今年、制度改訂後初の情報処理技術者試験が行われた。後編では、春秋共通の情報処理(FE)、応用情報(AP)、春期高度試験(セキュリティスペシャリスト(SC)、データベーススペシャリスト(DB)、プロジェクトマネージャ(PM)、 システム監査技術者(AU))を振り返り、来年に向けての傾向と対策を考える。
後編では、来年春期試験で実施される区分について、出題傾向や難易度などを見ることにします。なお、@IT自分戦略研究所の読者層を考慮して、ITパスポート(IP)とエンベデッドシステムスペシャリスト(ES)の2区分は今回の対象から外していますので、ご了承ください。
新制度に移行して今回が2回目の試験です。マネジメント・ストラテジ系分野の追加、プログラミング言語に表計算が加わるなど、ITユーザー系の方が受け易くなったのは確かです。採点方式がIRT(項目応答理論)から素点方式になった影響も気になります。果たして結果はどうでしょうか。
秋試験の結果は、11月16日に公表されています、合格率35.4%(前回27.4%)と高い結果でしたが、午後試験での採点考慮(問8のアルゴリズムで小問2問が全員正解扱い)とされた影響が大きいでしょう。これがなければ、20%台後半であったと思われます。いずれにしても、旧試験より5%以上合格率が高くなっています。得点分布にも変化が見られ、午前・午後試験の突破率(全受験者に占める合格基準到達者の比率)を見ると、過去5回の旧試験では、午前平均29.8%、午後平均40.7%と午後の突破率が高かったのに対して、新試験では、午前52%(前回50.7%)、午後45.6%(前回34.4%)と逆転し、受験者の半分以上が午前試験を突破したことになります。
(午前試験)
出題分野 | 出題比率(%) | 出題数 |
基礎理論 | 10 | 8 |
コンピュータシステム | 21.3 | 17 |
技術要素 | 23.8 | 19 |
開発技術 | 7.5 | 6 |
プロジェクトマネジメント | 5.0 | 4 |
サービスマネジメント | 7.5 | 6 |
システム戦略 | 10 | 8 |
経営戦略 | 7.5 | 6 |
企業と法務 | 7.5 | 6 |
計 | 100 | 80 |
出題範囲は、IPAが公表する出題分野すべてを網羅していました。分野ごとの出題構成比は、前回と同じく、テクノロジ:マネジメント:ストラテジで50:10:20でした。マネジメント・ストラテジが増えた分だけ、テクノロジの出題は減少しました(表1)。
新規テーマとしては、テクノロジ系:シーケンス制御、Ajax、SoC、アンチエイリアシング、ソフトウェア方式設計、マネジメント・ストラテジ系:SOA、ASP、共通フレーム、システム管理基準などがあり、最新技術と新分野の取り込みが意識されています。そのほか、用語形式・正誤判断形式など知識を問う問題が旧試験より増えたようですが、高度に専門的な知識を問う問題は少なく、標準レベルが中心でした。
(午後試験)
表2に示すとおり、問1〜7(共通知識分野)から5問選択。問8(アルゴリズム)必須。問9〜13(ソフトウェア開発)から1問選択です。旧試験と比較して、プログラム言語前半問題、システム設計問題の配点30%が、選択問題(問1〜7)に割り当てられています。
FE | 問1〜7 | 問8 | 問9〜13 |
ハードウェア | 4問出題 | ||
ソフトウェア | |||
データベース | |||
ネットワーク | |||
セキュリティ | |||
データ構造及びアルゴリズム | 1問出題 | ||
ソフトウェア設計 | 1問出題 | ||
ソフトウェア開発(プログラム言語) | 5問出題※ | ||
プロジェクトマネジメント | 1問出題 | ||
ITサービスマネジメント | |||
システム戦略 | 1問出題 | ||
経営・関連法規 | |||
解答数 | 5問選択 | 1問必須 | 1問選択 |
・選択問題(問1〜7) 6問選択:配点60点
今回出題された問題は、テクノロジ系(ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、情報セキュリティ、ソフトウェア設計)、マネジメント系(ITサービスマネジメント)、ストラテジ系(システム戦略)です。テクノロジ系は、おおむねオーソドックスな内容でしたが、問5(ソフトウェア設計)にUML(クラス図、シーケンス図)が初めて出題されています。マネジメント系は、 ITサービスマネジメント(前回プロジェクトマネジメント)。ストラテジ系は、計算問題が出題されています。問題ごとに難易度の差はあまりなく、マネジメント(問6)がやや易しい以外は、標準的な難易度でしょう。
・必須問題(問8) 1問必須:配点20点
今回のアルゴリズムは、ニュートン法(数値計算アルゴリズム)。難易度は高いです。前回のグラフィックス処理、前々回のグラフ理論といい、基本データ構造の操作・基本アルゴリズムだけでなく、さまざまなアルゴリズムに対応できるかが問われたようです。
今回試験では、問題文の誤植により小問5問中2問について全員正解の措置が取られました。全受験者が、最高で8点の得点アップ(予想配点)したと見込んでいます。
・ソフトウェア開発(問9〜13) 1問選択:配点20点
21年春試験よりも、言語間の格差は小さいようです。表計算は、前回より難易度は上がりました。長文問題(7ページ)、計算式・関数を複雑に使用するなどで、時間的な難易度を高めることでプログラム言語との難易度差を小さくする意図が伺えます。今回が標準レベルではないでしょうか。そのほか、Javaがやや易しかった以外は、各言語とも標準的な難易度でしょう。出題傾向などは旧試験と変わりはありません。
【対策の指針】
(午前試験)
合格基準は配点の60%ですが、午後選択問題の対策を考慮すれば、ギリギリ合格の知識レベルでは不足するでしょう。75〜80%以上を目指したいところです。
出題分野・知識項目の増加に伴い、従来の定番テーマであっても出題されないものもでてきます。定番テーマだけでなく、新分野・新規テーマまで幅広く知識を習得することが必要です。新規分野については、「試験要綱」や「シラバス」に掲載されている用語をチェックして、新たな知識の目安とすればよいでしょう。テクノロジ系の定番テーマについては、FEやSWの過去問題の演習は有効です。マネジメント・ストラテジ系は、基本情報技術者の過去問は少ないですから、初級シスアドや高度区分の過去問題を利用するのも有効です。過去問演習は、その問題が解けるようになるだけではなく、さまざまな問題を解くことで出題傾向を把握し、問題パターンが変えられても対応できるだけの確実な理解と応用力を養う意図があります。例えば、計算問題は公式を覚えるだけではなく、事例問題の中で出題されるさまざまな計算パターンに慣れておくなどです。
(午後試験)
選択問題(問1〜7)は、5問で午後配点の60%を占めます。アルゴリズム(問8)は難易度が高い例が多いので、選択問題で得点を稼いでおきたいところです。午前対策を通じて確実な知識を身に付けた得意分野を選択しましょう。今回出題されなかった分野は、今後出題の可能性があります。最小限の5分野だけではなく、もう1分野でも余計に対策していれば本番で柔軟な対応ができるでしょう。問題演習を通じて解法パターンや知識の適用を学んでください。
一方、アルゴリズム強化も午後対策の重要課題です。擬似言語・プログラムの読解には、変数の初期化、ループの判定条件、配列操作、文字列操作など基本アルゴリズム・データの操作の理解が必要です。「アルゴリズム」の基礎はしっかりと身につけましょう。その上で、プログラム言語の文法をマスターしたら、擬似言語、プログラム言語ともに演習問題のプログラムをトレースする訓練を行います。アルゴリズムの読解力を高めるには時間がかかりますから、なるべく早く学習を始めて、時間を掛けてください。表計算は、プログラム言語よりも覚える事項は少ないですが、長文問題で複雑な条件を読み取る必要のある設問が予想されます。演習を数多くこなして、問題文の読解、計算式の作成、関数の使用法、セル参照の応用などに慣れておきましょう。
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