2010年度注目のスキルは仮想化とITIL特集:IT資格動向ウォッチ(1)

2009年は資格市場でさまざまな動きのあった年だった。そんな中、いまITエンジニアが学ぶべきスキル、今後身に付けておいた方がいいスキルとは何か。日々ITエンジニアのトレーニングを行っている教育ベンダ3社に、IT資格を含めた2009〜2010年度のスキルの動向を聞いた。

» 2009年11月24日 00時00分 公開
[荒井亜子@IT自分戦略研究所]

 2009年は資格市場でさまざまな動きのあった年だった。新しい情報処理技術者試験の開始、アップル技術者認定資格試験の登場、LPIC Leve1/Level2の新試験「Version 3.0」の開始、オラクルマスター取得者20万人の達成などだ。オラクルやマイクロソフトなどベンダ製品資格取得者数は、昨年に比べ増加傾向にあった(参考:「オラクル「ORACLE MASTER取得者の活躍をもっと支援したい」)。

 資格市場の盛り上がりは、翻せば、ITエンジニア1人1人のスキルアップ意欲の高まりにほかならない。2009年、リストラや新規開発案件の減少といった経済不況に不安を抱いたITエンジニアの中には、自身の価値を証明すべく資格取得に励んだ人が多かったといえる。

 では、景気回復が囁(ささや)かれている2010年はどうか。クラウドに代表されるテクノロジ基盤の変化によって、ITエンジニア(特に、インフラエンジニア)に求められるスキルは少なからず変化するだろう。

 技術・経済動向が変化する中、ITエンジニアがいま学ぶべきスキル、今後身に付けておくべきスキルとは何か。日々ITエンジニアのトレーニングを行っている教育ベンダ3社(グローバル ナレッジ ネットワーク、CTCテクノロジー、富士通ラーニングメディア:50音順)に、IT資格を含めた2009〜2010年度のスキル動向を聞いた。

2009年度最も人気があったスキルは仮想化

 2009〜2010年度で最も注目のスキルは仮想化技術だ。これは教育ベンダ3社に共通していた意見である。運用コスト削減のためのサーバ統合やクラウドの活用に向け普及しつつある仮想化。いまインフラエンジニアに必須のスキルとして、最も注目度が高い。

 仮想化は、今年に入ってようやく認定資格プログラムやトレーニングがそろってきた。ヴイエムウェアの「VCP」(VMware Certified Professional)、マイクロソフトの「Hyper-V仮想化検定」「MCP」(Microsoft Certification Program)、シトリックスの「CCEA」(Citrix XenServerのCitrix Certified Enterprise Administrator)だ。

CTCテクノロジー エデュケーションサービス部 プランニンググループ グループリーダー 増田裕介氏 CTCテクノロジー エデュケーションサービス部 プランニンググループ グループリーダー 増田裕介氏

 仮想化資格の中で最も人気がある資格は、3社中2社がヴイエムウェアのVCPと回答。ヴイエムウェアは早くから仮想化市場に乗り出し、サーバ導入実績が多くあるためだ。CTCテクノロジー エデュケーションサービス部 プランニンググループ グループリーダー 増田裕介氏は、「VCP取得者数はCTCグループ内だけでも去年で100人、今年は取得中も含め現在50人と、とても多い」と述べる。受験者には、システム構築をするITエンジニアのほかに、ユーザー企業の情報システム部門に属するITエンジニア(情シスエンジニア)も多く受講しているという。


CTCテクノロジー エデュケーションサービス部 プランニンググループ 萩原英二氏 CTCテクノロジー エデュケーションサービス部 プランニンググループ 萩原英二氏

 VCPの次に人気だったのは、Hyper-VとシトリックスのCCEAがほぼ互角。CTCテクノロジーの増田氏は、「受講生の中に、“ヴイエムウェアは分かるので、今度はシトリックスが気になる。製品比較をしたい”という意見が多く見られたことから、CCEAが盛り上がりを見せるのは来年くらいでは」と予測する。ITエンジニアが仮想化技術を学ぶ意義についてCTCテクノロジー エデュケーションサービス部 プランニンググループ 萩原英二氏は「仮想化技術を理解するには、OSやネットワーク、ストレージなどの前提知識を幅広く必要とする。仮想化技術はインフラエンジニアの技術力を測る意味で価値のあるスキル」と述べる。ちなみに、仮想化資格については、第2回「インフラエンジニア注目の仮想化資格カタログ」で詳しく解説するのでお楽しみに。

運用系コースが堅調。ITILは不況になってから人気?

 もう1つ3社に共通していたのは、運用系コースの需要の高さだ。富士通ラーニングメディアでは4〜9月の上半期 受講者数ランキング 10位に「基礎から学ぶシステム運用管理・実践トレーニング〜障害管理、変更管理、SLAなど〜」が入っている。通常、上半期ランキングでは、新人向けコースが上位にくる。当然ながら同コースを新人が受講するケースはレアである。

 ITサービスマネジメントの認定資格であるITIL(Information Technology Infrastructure Library)は、「不況になってから受講者が増えた珍しいケース」(CTCテクノロジー 増田氏)だという。不況で新規開発案件が減ったため、運用やサポートもできるように自分で勉強をしておこうという意識が働いた可能性はある。グローバル ナレッジ ネットワーク ソリューション本部 副本部長 笹森建治氏は、「ITILはVertion 3が登場し、IT企画・IT戦略立案の分野まで範囲が広がったため、ユーザー企業の情シスエンジニアにも広がったようだ」と解説する。

ユーザー企業のエンジニアはスキルアップに必死

 気になるのは、情シスエンジニア向けコースで受講者数が増えている傾向だ。

富士通ラーニングメディア コンテンツ部 プロジェクト部長 古橋誠氏 富士通ラーニングメディア コンテンツ部 プロジェクト部長 古橋誠氏

 富士通ラーニングメディアではここ1〜2年、「情報化投資マネジメントと投資対効果評価」「〜経営の期待に応える〜データ戦略立案」「情報システム部門のためのユーザー要求開発基礎」といった、経営戦略や事業戦略を意識してシステムの要求定義を行う情シスエンジニア向けコースの需要が高いという。この背景について富士通ラーニングメディア コンテンツ部 プロジェクト部長 古橋誠氏は、「1つのシステムをさまざまなベンダ製品を組み合わせて作ることが当たり前になっている。情報システム部門のITエンジニアは、SIベンダに丸投げではなく、要求→要件→仕様→具体的な実現方式までを自らトレースできる必要がある」と述べる。要求定義に対する需要が高い理由にはもう1つ、ビジネス戦略とITがより密接に紐付いている背景がある。富士通ラーニングメディアでマーケティングを行う眞子千枝氏は「いままでは業務を楽にするためのIT活用だったのが、ビジネス戦略を実現するためのIT活用に変わってきている。そのために経営戦略や事業戦略をきちんと反映した要求定義ができることは、情シスエンジニアにとって重要なスキルになってきた」と説明する。

 グローバル ナレッジ ネットワークの笹森氏は、要求定義や要件定義に限らず、情シスエンジニアの技術系コース受講者数が増えていると語る。理由は、不況によるシステムの内製化だ。これまでSIに依頼していた案件をユーザー企業が内製しなければならないケースが増えている。しかし、情シスエンジニアにはそうした経験がないため、技術の空洞化がおきており、内製しようにも技術力や製品評価のノウハウがない。そのため、ユーザー企業側に技術系の講習会需要が生まれているという理屈だ。具体的には、「Javaやソフトウェア開発、上流の要件定義に関するコース」(グローバル ナレッジ ネットワーク 笹森氏)が挙げられる。

SIエンジニアは基盤系の技術を身に付けよう

グローバル ナレッジ ネットワーク ソリューション本部 副本部長 笹森建治 グローバル ナレッジ ネットワーク ソリューション本部 副本部長 笹森建治

 ユーザー企業に技術力や要件定義のスキルが身に付くと、ユーザー(発注側)とSI(受注側)の関係は変わってくると予想できる。

 システムを提供するSI側に求められるスキルはどう変わるのか。グローバル ナレッジ ネットワークの笹森氏は、これからのSIエンジニアにますます重要なのが「基盤系技術のスキル」だと述べる。クラウド上に展開するサービスと、自社で持つサービスが複雑に絡むとき、システムをどうインテグレートするかといった課題に取り組むには、システムのアーキテクチャ全体が見渡せる必要がある。

 基盤系のスキルでは、幸い3社とも、ネットワークやOSのコースの人気は例年通り堅調だという。CTCテクノロジー 萩原氏は、「ネットワーク(特にCCNAとCCNP)は最も人気のあるコース」と説明する。富士通ラーニングメディアでは上半期ランキングの1位が「ネットワークの基礎」、2位が「データベースの基礎」であった。

グローバル ナレッジ ネットワーク プロダクトマネージャ兼講師 田中亮氏 グローバル ナレッジ ネットワーク プロダクトマネージャ兼講師 田中亮氏

 問題は、コンピュータの仕組みはよく分からないが、何となくネットワークやサーバ製品の操作が上手な人だ。「毎年、新人研修の振り返りをすると『コンピュータ入門』に関する分野の弱さが見えてくる」(グローバル ナレッジ ネットワーク 田中亮氏)。「SIエンジニアに多いのは、土台となる技術力がなく、実務で必要なスキルだけを自社流で身に付けて成長してしまうパターン」(グローバル ナレッジ ネットワーク 笹森氏)。

 開発環境が進化すると、「コンピュータがなぜ動いているか」といったところが見えなくてもものを作れてしまう。だが、土台がスカスカな状態でいくらスキルを身に付けても途中で倒壊する。つまり、後々苦労する。 「アルゴリズム、コンピュータのCPUやメモリの仕組みといった基礎的なスキルを身に付け、そのうえでネットワークやOSの勉強を積み重ねていく必要がある」(グローバル ナレッジ ネットワーク 田中氏)。

 2010年は、仮想化、運用、コンピュータの基礎といった基盤系技術に注目が集まりそうだ。


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