策をしていれば、十分に合格点をクリアできたでしょう。

(午後I試験)
 今回は、ビジネス系システム設計が2問(「販売管理システム」「物流システムの再構築」)ビジネス系開発・組込みシステム系開発の両エンジニアが対応できる問題が1問(「システム開発のテスト計画」)、組込み系システム設計が1問(『新入退室管理システムの開発』)が出題されました。問題の分量や詳細度は、旧アプリケーションエンジニアの選択問題(問3、4)と同程度であり、難易度にも変化はありません。ビジネス系システム設計の問題では、従来型システムを対象とした機能要件の設計が中心であり、非機能要件のシステムアーキテクチャは問われていません。しかしながら、次回以降は後者の出題が予想されます。性能の方式設計、拡張性の方式設計、信頼性の方式設計、セキュリティの方式設計、オブジェクト指向設計、UMLなどが重要なテーマとなるでしょう。

(午後II試験)
 午後II試験の問題テーマも、非機能要件のアーキテクチャではなく機能要件を中心にしたシステム開発でした。ビジネス系システム開発は2問、「要件定義」「システムの段階移行」とアプリケーションエンジニアでは王道であったオーソドックスな問題です。組込み系システム開発は1問、「組込みシステムにおける適切な外部調達」の問題です。ただし、開発対象の技術的内容を問うのではなく、組込みシステム系のプロジェクトマネジメントを問う問題でした。3問とも多くの受験者が論述するための経験材料を持っていると思われる題材で、また旧試験よりも論述の量が減っていますので、論文の完成が容易になったと思われます。難易度は低かったといえます。

 次回以降は、午後?試験と同様に非機能要件のシステムアーキテクチャが取り上げられる可能性が高いですから、要注意です。

ITサービスマネージャ(SM)

 ITサービスマネージャは、旧テクニカルエンジニア(システム管理)の後継試験ですが、試験の趣旨が「情報システムの管理」から「ITサービスの管理」へと変わったことが特徴です。出題範囲、シラバスに示されていたとおり、「ITILに基づくサービスマネジメント」を中心に「従来からのシステム運用管理」の観点も含めた出題内容でした。

(午前II試験)
 出題分野のうち、サービスマネジメント16問(64%)、プロジェクトマネジメント2問(8%)が重点分野です。サービスマネジメントは、16問中8問がITILに関連した内容です。今後はITIL関連の知識に関する出題割合、問題難易度が高まっていく可能性があり、ITILの知識がないと午前II試験の突破は難しくなっていくものと思われます。

(午後I試験)
 サービスマネジメントが2問、従来型のシステム運用管理(セキュリティ管理)が2問出題されました。内容は、サービス・システムの運用のためのマネジメント、それに必要なシステム運用技術が主題となります。旧試験と比較すると、サービスマネジメントの視点が加わった点(ITILの方法論に基づいたマネジメント)、マネジメント面が重視された点、1問あたりの問題ボリュームが増えた点が異なります。問題ボリューム、要求される知識水準から見て難易度は高まったといえるでしょう。

 今後は、ITILに関連した出題が多くなることが見込まれます。ただし、SM試験は、ITILそのものの試験ではありませんので、今回のようにITILと従来型のシステム運用管理の要素を交えた問題となることが予想されます。ITILの各プロセスの目的や手順、キーワード、KPI(重要業績評価指標)の知識を押さえるとともに、システム運用管理の知識(要員管理、セキュリティ管理、障害対応、バックアップ、システム多重化、システム移行とリリース、コスト管理、資源管理など)の学習も必要となるでしょう。

(午後II試験)
 3問ともすべて「ITILに基づくサービスマネジメント」の問題でした(テーマは、変更管理、サービス改善、問題管理)。「ITサービスマネジメントの導入は既に済んでいて、日常のサービスマネジメントの質をより高めるための工夫を施す」場面が扱われるなど、初回から高度な内容です。問題文に運用管理現場の具体例を記述するなど、サービスマネジメント未経験者も論述できるように配慮されていますが、かなり難易度は高かったでしょう。ITILの知識が必要なのは当然です。

 今後は、サービスマネジメントだけでなく、障害対応など従来のシステム運用管理テーマ、サービスマネジメントと融合させた問題も考えられます。SM受験者には、現場の運用管理に必要な知識、ITILの知識に加えて、ITILに基づくサービスマネジメントに立った意識改革が求められるでしょう。

著者紹介

加藤浩

TAC IT講座企画部所属。大学教員、TAC 情報処理講座専任講師を経て、 現在は情報処理試験対策を中心とした研修・教材の企画開発に従事



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