得する(かもしれない)Tips―消費税の課税事業者になる:開業【パーフェクト】マニュアル(8)
年間売上1000万円以下の事業者は消費税を納める義務はないが、課税事業者を選択すると得する場合がある。
※この連載は「開業から1年目までの個人事業・フリーランスの始め方と手続き・税金」(望月重樹著)の第2章を、著者と出版社の許可の下、一部修正して転載するものです。内容は、書籍出版時(2014年1月現在)の法令などに基づきます。実際に開業される場合は、最新の情報をご確認ください。
1 課税事業者になると還付を受けられる場合がある
過去のある一定期間中の課税売上が1000万円を超える「課税事業者」となると、強制的に消費税の納税義務者となりますが、開業前に課税売上が1000万円を超えることはあり得ませんので、初年度は強制的に課税事業者になることはありません。
ただし、積極的に課税事業者を選択することはできます。これは喜んで消費税を払おうという意味ではなく、「開業年の分の消費税の還付を受けられる場合がある」ということです。
消費税は、下記のように算出します。
納める消費税=預かった消費税−支払った消費税
開業の年に多額の設備投資をした場合、預かった消費税より支払った消費税が上回る場合も出てきます。この場合には、上回った分の消費税の還付を受けられます。つまり、還付を目的として「あえて」消費税の課税事業者になるという選択が生まれるのです。
ただし、いったん課税事業者となると、少なくとも2年間は消費税を申告し続けなければなりません。1年目に還付を受けても、2年目に納める消費税額が1年目の還付分を上回れば、総合では課税事業者にならない方が得だったということになります。実際にやってみなければ分かりませんが、慎重に計算を行ってから提出しましょう。
一般的には、店舗や事務所を新築した場合、あるいは、賃貸物件に多額の造作を施す工事を行った場合以外は、課税事業者を選択する必要はないでしょう。
2 消費税課税事業者選択届出書
課税事業者を選択したら、「消費税課税事業者選択届出書」の提出が必要です。届出書は、届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間から、課税事業者としての効力が発生します。
課税期間とは、消費税の納税をする際の計算の基礎となる期間です。個人事業者にとっての課税期間というのは、原則として「1月1日〜12月31日の暦年」のことです。
ですから、その年の分について課税事業者を選択したければ、その前の年の年末までに届出書を提出しなければなりません。「新規開業なら、開業の前年の年末までに届出書を出すなんて不可能では」と言われそうですが、ご安心ください。新規開業の場合には、「開業した年の年末までに提出すればよい」とされています。
消費税課税事業者選択届出書
- 対象者 消費税の課税事業者になりたい人
- 提出期限 通常は課税事業者として申告したい年の前の年の末日まで。ただし新規開業の場合は開業年の年末まで
- 提出先 納税地の所轄税務署長
なお、提出先の税務署も、土曜、日曜、祝日、年末年始(12月29日〜1月3日)は休みとなります。年末が休みだからといって、年明けの1月4日に提出した場合には翌年分からの適用となってしまいます。税務署の開庁日を確認した上で、年末年始の休み前にきちんと提出しましょう。やむをえず12月29日に慌てて提出する場合は、切手を貼ってポストに投函してください。郵便の場合「通信日付印の表示された日に提出した」ことと、みなしてもらえます。
次回は、電子申告の事前準備について説明します。
書籍紹介
開業から1年目までの 個人事業・フリーランスの始め方と手続き・税金
望月重樹著
日本実業出版社 1600円(税別)
開業準備、帳簿の付け方、青色申告、資金繰り、1年目の経営分析……たった1人で開業する人が、1年目を乗り切って2年目以降の経営に弾みを付けるために、何をすべきか、どの順番でやるべきかを網羅した1冊。
望月重樹
税理士法人羅針盤代表社員。2002年税理士試験合格。税理士でありながら社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(AFP)、MAS監査プランナーの資格を持ち、個人事業主の経営・労務管理や起業家のスタートアップをトータルでサポートしている。著書に「わかりやすい減価償却の実務処理と節税ポイント」「わかりやすい役員給与の実務処理と節税ポイント」(ともに日本実業出版社)がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.