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iPhone+GPS+HTML5が支えたトライアスロン大会「宮古島トライアスロン大会」配送最適化 実証実験レポート(2/2 ページ)

スマートフォンに搭載するGPSとHTML5を積極的に活用して、全日本トライアスロン宮古島大会における競技中ロジスティクスの最適化を狙う実証実験に携わる機会に恵まれました。その模様と裏舞台について報告します。

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緩やかなシステム化でノウハウを生かした運用

 トライアスロン大会当日の運用に用いた機材は以下の通りです。これらを配送拠点となる配送センタに持ち込み、そこに詰めている配送責任者や物品配送チームと常時協力できる態勢を組みました。

機材 台数
ダッシュボード用PC(Mac) 1台
プロジェクタコンソール用PC(Mac) 1台
システム管理用PC(Windows) 1台
車載用iPhone(4S/5) 30台(各15台ずつ)
テザリング用iPhone 5 2台

 現場に有線インターネット接続を準備できないことから、運用のためのコネクティビティは、2台のiPhone 5によるテザリングで確保しました。配送センタが設置された建物内はLTEの電波強度が十分でなく、あいにく3Gでの運用になりましたが、特に問題は生じていません。


写真4 準備が整ったダッシュボード用マシンと車載を待つiPhone

 30台用意した端末のうち、配送車の台数である22台を車載し、残りの8台は予備として待機させます。どの端末を車載するかを決めるに当たっては、本番前週に行った総合テストの結果を参照しました。具体的には、「全般的に測位精度が十分でない」「常に一定のずれを含む測位結果を返す」などの状況が確認された一部の端末を予備機とし、総合テストで精度の良かったものから優先して車載するよう端末利用計画を立てました。

 協働する物品配送チームは宮古島商工会議所青年部の皆さんにより構成されています。大部分の方が、昨年までのシステムなしの運用を経験しており、チームとして配送に関するノウハウの蓄積はとても豊富です。そのノウハウを有効に活かしながら、そこに配送車両の現在位置を全島的に俯瞰するシステムが加わり、両者の協調により配送効率の大幅な向上を狙うことになります。

 この考えに基づいて、当日は、壁面にプロジェクタ投影した地図を配送責任者らが見て車両位置を確認する、あるいはシステム運用担当者に口頭で尋ね、その結果を基に各車両に指令を伝える形で運用が行われました。


写真5 運用中の様子。配送車が出発してまだ間もないためのんびりムード

使って分かる「想定外」のハプニング

 大会当日の配送車は14時間ほど島内を走り回ります。その間、幸いなことに、サーバシステムや車載端末のクライアントソフトウェアに大きなトラブルはなく、コンピュータ上で動作する機能については概ね安定的に稼働させることができました。


写真6 各配送車には役割と番号(この例は「食糧車1号」)を割り当てステッカーを貼付

 一方、予期せず発生したトラブルがあります。それは端末のバッテリ切れです。車載端末から測位情報が届かなくなると、ダッシュボードはそれを知らせる警報を発します。全ての配送車が出発して数時間が過ぎたころ、その警報が続けて発生しました。

 配送車の担当者に確認すると、中には不用意な操作でカーエージェント(車載機能)が停止しているものもありましたが、大部分は端末のバッテリを使い果たし空になっていました。

 車載端末を14時間稼働させるには内蔵バッテリの容量が足りません。それは当初から想定しており、そのため端末からの充電ケーブルをUSBシガーアダプタに接続して、その電源で端末を充電しながら使うよう車載時にセットアップしています。それなのになぜバッテリが空になるのか?


写真7 左が故障したシガーアダプタ。先端部の接点が外れてしまっている

 調査の結果、この原因は複数ありました。「配送担当者の充電忘れ」、これは予想の範囲ですが、残りの2つ、「USBシガーアダプタの故障」と「配送車両のシガーソケットの故障」は全くの想定外でした。

 原因はさておき、バッテリが空になった端末は、そのまま使い続けることができません。そこで予備端末と交換することになりますが、ここで問題となるのが、端末と車両のアサイン変更です。

 幸いにして「車両役割を特定する情報」と「端末を識別する情報」の対応付けに柔軟性を持たせた設計であったことから、その対応を変更することで迅速に対処でき、この時は事なきを得ました。しかしながら、いま考えると冷や汗ものです。

 システム全体が安定して稼働するためには、ハードウェアやソフトウェアが安定的である他に、エンジニアが見落としがちなコンピュータ以外の構成要素にも十分な配慮が不可欠であることを痛感します。

実証実験の評価とまとめ

 レポートを終えるに当たり、今回の実証実験の成否と簡単な評価を記しておきます。

 まず、システム開発および当日の運用については、まずまずの成功と自己評価したいと思います。前述のとおり端末のバッテリまわりで少々トラブルがありましたが、それに起因するシステムの機能不全などは発生せず、競技の最初から最後まで、システムに求められる機能を提供し続けることができました。


写真8 すべての配送を終え戻ってきた配送車から次々に返却される端末

 ご存じの方もいらっしゃると思いますが、今年の大会では、当日の海のコンディションが悪いことからスイムが中止となり、短距離ラン-バイク-ランで競うデュアスロンで行われました。この急な競技内容の変更を受け、一部の配送車両の動きが混乱しましたが、その状況は配送センタですぐ把握でき、次の指示へとつながりました。

 このハプニングへの対応も含め、システムの主たるユーザーである配送責任者からは「今年はシステムにより全車位置を俯瞰でき、的確な指示を出せた。とても安心感があった。効果は大きい」との評価を拝受しました。この評価はすなわち、全島に散らばる車両の俯瞰的な把握を可能にするシステムを投入し、それが配送支援に十分な機能を持ち、大会本番の全日に渡って安定運用されたならば、配送の最適化にとても効果的であることを端的に表すものであり、本実証実験の結論であると考えます。

 最後になりますが、大会終了後、われわれ開発チームはシステムのログを基に当日の車両の動きを可視化するログリプレイツールを作成しました。次のURLでそのムービーをご覧いただけます。大会当日の島内で、華やかな競技とはまた別に、ぐるぐる忙しく走り回る配送車両の動きをぜひご覧いただきながら、このレポートを締めくくりたいと思います。

【関連リンク】

全島を俯瞰

http://imadoko.list.jp/pr/001/imadoko_vlog_birdview.html

センタ周辺

http://imadoko.list.jp/pr/001/imadoko_vlog_closeup.html

※FLASHムービーですのでFLASHを再生できる環境でご覧ください


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